1:働くまで……。
雷雨……雷が鳴り響き、ものすごい音を鳴らして雨が降る。
風が吹いて俺を襲った。
なんだか疲れてきたな、あたりは暗いし明かりも見えない。
村もなければ国もない......此処は、森か。
よろよろと歩いていた。千鳥足ってこの事を言うのかもしれない。
誰か、救ってはくれないか。
声も出ない状態で、俺の姿をみて助けてくれる人はよほど善人だ。
俺は……いや、今はやめておこうか。
絶賛魔力切れだった。
魔力切れが起こると人間でも魔物でも倒れてしまう……とても危険な状態で最悪の場合は死に至るらしい。
どうして、俺はこんな状態にあるのか。
早く人間は魔王城に攻め込んでくれねえかな。
取り敢えず攻め込んでくれたら俺の疲れは吹っ飛ぶんだが。
あ、そうだ。自分で滅したらいいのか。
でもそんな力も残っていない……。
俺が魔王だから言える様な立場でも無いが。そう、俺は魔王という立場だ。
人間が恐れる魔王ではあるが人間を襲うつもりは一切ない。
それなのに勇者は全く魔王城に来てくれない。
はぁ……。
グチグチ言ったって誰も聞いてくれない。
気づけば森を抜けていた。
雨は止み、さっきの音が嘘なように閑散としていた。
森を抜けたら、嗚呼……ようやく明かりだ。
人間の国が、門が建っていた。
たしかブルーライズ王国って名前だった気がする。偵察に来た事が一回だけあった。
この国だ。この国の所為で俺は一生囚われ続け、いつか倒れる。
もういっそ、此処で倒れる方がいいのだけど。
何歩か、歩いた。
……もう、駄目かもな。本当に倒れてしまいそうだ。
目の前には地面がある。
俺は派手に転んでしまった。
『ねえ、君!大丈夫、か!......み!』
意識の遠のく中、男の声がした。
少し、寝かせてはくれないか。
◇◇◇◇◇
目が覚めた。
真っ白い天井……魔王城にはなかった部屋……。
「何処だ此処ッ!」
「起きたか……」
横には男が立っていて、聞いたことのある声だった。
人間。そして、ブルーライズの王様だ。
掴み掛かりそうになったが俺を救ってくれた恩だ。辞めておこうか。
「なんで倒れていた?」
「さぁな」
「なにか理由はあるのだろう」
そうだな、理由はこの国に大有りだ。
言ったところで解決する問題でもないが……。
「俺は、魔力切れになるまで人間を待っていた。弱い。お前ら人間は戦闘に向いていない。
それなのに……無駄な死人がでるなら辞めておけ。最初から魔王を倒そうなんて思うんじゃない」
少しの沈黙。王が黙った。そして少し恐れたのだ。
そうだよな。魔族の象徴である真っ赤な目をしているから。
それに……目に魔法陣が刻んであるのが魔王の証拠。
分かりきっているし、魔法陣は呪いとでも言えるくらい隠せない。
自分が堂々と魔王っていう事を明かさないとダメなのだ。
王はようやく、口を開いた。
「すまぬ。だが、聞いてほしい。今の勇者は王子で7歳だ」
「……は?」
前、人間が魔王城の近くに来たのはほんの数日前。
7歳ってまだまだ子供じゃないか!
勇者でもないのに人間は来ていたんだな。
「姫は最近5歳になった」
そりゃ、そうか。
勇者が7歳なら姫は年下かもしれない。
なんで……勇者の誕生がしばらくなかった?
俺が魔王になったのが50年前なのに、
ブルーライズはずっと勇者がいないのを黙っていた??
「魔王に、お願いしたい事がある」
「......なんだ、言ってみろ」
「王子の家庭教師となってくれぬか」
この王は何故魔王に酷く怯えない。
実に面白い。あまり魔王に怯えない人間はいなかった。
少し迷いはしたが、助けて貰った恩がある。
快く引き受ける事としようか。
だが、この格好は魔王とわかって王子が怖がってしまうな。
幻影魔法を使って、姿を変えよう。
幻影魔法__それは、対象に偽物の影を見せる事。
使い方を変えれば自分に幻影魔法をかけ、違う姿に見せる。
分かりやすく言うなら幻覚でも言えようか。
それから、魔王城とは違い綺麗な部屋まで案内された。
フッカフカなベッドに腰を下ろして、窓の外を見る。
明日、王子と顔合わせる事となる。
王に教えてもらった。
王子の名を確かレイといい、姫がマリアだったか。
とりあえず今はぐっすり眠る事としよう。
いい夢が見れそうだ。