表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
アンブロワーズ魔法学校編
90/170

15.モブ令嬢と2のイベント

 何処に行ってもヤバい奴認定されるんだなぁ。シルヴィは学校中で騒ぎになっているルノーの噂話に、もはや笑うしかなかった。

 演習場での騒ぎは、ルノーの名と共に数日で学校中を駆け巡った。実際に見ていない者達は、流石に話を誇張しすぎだと鼻で笑った。

 噂話に尾ヒレが付くのは珍しくないため、その者達の気持ちはよく分かる。しかしフレデリクの話を聞く限り、その噂話は何も脚色されていないようであった。

 そもそもとして、普段のルノーを知っている留学組からすれば「あぁ、うん」でしかない。更に言うならば、「氷が突き刺したのが的だけで良かった」である。

 そう考えると、ルノーは何も悪くないのではないだろうか。授業内容から逸脱したわけでもなし。ただ、ちょっと……。規格外なだけで。


「そうやって、シルヴィ様が甘やかすのが駄目なのですよ。分かっておられますの?」

「う~ん……」

「不満げ~。でも、今回はジャスミーヌ様に賛同しま~す」


 二対一になってしまい、シルヴィは悩ましげに手を顎に当てる。そうなのだろうか。別に、甘やかしているわけでは……。


「目立ちすぎて、私達の時みたいにシナリオが狂うのは大問題よ~」

「そうですわね。わたくし達の時は、ラスボスがルノー様本人であったから上手く纏まった所はありますもの」

「確かに、そこは気を付けないとですよね」


 既に手遅れかもしれないけど……。ヒロイン倶楽部の心は一つになったが、誰も口には出さなかった。


「と、兎に角! ロラさんの記憶が正しければ、今日はイベントがある日ですわ!」

「ジャスミーヌ様、声のボリューム落として~。大きいから~」

「思わず……」

「放課後の校舎に魔物が突っ込んでくるんでしたっけ?」

「そうよ~。ヒロインと攻略対象者達が協力して、魔物を撃退! 絆が深まるイベントで~す」


 シルヴィ達は、そのイベントがちゃんとクリアされるかどうかを確認するために、魔物が現れる地点に向かっていた。勿論、邪魔するつもりはない。物陰から見守るのだ。

 シルヴィが一緒なのは、初日にして黒幕と遭遇した巻き込まれ具合を心配された結果である。セイヒカ2の知識がないシルヴィを一人にすると、戦闘に巻き込まれかねない。そうなると、危険物が本気で危険なのである。


「このイベントで見極めてみせる。ヒロインがどのルートに入っているのかを」

「遠巻きに観察して来ましたけれど……」

「ね~……」


 ロラとジャスミーヌ曰く、ヒロインの様子がおかしい、とのこと。私達の可愛いヒロインではないらしい。

 シルヴィは未だ遭遇していないので、何とも言えないが……。転生者である可能性が濃厚そうだ。


「悪役令嬢の方はどんな感じですか?」

「あ~……。ヴィオレット様ね~」

「確実に転生者ではありません!」

「私、喧嘩売られたわ~」

「わたくしもです。ゲーム通りの嫌味な方でしたわ」

「わぉ……」


 ロラが勘弁してくれと言いたげな疲れた顔をする。その隣では、ジャスミーヌが憤慨したように眉を吊り上げていた。流石は元悪役令嬢ポジション。迫力が凄まじい。

 しかし、シルヴィはそれらに同意する事が出来ずに、困ったような笑みを浮かべるだけだった。何故なら、ナディアから聞いているイメージとズレがあったからだ。

 ナディアは嘘偽りなくヴィオレットを敬愛しているようであった。二人で会話をしていると、いつの間にかヴィオレット様が如何に素晴らしいかを語る会となっているレベルで。

 まぁ、人伝に聞いたイメージなど大して当てにはならないだろう。どうしてもその人の主観は混じるものだ。結局は、自分の目で見て判断するのが確実なのである。


「着いたわ~」


 内廊下から外廊下へと繋がる曲がり角に差し掛かった辺りで、ロラが足を止める。三人は団子のように、角から顔だけを出して外廊下の様子を覗き見た。


「ヒロインは、まだいないようですわね」

「というか、来るのかしら~」

「え!? 来ない可能性があるんですか?」


 ロラもジャスミーヌも気まずげに黙り込む。まさか過ぎて、シルヴィは目を真ん丸にした。


「き、来てくれる筈ですわ」

「そうよ~。私達のヒロインなら……」

「わたくし達のヒロインでしたら……」

「……不安だ」


 だって、私達の可愛いヒロインではなかったと言っていたではないか。

 ヒロイン不在の場合はどうすればいいのだろうか。やはり、光の乙女であるロラが飛び出すしかないような気はした。


「あら~? 前から歩いてくるのって、フレデリク様達じゃない?」

「そのようですわね」


 フレデリクとルノー、トリスタンがこちらに向かって外廊下を歩いてくる。トリスタンが持つ杖を見ながら、何やら話し合っているようだ。ちゃんと外遊の役目を果たしている。


「い、イベントが……」

「まだ! まだ始まらないから~」

「それでも不味いですわよ!」

「速く歩いてルノーくん!」


 大声を出すわけにはいかないので、あくまでヒソヒソ声なのだが。語気が強くなっていくのは許して欲しい。

 三人が歩いてくるのをソワソワと見ていると、不意に三人が歩みを止めてしまった。歩いてきた方へと振り返ったのを見るに、後ろから誰かに呼び止められてしまったらしい。


「ちょっと~!?」

「嘘でしょう!? このような時に誰ですの!?」


 ルノー達に近寄ってきたのは、一人の男子生徒だった。フレデリクよりも少し白に近いだろうか。ミディアム丈の美しい金色の髪をした生徒は、眼鏡のブリッジを人差し指で上げる。

 シルヴィには、その男子生徒に見覚えがあった。トリスタンと話しているのを見掛けて、その時一緒にいたジャスミーヌに名前を教えてもらったのだ。


「あれは攻略対象者の一人、ランメルト・リマー……なんちゃらさん」

「ランメルト・リマージェルね~」

「同じ侯爵家だからって、トリスタン様に馴れ馴れしいですわ! う、羨ましい~……っ!!」

「情緒よ~」

「ジャスミーヌ様、落ち着いてください」


 ハンカチでも噛み出しそうなジャスミーヌを宥めつつ、速く会話よ終われと念を送る。しかし、それが届く事はなかった。

 ランメルトの後ろから更に人がやってきて、会話に混ざり出したのだ。一人は、優しさが笑顔から滲み出ている男子生徒。もう一人は、穏やかな微笑みが優しそうに見える男子生徒。

 前者は、ランメルトと同じ赤色の腰紐を身に付けている。白銀色の髪をショートヘアにした、爽やかな少年であった。


「攻略対象者が集まってきましたわよ!?」

「テオフィル・レノズワールとマリユス・ヴァル・エシュアムだわ~!」

「フルネームをそんなにスラスラと……。ロラ様凄すぎませんか!?」

「名前は出来るだけ一発で覚えることを心掛ける! 社会人スキル!!」

「その話は後でにしてくださいませ!!」


 テンパり過ぎてよく分からない会話を繰り広げてしまっている。だってこの場に、攻略対象者が集まってきているのだ。つまりそれは、もうじきイベントが始まることを意味していた。


「ヒロイン! ヒロインは~!?」

「来ておりません!!」

「えぇ!? 私達のヒロイン……」


 この流れでヒロインだけ来ないなんてことが有り得るのか。いや、今まさに有り得てしまっている。

 ふと遠くの空に何かが見えた気がして、シルヴィは嫌な予感を胸に目を凝らした。それは見間違いではなかったし、確実にこちらに近付いてきていた。


「あの……」

「シルヴィ様?」

「どうされたのですか?」

「イベントが、始まるみたいです」


 シルヴィの言葉に、二人も魔物の存在に気づく。そのままフリーズしてしまった。

 シルヴィは、一周回って冷静になってきた頭で考えた。ルノーを連れてきたのは、このためなのではなかったのか、と。

 いや、違う。どうにも出来なかった時の切り札がルノーなのか。じゃあ、こんな序盤で最終手段を切っては意味がない。しかし……。これを手遅れと言わずして、何をそう言うのか。


「撃退イベント横取りクリア率の高さよ……」


 シルヴィは現実逃避するように、そう溢す。前回のことを考慮して、ルノーをイベント発生場所から遠ざけるべきだったのだ。

 グッバイ、シナリオ……。では、ここからどうするべきだろうか。ルノーの指を鳴らしたであろう仕草を眺めながら、シルヴィは息を吐き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ