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モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
アンブロワーズ魔法学校編
80/170

05.モブ令嬢と魔法の腕輪

 隣国に行けさえすればいい。シルヴィはその後のことは、ロラやジャスミーヌが何とかするのだろうと考えた。それに、ルノーが負けるはずもないのだから。


「分かった。シルヴィ嬢の案で行こう。頼めるか?」

「はい。お任せください。しかし、国王陛下だけは……」

「あぁ、陛下は俺が何としてでも説得してみせよう。この件が隣国との交流のきっかけになるやもしれないからな。悪い話ではないだろう」


 シルヴィの伝手を頼ると言っても、名目は外遊。国王陛下の許可は必須であろう。


「ディオルドレン大公閣下は、現女王陛下の兄君であられます。そのため、伯母様も女王陛下とは仲が良いと伺っております。きっと女王陛下から上手く許可を取ってくださると思うのですよ。大公閣下は伯母様に惚れ込んでいて、全面的に味方ですし」

「あら~? 伯母様からアタックしたわけではなく?」

「大公閣下からの熱烈なアプローチの末に、結婚されました」

「情熱的なのね~。そのお話、詳しく聞きたいわ~」

「大公閣下に聞いたら、詳細に教えてくださるとは思います。途中からただの惚気になっても大丈夫ならですけど」


 その時の事を思い出したのか、シルヴィは気恥ずかしいような。胸焼けしたような。何とも言えない顔になった。


「ディオルドレン大公閣下ってそういう感じだったのね~……」

「名前だけは知っておりましたけれど」

「そうなのですか? まぁ……。隣国とはいえ、大公閣下ですものね」

「……そうですわね!」

「そ、そうよ~。大公閣下ですもの~」


 分かりやすく二人の顔に焦りが浮かんだ。これは……。名前だけはセイヒカ2に出てきたということで、間違いはなさそうだ。まぁ、隣国が舞台なのだから大公閣下の名が出てきてもおかしくはない。

 もしかしなくても、従兄二人は乙女ゲームに関係していないだろうなと、シルヴィは不安になった。しかし、二人は既に卒業している。学校関係者でもないから大丈夫の筈だ。


《魔王妃様、魔王妃様》

「はい?」

《私もお供させてくださいまし》

「あなたも?」

《魔王妃様は血生臭いのがお好きではないと聞いております。私の魔法がお役に立つかと》


 シルヴィは魔物についても勉強はしているが、そもそも魔物については解明されていない事が多い。そのため、詳しくは知らないのだ。

 困ってシルヴィは視線をルノーへと遣る。目が合って、夢見心地でフワフワとしていたルノーがやっと戻ってきた。


「あぁ、それはレーヴムートン。人を眠らせる魔物だよ」

「確かに、過激ではなさそう」

《お任せください。契約いたしましょう。呼んでくだされば、直ぐに駆けつけ》


 ルノーが魔物の頭を鷲掴んだために、魔物の言葉が不自然に途切れる。そして、再びメリメリと力を入れて握った。


「やはり埋めよう」

《メェエェェ!》

「契約? 何様のつもりなのかな。そんなことをすれば、シルヴィが危険だ」

《そうでした申し訳ございません召使いとしてお使いください誠心誠意仕えさせていただきます!!》


 一息に言いきった魔物に、ルノーは満足したのか手を離す。つぶらな瞳からポロポロと涙が落ちてくるのに、シルヴィは魔物の頭を撫でて慰めた。


「殊勝な心がけだね」


 魔物が口にした契約がどういったものなのかは分からないが、危険を伴う行為らしい。ルノーが言うのなら、間違いはないだろう。


「いい子は嫌いではないよ。特別にシルヴィの呼び出しがいつでも分かるようにしておいてあげよう」

《光栄でございます!》

「そんなこと出来るの?」

「うん。この腕輪に魔法を追加すればね」


 ルノーがシルヴィの身に付けている深い紺色の腕輪に人差し指で触れる。細身のバングルがゆらゆらと揺れた。


「確かルノー様から誕生日に頂いたとシルヴィ様から聞いたわ~」

「追加、ということはだ。既に魔法がかかっているのか?」

「えぇ、そうです」

「初耳なんだけどな」


 今年の誕生日プレゼントだったそれをシルヴィは普通の腕輪だと思っていた。ルノーは満足そうな顔で、シルヴィの手首を彩るバングルを撫でている。


「わたくしはてっきり、ただの牽制と独占欲の塊なのかと思っておりましたわ」

「まぁ、それも間違いではないけど」

「その意味も多分にあるということですね~」

「しかし、そのような魔法道具はこの国にはないだろう。どうやったのだ」

「これは、魔界で見つけた鉱石を加工したものです。出来上がりはプラチナに似ていたので、職人はそうだと思ったでしょうね」

「魔界のものなのか!?」


 魔界産とは流石に思っていなかった。シルヴィも驚きで目を丸める。当のルノーはさらりと「そうですよ」と答えた。


「魔法を書き込んだら、闇の魔力のせいかこの色味になってしまって。まぁ、ちょうど良いからこのまま渡したんです」

「ルノー様の瞳の色ですものね~」

「そっか。そうだ。綺麗な色だなって思ってたんだけど、ルノーくんの瞳の色だったんだわ」

「シルヴィ様、ほんとそういう所ですよ~」

「え、」


 ロラに呆れたようなジト目を向けられて、シルヴィは顔を強張らせる。ロラとジャスミーヌに度々、シルヴィ様は鈍すぎる。その割りに的確に口説いてるので気をつけてと言われていたのだが……。こちらも無意識なので、なかなかどうして直らない。


「色々と言いたいことはあるが……。何の魔法がかかっているかだけでも教えておいてくれ」

「……? 魔物の言葉が分かる翻訳の魔法ですよ」

「あぁ~……道理で。シルヴィ嬢と魔物の意思疎通が出来てるように見えたのは気のせいじゃなかったか~」

「ディディエも思っていましたか。僕も不思議に感じていました」

「もはや俺はシルヴィ嬢だからなと流してたよ……」


 この三人組は本当に仲良くなったなとシルヴィはやり取りを微笑ましい気持ちで眺める。しかし、留学にディディエとガーランドは連れていけないのだ。トリスタンは大丈夫だろうか。


「あと、攻撃魔法です」


 しん……と、場が静まり返った。しかし次の瞬間、シルヴィとルノー以外の全員が慌てたように席を立つ。誰かの椅子が衝撃に倒れた。


「外しなさい! シルヴィ嬢、その危険物を今すぐに外しなさい!!」

「攻撃魔法とは、どの程度の威力のものなのでしょうか。兄上は使える属性が多いですから、場合によっては……」

「怖いこと言わないでよ、ガーランド!!」

「そうだな。試してみたらどう?」

「何をだ!?」


 ルノーが楽しげにゆったりと笑む。周りは無視して、言葉通りに新たな魔法を腕輪に刻んだ。紺色の魔力が腕輪を包んで、吸い込まれていく。


「シルヴィが攻撃されなければ、発動はしません。見たいのなら、攻撃してみると良いですよ。命が惜しくないと言うのなら、ですが」

「わぉ……」


 どうやら、かなりの威力の攻撃魔法であることは確かなようだ。シルヴィはどうしたものかと、顔の前で腕輪を揺らす。


「は、外しなさい」

「殿下……。実は外れないのです」

「なん、だと?」

「簡単に外れそうに見えるとは思いますが、外れないのです。どうやっても」

「シルヴィはぼんやりしている所があるからね。着け忘れたら大変だろ? いざと言う時に役に立たないのなら、贈った意味がない」

「つまり、外れない魔法もかかっているのか」


 シルヴィとルノーが同時に頷く。どうやら嘘ではないらしい。それに、ジャスミーヌが「どうしてシルヴィ様は平然としていらっしゃるの!?」とドン引きした声を出した。


「特に困らないので、いいかなって」

「良くはなくってよ!?」

「そこは気にした方がいいわ~」

「だって、外れないんですもの」


 シルヴィが腕輪を手首から抜いて見せようとする。サイズに余裕があるように見えるというのに、何故かつっかえてそれが抜けることはなかった。


「まぁ、攻撃されなかったら大丈夫です」


 シルヴィは諦めたように、腕輪から手を離す。重い重い愛が籠められた腕輪は、シルヴィの手首に収まった。


「トリスタン!」

「うっ!?」


 ディディエがトリスタンの両肩を勢い良く掴む。それに、トリスタンは目を白黒させた。


「トリスタンが頼りだ。姉さんの暴走に気を配りつつ、シルヴィ嬢を最優先で守り抜いてお願い!!」

「トリスタンなら出来ます。というか、やってください。絶対に!」

「そ、そんなぁ……」


 校舎裏に「勘弁してくれーー!!」というトリスタンの悲痛な叫び声が響き渡ったのだった。

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