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モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
ファイエット学園編
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28.魔王と騎士

 何でだろう。シルヴィはルノーと隣合って歩きながら考えた。どうしてルノーはそんなに普通科が良いのか、と。

 確かに“これならシルヴィと同じ普通科に通えるだろ?”みたいなことを言っていた記憶はある。しかし、学園長とやりあってまで残る必要はあったのだろうか。

 ルノーの髪色が白金に戻ったことを受けて、学園は普通科から魔法科への編入をフルーレスト公爵家に勧めた。勿論、フルーレスト公爵家はそれを受けた訳なのだが、ルノーが頑なに拒否したのだ。

 魔力持ちが魔法科に通うのには、理由がある。魔力の扱い方。魔法の威力の制御方法。などなど、それらをしっかりと学ばなければならない。ルノーはいとも簡単にやってのけるが、元来魔法は難しいものなのだ。

 学園長との面談でルノーは“学ぶことなどない”と言ったらしい。まぁ……。ルノーは最強の魔王様なので魔法に関してはそうなのかもしれないが。

 無理矢理にでも魔法科にと言う話も出たらしいが、それなら学園を辞めるとかルノーが言い出し。それならば、試験を行い本当に学ぶことがないのか確かめようという結論に達した。

 売られた喧嘩は買うのがルノーである。シルヴィにしてみれば、別に喧嘩を売られた訳ではないとは思うのだが。ルノーにとっては違うらしかった。

 本気のルノーはそれはそれは、凄かった。ものの見事に試験は筆記も実技も満点。文句の付けようもなかった。

 更に、プライドを傷つけられた教師が三年で習うような問題を態と入れていたらしく“あれは、三年の範囲だったと記憶していますが……。お疲れなのでは? ねぇ、先生?”などとルノーが皆の前で暴露したものだから、教師は膝から崩れ落ちていた。

 つまりルノーは、完全勝利したのだった。

 ルノーは元々、普通科での成績は優秀であった。試験は常に一位であったし、授業態度も悪くはない。

 その理由が、“シルヴィが褒めてくれるから”であったこと。そして、何故そんなに普通科が良いのかの答えが、“シルヴィがいるので”とまったくブレないルノーに、学園長の方が折れた。

 それで学園の平和が保たれるのなら、その方が良いと判断したらしい。“これからも、仲良くしなさい”、と。

 その事をシルヴィは知らないし、ルノーも言う気がない。なので、シルヴィはルノーが優秀すぎて学園側が諦めたと思っているのだ。


「目立つ……」


 ルノーの白金は魔法科でも目立つものであるため、普通科では殊更目立った。シルヴィがつい漏らした言葉を耳聡く拾ったルノーは、視線をシルヴィに向ける。


「この色は嫌い?」

「え? いや、そんなことないけど」

「漆黒に戻そうか?」

「流石に怪しまれるよ」


 何処と無くしゅん……とした顔をしたルノーに、シルヴィは慌てる。結局、シルヴィは負けるのだ。ルノーに甘い。


「大丈夫だよ! 凄く目立ってるけど、あの、だ、大丈夫!」


 何がどう大丈夫なのか。まったく根拠のない言葉であったが、ルノーは嬉しそうに微笑む。シルヴィを丸め込めれば、それで良いのだから。


「うん。これからもよろしくね」

「え? うん、勿論!」


 シルヴィはこくこくと頷く。ルノーの様子に、あれ? と違和感を覚えたがそれを深く考える前に、シルヴィの意識は他のものへと持っていかれてしまった。

 いつもの校舎裏。いつものベンチ。しかし、そこに広がっていた光景は、いつものモノとはかけ離れていた。

 ベンチには、アレクシが腰掛けていた。それだけならば、そこまで驚きはしなかっただろう。アレクシの周りに、沢山の小鳥が集まってきていなければ。

 それこそ、童話のお姫様みたいな状態になっている。まぁ、小鳥が止まっているのは体格の良い男なのだが。


「アレクシさま?」


 斜め下を見つめてまったく動かないアレクシに、シルヴィは恐る恐ると声を掛ける。アレクシがそれに、パッと顔を上げた。それでも小鳥はアレクシから離れない。

 動物に好かれるという設定であったが、ここまでだったとは。アレクシルートでこんな場面があったような。なかったような。そこまで覚えきれていない。


「何してるの?」


 ルノーがそう口にした瞬間、小鳥達が一斉に飛び立った。というか、逃げたという方が正しい。動物の本能とは凄いもので、ルノーは特に小動物に好かれないのだ。


「あらぁ……」


 ルノーがちょっと不服そうに口をへの字に曲げる。何とも言えない空気になって、シルヴィは苦笑した。


「アレクシ様がこちらにいらっしゃるなんて、珍しいですね」

「あ、あぁ、その、少しフルーレスト卿にご相談が……」

「ルノーくんにですか?」


 重々しく頷いたアレクシに、シルヴィは視線をルノーに向ける。ルノーはマジマジと値踏みするようにアレクシを見ていたかと思えば、「ふぅん」と意味深に笑んだ。


「構わないよ。話くらいなら聞いてあげよう」

「本当ですか?」

「でも、ベンチにシルヴィが座れないな」


 暗に“退け”と言っているルノーに、アレクシは慌てて立ち上がる。それに、シルヴィの方が慌てた。「花壇のお手入れするので、お気になさらず!」と両手を振る。


「そうなの?」

「うん。なので、お二人でごゆっくり!」


 シルヴィはルノーが余計な事を言わない内にと、そそくさと花壇の方へと向かった。

 それを目で追ってから、ルノーはベンチへと腰掛ける。アレクシもおずおずと元の位置へと収まった。


「それで?」

「はい。実は最近、迷いが生じておりまして。グラーセス子爵家は騎士の家門です。それも、魔法と剣を組み合わせた魔法騎士の」

「知っているよ。現騎士団長は君の父親だろう」

「ご存じでしたか。そうです。父は暗いですが金色持ち。長兄もです。次兄は白銀持ち。俺だけが、灰銀と魔力量が低い」

「あぁ、なるほど。だから、“対魔の剣”なんて持っていたんだね」


 図星を突かれたのか、アレクシがびくっと体を強張らせる。そして、素直に頷いた。


「魔力がない分、剣の腕を磨いてきました。しかし、限界を感じてしまい……。そんな折、フルーレスト卿の弟君が対魔の剣を話題に出されたのです」

「ガーランドが?」

「はい。対魔の剣というよりは、フルーレスト卿の事をと言った方が正しいかもしれませんが」

「彼のそれは、話半分に聞くことだね」

「いえ、そんな。フルーレスト卿の腕前は俺も実際に見ておりますから」


 ルノーは、まったくと言いたげに溜息を吐いた。ちゃんと兄の顔をしていた。それに、アレクシは仲の良いご兄弟だと羨ましく思う。


「まぁ、いいよ。それで、対魔の剣を使ってみたんだね?」

「はい。好奇心に勝てず……。それで、」

「思ったよりも手に馴染んでしまった?」


 意地悪く口角を上げたルノーに、アレクシは困ったような情けない顔をした。


「父には相談出来ません。答えなど決まりきっています。魔法騎士に対魔の剣は相応しくないのですから」

「そうだろうね。対魔の剣はそもそも魔力がない者が使うこと前提に作られている。魔力を通さないからこそ、魔法の核に触れられる。例外は存在しない。己の魔力であろうとも」

「はい。魔法と組み合わせて振るうことは不可能です。対魔の剣を選ぶと言うことは、魔法を捨てるということ」


 本格的に悩んでいるらしいアレクシを一瞥して、ルノーはバレない程度に溜息を吐いた。答えは酷く簡単なことだ。それを何故こうも複雑にするのかと。

 ここで答えを言ってしまってもいい。しかし、折角だ。フレデリクが傍に置いているのだから、実力はあるのだろうが……。自分で見てみるのもまた一興。

 彼はシルヴィの役に立つ人間だろうか。


「構わないよ」

「……?」

「少し、遊ぼうか」


 ルノーの提案に、アレクシはきょとんと目を瞬いた。

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