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モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
ファイエット学園編
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21.モブ令嬢と学園祭

 大丈夫だろうか。シルヴィはフレデリクに引き摺られていくルノーに手を振りつつも、とても心配になった。

 サマーバケーションが終われば、あっという間に学園祭だ。基本的に学園祭で中心になるのは、商家の生徒達。なので、シルヴィのクラスでも友達のニノンがその手腕を遺憾無く発揮していた。

 そして乙女ゲームで、学園祭は色々と重大なイベントである。例に漏れず、この【セイヒカ】でもだ。

 学園祭は二日間。一日目は、攻略対象者と仲を深めるイチャイチャイベント。しかし、この【セイヒカ】には魔物撃退イベントが存在する。つまり、二日目はその魔物撃退イベントなのだ。勝負は二日目ということになる。

 今回の魔物撃退イベントは、食堂の比ではない負傷者が出る。死者は出なかった筈であるが、かなりの重傷を負っていた。モブが。怖すぎる。

 しかし近頃の魔物達の感じからして、このイベントが発生するのかは怪しい。まぁ、トリスタンが動いている以上、どうなるかは分からないので油断は禁物であるが。

 ヒロインと悪役令嬢もこのイベントに向けて、動いているようだ。ディディエとガーランドが警戒を強めていた。

 一日目は大丈夫だろうと思っていたシルヴィは、クラリスとニノンと一緒に回る約束をしてしまっていた。そのため学園祭はどうするのかと聞かれ、そう素直に答えたのだ。

 その時のディディエとガーランドの顔は凄かった。二日目はルノーと一緒にいる予定だと慌ててフォローをいれたが、空気が重すぎてシルヴィは逃げようかと思った程だ。


「お、お任せください」

「殿下に、殿下に相談しよう」

「そうですね。何とか、兄上の単独行動は阻止しなくては……」

「なんとか……」

「なる、でしょうか……」


 そんなに? とシルヴィは思ったが口に出すのはやめておいた。国が滅びるのではないかというレベルの深刻さだったからだ。

 そして、学園祭当日。どうやらディディエとガーランドは、生徒会の見回りにルノーを巻き込む作戦に出たようだ。

 フレデリクもルノーを一人にするよりも、そちらの方が安全だと判断したのか。態々フレデリクが迎えに来て、渋るルノーをほぼ無理やり引き摺っていっている。


「ルノーくん、頑張って」

「何で僕が」

「どうせ暇していたのだろう?」

「それは……」

「よく我慢したな? シルヴィ嬢のためだと、こうもお利口になる」

「放っておいてください」


 ムスッとルノーが不貞腐れる。我慢。そうだ。ルノーはかなり我慢した。本音を言えば、二日間共にシルヴィと一緒にいたかったのだから。

 しかし、シルヴィが望むのならルノーは叶えてあげるのだ。些細なことから、重大なことまで。どんなことであろうとも。


「校内の見回りなら、シルヴィ嬢の楽しむ姿も見られて一石二鳥だぞ」

「問題行動をする者を発見した時は?」

「手も足も出さぬこと。口頭で注意してくれればいい」

「ふぅん……。聞かない場合は?」

「出来るだけ穏便にな。拘束程度で済ませろ」

「まぁ、学園祭が中止になっては困りますからね。上手くやることにします」

「そうしてくれ」


 ルノーはシルヴィに手を振り返す。それに、シルヴィがほっとした顔をした。


「大丈夫そうね」

「だと良いのだけれど……」

「殿下もご一緒なら大丈夫なんじゃ」

「そう、だね」


 寧ろ、それも不安要素ではある。フレデリク居るところ、ヒロインありなのだから。まぁ、ディディエとガーランドが上手くやってくれると信じよう。

 シルヴィは折角なので、ルノーの事は生徒会メンバーもとい、攻略対象者達に任せて学園祭を楽しむことにした。きっと、何とかなるだろう。問題は明日なのだから。


「よし! まずはクラスのお店当番だね!」

「そうね。楽しみだわ」

「任せてください! 繁盛間違いなし!」

「ニノンが燃えてる」

「えぇ、凄いわ」


 ニノンの商売人魂がメラメラと燃え盛っている。シルヴィのクラスは屋台で、クレープのようなものを出すことになっている。シルヴィの感覚ではクレープなのだが、この世界では違うらしい。まぁ、似たようなものだ。


「シルヴィが料理上手で助かったわ」

「そうかな?」

「クラリス様はなかなかに凄かったですもんね」

「ニノン?」

「いえ、何でもありません」


 まぁ、貴族の令嬢が厨房に立つことなど滅多にない。シルヴィは前世でそういうことが好きだったし、ルノーのためにお菓子を作る機会も多かったので自然とそうなっただけの話なのだ。両親が許してくれたのもある。

 貴族の令嬢がそのようなこと! なんて言う家もあるだろう。そういう世界なのだ。クラリスの家がそうであるかは分からないが。


「いいのですわ。アレクシ様は甘いものが苦手ですもの」

「そうなんですか?」

「そうです。アレクシ様は辛いものの方が好きなのですよ」

「へぇ~、オススメの香辛料とか教えましょうか?」

「ニノンの家はそういう物も取り扱っているのでしたわね」

「そうです! いります?」

「えぇ、今度教えて欲しいですわ」

「お任せください」


 クラリスとニノンの会話を聞きながら、シルヴィはアレクシを思い浮かべた。辛いものが好き。そうだっただろうか。ヒロインが作ったお菓子を貰っていた気がする。あれは、ヒロインのために無理していたということか。

 それが良いのか悪いのかはアレクシにしか分からないが、取り繕わずにありのままでいられるのならクラリスとの婚約は、きっと幸せなものになるのではないだろうか。そんな風にシルヴィは感じた。


「ルノー様は甘党だものね」

「え? うん。そうよ」

「辛いものはお嫌いなんですか?」

「うーん、そんなことはない筈だけれど……。あぁ、でも苦いものは苦手かもしれないわ」

「へぇ~、苦いもの」

「野菜とか。苦いと凄く渋い顔をするの」

「あらあら、アレクシ様も似たようなものよ。甘いと凄い顔をするの」


 想像して、シルヴィは思わず笑ってしまった。それに釣られて、クラリスも笑い声を漏らす。それを見て、ニノンはもごもごと何かを言いたそうにした。

 それに気づいて、シルヴィとクラリスは顔を見合わす。「ニノン?」と首を傾げたシルヴィを見て、ニノンは意を決したような顔をした。


「み、身分差の恋は、駄目でしょうか?」

「あらまぁ……」

「好きな方がいるの?」

「はい。でも、やっぱり私みたいな」

「何で?」

「へ?」

「貴族の方なの?」

「いえ、その、有名な商家の跡取りの方で。あまりにも規模が違いすぎるといいますか」


 あたふたとニノンが駄目だと思う理由を羅列していく。それに、クラリスは気まずそうな顔をした。この世界ではそう言ったことを重要視するからだ。


「ニノンが後悔しないことをしたら良いと思うの」

「後悔しないこと……」

「周りにこそこそ言われたくないなら、黙らせたら良いってルノーくんが言ってた。私は平和に暮らしたいからあれだけれど」

「黙らせるってどうやって……」

「んー……。文句の付けようがないほど良い女になるとか?」


 やめておいた方がいい。そう言われると思っていたニノンは、少し動揺する。どれだけ茨の道だろうと、シルヴィならば進むのだろうか。いや、茨のない道を上手く選びそうな所はある。そして、茨の道しかなかった場合はルノーが全部吹き飛ばして更地にしそうだ。

 黙ってしまったニノンに、シルヴィは不思議そうに目を瞬く。そうか。愛されればいい。誰が何を言ってこようとも守って貰えるくらいに。


「まぁ、最終手段は駆け落ちかな?」


 ふわっと当たり前なことみたいなテンションで笑ったシルヴィに、ニノンは衝撃で凄い顔になった。


「逃げるなら言ってね。手伝えると思うの」

「あ、え?」

「え?」

「シルヴィはこういう所がありますのよ」


 慣れているのか、クラリスは優雅に微笑んだ。それに、ニノンはポカンと口を開ける。

 あぁ、なるほど。愛されるだけでは駄目だ。覚悟がいる。どんな手を使ってでも手に入れてやるという覚悟が。

 愛するのだ。誰にも負けないくらいに。守るのだ。どんな魔の手からも。鋼鉄の心臓を手にいれなければならない。


「わ、私負けません!!」


 両手でガッツポーズを作ったニノンに、シルヴィも同じポーズになる。


「頑張ってね!」

「はい!」


 シルヴィは知っている。この世界において、もっとも重要なこと。それは、“愛”なのだと。真実の愛こそが、【セイヒカ】(このせかい)の理。

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