表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
アンブロワーズ魔法学校編
112/170

37.モブ令嬢と一触即発

 扉はどうなったんだろうか。段々と落ち着いてきたシルヴィは、惨状になっているであろう部屋を直視したくなくて、クローゼットから出られずにいた。

 しかし状況的にも、そろそろ諦めて現実を見るべきであろう。シルヴィは重々しく溜息を吐くと、淑女らしからぬ居住いを正すところから始めた。


「シルヴィ様!!」

「ご無事ですの!?」

《魔王妃様ぁあ!!》

「うっわ!? 何これ泥棒でも入ったの!?」

「泥棒ではなくて悪漢ですわよ!!」


 慌てすぎてよく分からなくなっているロラとジャスミーヌの会話に、シルヴィは苦笑する。というか、目眩ましの魔法はどうなっているのだろうか。解除方法が分からないのだが。

 ひとまず、シルヴィはクローゼットから出てみた。二人だけではなくメェナにも気付いた様子はない。


「ロラ様、ジャスミーヌ様、メェナ」

「シルヴィ様!? 良かった、無事なのね~?」

「何処にいらっしゃるの!?」

「う~ん……」


 これは、困った。いや、待てよとシルヴィは抱えたままだった兎の人形へと視線を遣った。もしかしてと、人形をそっとベッドへと置く。


「わぁあ!?」

「きゃぁあ!?」

《おや、そちらにいらっしゃいましたか》


 二人の目にはシルヴィが急に現れたように見えたため、絶叫が部屋に響き渡った。メェナは平然としているが。


「私です!」

「えぇ!? シルヴィ様!?」

「驚くではありませんか!!」


 まぁ、それはそうか。シルヴィは自分でも驚くなと思ったので「すみません」と謝っておいた。

 シルヴィは恐る恐ると部屋の中を見回してみる。ロラが言っていた意味がよく分かった。荒らされて見るも無惨になってしまっている。


「ナディア様に申し訳ない」

「シルヴィ様のせいじゃないわよ~」

「ご自身の身の安全が第一ですわよ」

「ありがとうございます」

《ご無事で何よりでございます!》

「メェナもありがとう。約束したからね」

《はい!!》


 シルヴィはメェナの頭を撫でながら、先程あった出来事を搔い摘んで二人に説明した。二人はシルヴィの話を聞き終わると、衝撃を受けた顔で兎の人形を見る。


「ウサミにまで?」

「何て抜かりのないこと……」


 そこ? とは思ったが、それはシルヴィも否定はしないので何も言うまい。


「でも、お陰で無事に切り抜けられました」

「流石はルノー様よね~」

「外の様子はどうなってますか? やっぱり学園中に魔物がいます?」


 シルヴィの質問に、ロラとジャスミーヌは顔を見合わせる。そして、何とも言えない顔をした。それに、シルヴィは首を傾げる。


「えっと、全勢力をルノー様に割いてると思われま~す」

「……え!?」

「おそらくですけれど、反魔王派の数はそれほど多くはないのではと」

「そういえば、ルノーくんも怖じ気づいた者がいるって言ってました」

「怖じ気づいた数が多かったのか。そもそもが少数の組織だったのか。詳しくは分からないけど、ゲームとは比べるまでもなくって感じよ~」

「ルノーくんの魔界での存在感みたいなのを垣間見た気がします」

《我らが魔王様ですので!!》


 本人のやる気の有無に関わらず、彼はやはり魔王であるのだろう。改めてそう認識すると、やはりモブ令嬢の自身には荷が重いような。


「ですから、外に出ても問題はありませんわ」


 ジャスミーヌの言葉に、シルヴィの思考が掻き消される。今はそんな事を考えている場合ではなかったのだった。

 シルヴィはどう動くのが最善かと思考を巡らす。このまま無闇に動かないことが、最も安全ではあるだろう。しかし、大団円ハッピーエンドのための一手としては、悪手。


「勿論、シルヴィ様も行くでしょ?」

「わたくし達がおりましてよ」


 頼もしい友達が二人、そして……。圧倒的ヒーローが手紙で駆け付けてくれるはず。そう、はずでしかない。不確定要素は多かった。

 しかし、伯母もいつか言っていた。“思い切りが大事な時もあるのよ、シルちゃん。アミファンスの人間ならば、運でさえも読み切りなさい”、と。

 こちらには、前作ヒロインと今作ヒロイン。ハッピーエンドのフラグは揃っている。ハッピーエンドの世界線で、運がヒロインを裏切ることなど有りはしない。


「行きましょう。目指すは大団円ハッピーエンドのみ!」


 前を見据えたシルヴィに、二人は「おー!!」とお約束で拳を上に突き上げる。それに、いい感じに肩の力が抜けたシルヴィは、二人に倣って「おー!」と笑んだ。

 三人とメェナは女子寮から出ると、迷うことなく騒ぎの中心へと走っていく。メェナは見つかると騒ぎになる恐れはあったが、姿形は小さな羊なので誤魔化せる方に賭けた。

 シルヴィはちらっと白銀のドラゴンを見遣る。想定よりも小柄に見えるのは何故なのか。上空から落下してきたルノーが、もっと大きく見えたからだろうか。


「白銀のドラゴンとイヴォンは兄弟のように育ったのよね~。大団円ハッピーエンドなら、白銀のドラゴンも無事じゃないと」

「ルノー様はシルヴィ様の制止しか聞きませんわよ!!」

「そこは、殿下の言うこと聞いて欲しい!!」

「この状況を考えるとフレデリク様も制止するかどうかビミョ~」

「まぁ、止める理由はありませんわよね。『やりすぎるなよ』くらいならばあるかもしれませんけれど」

「確かに!!」


 それはそうだ。何とか最終決戦の火蓋が切られる前に辿り着きたいところである。

 そう、シルヴィ達は思っていたというのに。


「シルヴィ・アミファンス!!」


 後ろからのその声に、立ち止まってしまったのは何故なのか。しかもそれは、シルヴィだけではなかった。ロラもジャスミーヌも足を止め、後ろを振り返ってしまう。

 そこには、どれだけ走り回ったのか、酷く息を切らしたイヴェットが立っていた。


「逃がさねぇぞ! 絶対一緒に来て貰う!!」


 もはや手段は選ばないつもりらしい。イヴェットがシルヴィに向かって杖を構える。その顔には、焦燥が滲んでいた。


「シルヴィ様さがって!」


 前に出たのは、ロラであった。腰に吊るした聖なる剣を抜いたロラは、迷いなくそれを構える。そこには、ヒロインが立っていた。


「舐めないでよね。私だって、ヒロインなんだから!!」

「意味分かんねぇこと言ってんなよ! 邪魔するなら、容赦しねぇぞ!!」


 一触即発の雰囲気に、シルヴィが息を呑んだ。その時であった。腕輪がキィン……と不穏な音を立て光り出したのは。


「えっ」


 それに気付いたシルヴィは、目を点にした。隣にいたジャスミーヌも驚いた声を出している所を見るに、シルヴィの見間違いとかではないようだ。


「待って!? まだ攻撃されてないから!!」


 思わず大きな声を出したシルヴィに、ロラとイヴェットの視線も向く。事情を知っているロラの顔色がさっと変わった。


「なんで!?」

「分かりません!!」

「何に反応したと言うのです!?」

「それも分かりません!!」


 意味がないのは分かりつつもシルヴィは、腕輪をしている方の腕を伸ばし上下左右に振ってみる。深い紺色の光は消えるどころかどんどんと強くなっていった。


「キャンセル! キャンセルしてくださいませ!!」

「どうやってですか!?」

「ひとまず、声に出してみて!」

「キャンセル!! キャンセルしてお願い!!」


 必死に訴えたが、腕輪は光り続ける。どうやらキャンセルは不可のようだ。しかし、攻撃魔法はまだ発動していない。ということは、このままイヴェットさえ魔法を放たなければ。


「クソッ!! 何する気か知らないが、舐めるなはこっちのセリフなんだよ!!」


 イヴェットの持つ杖が深紅に煌めく。シルヴィの脳が瞬時に危険を知らせた。イヴェットは勘違いをしたらしい。先手必勝だったのだろうが、この腕輪はその攻撃をカウンターで迎え撃つもの。


「だめ!!」

「“ルミフェール”!!」


 イヴェットが呪文を唱えた声を耳が拾った瞬間、シルヴィはロラよりも前に飛び出した。このままでは、ロラが危ないと判断したからだ。

 真っ直ぐにシルヴィに向かってくる光の玉を容易く掻き消す。凄まじい威力の炎魔法が全てを飲み込み、爆音を響かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ