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モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
アンブロワーズ魔法学校編
108/170

33.魔王と2の黒幕

 誰かにつけられている。ルノーはどうしようかと考えて、用を聞いてあげる事にした。

 今日はシルヴィが帰ってくる日だが、それまでかなりの時間がある。課題は昨日終わらしてしまい、ちょうど暇を持て余していた所だった。

 ルノーは敢えて、人気のない場所へと歩を進める。どんどんと木々が生い茂る奥へ奥へと向かっていくルノーに、後ろの気配は怖じ気付いたのか魔力を不安定に揺らした。

 しかし、それは当然の事であるのかもしれない。何故ならルノーは、どう考えても図書館に向かっていたのだから。これは、どこをどう見ても誘われている。つまりそれは、尾行に気づかれている事を意味していた。

 途中で逃げるかと思っていたが、後ろの気配は不安そうにしながらもしっかりと付いてくる。ルノーはこの辺りで良いかと、足を止めた。木の幹に凭れ掛かると、流し目で相手が隠れているであろう場所を見遣る。


「何の用かな?」


 暫しの間のあと、諦めたのか気配の正体が木の陰から出てきた。いつかと同じ、敵意の滲んだ深紅の瞳と目が合う。


「あぁ、君だったのか」

「クソッ!」


 悔しそうに、イヴェットが悪態をつく。目眩ましの魔法をかけていたというのに、こうも簡単に気付かれたのだから舌打ちもしたくなるだろう。


「大して驚かないんですね」

「あぁ、噂好きな者がいてね」


 暗に全て筒抜けだと言ったルノーに、イヴェットの顔が更に険しくなる。ルノーは特に気にした様子もなく、「それで?」と用件を聞いた。


「……何で人間の味方をしてる」

「可笑しなことを聞くね。僕は人間なのだから、人間の味方をするに決まっているだろ?」

「ざっけんな! 可笑しいのはお前だろーが! 魔王のくせに!!」


 取り繕うのをやめたイヴェットの言葉に、ルノーは不思議そうに首を傾げる。ルノーが魔王だと分かっているのなら、この質問自体が可笑しいということにイヴェットは気付かないのだろうか、と。


「君は何を怒っているの?」

「お前が、ボクらの邪魔するから!」

「君は何か勘違いをしているみたいだね」

「はぁ!?」

「僕に喧嘩を売ったのは、君達の方だろう」


 そもそもこれは、人間の味方をしているとかそういう類いの話ではない。ルノーはただ単純に、反魔王派などと名乗り面倒事を起こそうとしている連中を殲滅しに来ただけなのだから。

 寧ろルノーからすれば、先に邪魔をしてきたのはイヴェット達の方であった。シルヴィとの婚約が白紙になったらどうしてくれるのか。


「魔界の王になりたいそうだね。それなら、簡単な方法があるよ」


 ゆったりと好戦的に笑ったルノーに、イヴェットは気圧されたのか一歩後退る。


「僕を殺すといい。そうすれば、誰もが認める魔界の王だ」


 ルノーがそうなのだから。とは言っても、ルノーはなりたくてなった訳ではないし、別に魔王の座に何の執着もなかった。

 しかし、譲ると言っても魔物達は納得しないだろう。それに、ルノーとて白銀のドラゴンに従う気が微塵もないのだ。その行為に意義を感じないので、殲滅した方が楽なのである。


「こ、後悔してもしらねぇからな!」

「へぇ……」


 騒ぎを起こされる前に潰すため、ルノーは態々隣国まで来た。しかし、シルヴィは言っていた。これは、トリスタンの“功績”になると。

 功績にするためには、騒ぎは起こされた方が都合は良さそうだ。上手くやれば、フレデリクの手柄にも出来るだろう。

 シルヴィの願いを全て叶えるためなら、多少の面倒は目を瞑ろうではないか。要は、少しの犠牲も出さなければ良いだけの話だ。


「いいね。期待しているよ」

「……っ!」


 笑みに余裕を滲ませたルノーに、イヴェットは何も言い返せずに歯噛みする。分かっていた。正面からやり合って、この男に勝てる訳もないのだと。手立てが必要だ。


「吠え面をかくことになるからな!!」


 イヴェットは吐き捨てるようにそれだけ言うと、来た道を走って引き返して行く。その後ろ姿を眺めながらルノーは、「よほど命が惜しくないらしい」と呟いた。

 さて、ではこの後は何をして暇を潰そうか。ルノーは思案するように、視線を下へと向ける。こちらの様子を窺うメェナと目が合った。


「何してるの?」

《それが、魔王様の魔力を感じなくなったと申しますか、魔法が消えたと申しますか……。兎に角、魔王妃様の腕輪が可笑しい気がするのです》

「ふぅん……」


 流石に、位置情報が分かるような魔法は込めていない。シルヴィに嫌われては事だからだ。

 まさかメェナがこのような形で役に立つとは思っていなかった。まぁ、メェナの言い分が正しいかどうかはまだ分からないが。

 正しいと仮定するとしよう。腕輪に異変、か。原因は、この前のように光の魔力の影響しか考えられない。そうすると……。


「だから、聖なる一族は嫌なんだ」


 ルノーは忌々しそうに眉根を寄せる。一緒に出掛けたメンバーからして、危険な状況にいる訳ではないだろう。シルヴィともそういう約束をした。まぁ、有耶無耶にされた感じはあるが。

 これは、説明をして貰わなくては。困ったように笑うシルヴィが浮かんで、ルノーは仕方がないなと溜息を吐く。結局ルノーは、いつもシルヴィを許してしまうのだ。


「早く会いたい」


 懇願するような声と軽いフィンガースナップの音が同時に聞こえて、メェナはキョトンとルノーを見上げる。瞬間、パキンッと複数の何かが空中で氷漬けになった。

 驚いてメェナが目も口もまん丸に開ける。何かは、四方八方から飛んできていた矢であった。ルノーが開いた手をぐっと握ると、矢がバラバラに砕け散る。


「暇だな」


 次いで、握った手を再び開いた。砕けた矢の破片を含んだ氷の欠片が、四方八方に弾けて飛び散る。


「うわっ!?」

「ぐっ!?」


 殺傷能力は無いに等しい。そういう風に魔力を調整したのだから。ただの虚仮威し。しかし彼らには、充分に有効であったらしい。

 慌てたように、全ての気配が去っていく。いつから居たのだろうか。イヴェットよりも、こそこそするのが上手いようだ。

 まぁ、どの会話を聞かれていたとしてもだから何だという話で。何故そんな事を知っているのかとなり、自ら下手人だと認めることになるだけ。ルノーが魔王である証明など、どうやってするというのか。

 まぁ、シルヴィのためならルノーが白状するかもしれないが。シルヴィは味方であるので、そんなことになりはしないという自信がルノーにはあった。


《見逃してよろしいので?》

「あの子が、首はいらないと言うものだからね」

《そうでしたか。余計なことを申しました》

「構わないよ。他に報告は?」

《ございます。リュムールラパンが、開戦は近いだろうと》

「うん。楽しみだね」


 急に乗り気になったルノーに、メェナは何があったのかと目をパチクリさせる。


「シルヴィに頼まれ事をされたと言っていたね。しっかりと役に立つんだよ」

《御意に》


 メェナは一度平伏すると、魔界へと戻っていった。ルノーは木から体を起こすと、「君も、首が飛ぶのは嫌だろ?」と溢す。

 ルノーのスタンスは、変わらない。役立たずはいらないのである。いや、そうか。首もいらないのだった。まぁ、シルヴィに知られなければ大丈夫だろう。

 ルノーは時間を潰すために、当初の目的通り図書館へ向かうことにした。その道中。シルヴィに一秒でも早く会いたいので、本を借りて正門で読みながら待とうとルノーは決める。

 ルノーのためだけに、ルノーのことだけを考えて、お土産を買ってきてくれるとシルヴィが言い出したのだ。ふわふわとするこれは、浮かれているのだろう。

 シルヴィが真剣にルノーのために悩む姿を想像して、ルノーは危うく魔力のコントロールを誤るところであった。

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