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モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い  作者: 雨花 まる
アンブロワーズ魔法学校編
107/170

32.ヒロイン倶楽部と妙な魔力

 本当に凄い。シルヴィは、「このアイテムは、後から必要なの」「これは、こうするのよ」と流石の記憶力で迷いなく進むロラに驚嘆の眼差しを向ける。

 今日中に行ける所まで行こうという話になり、ロラを先頭にダンジョンへと入った。しかし入口からこの調子なので、今日中に攻略してしまいそうだ。

 シルヴィは特にやることもなさそうなので、ダンジョンの中をキョロキョロと見学する。RPGで勇者の剣みたいなのが封印されている神殿風である。

 石像かと思ったら敵で、動き出して攻撃してくる。みたいなことは起こらず、隠されているスイッチを押したり、拾ったアイテムをパズルのように組み合わせて窪みにはめたり。

 謎解きをロラが一人で請け負ってくれているので、正直手持ち無沙汰ではある。本気で何故、攻略対象者達が必要なのだろうか。いや、ゲームでは力を合わせて解いていた気もする。


「ロラさん、ちょっと」

「は~い?」

「アイテムを取り忘れてますわよ」

「やだ~!? ありがとう、ジャスミーヌ様。やっぱり、一人じゃ限界があるわね」

「ふむ。そろそろ疲れが出始めたのもあるのかもね。ここらで、寝床の準備をしようか」

「流石に、徹夜は無理がありますからね」


 リルの言葉に賛成して、今日はここまでということになった。謎解きが用意されている部屋で眠ることにして、寝床を確保する。

 手際よく焚き火を用意するリルが王女殿下ですと言われたら、リルを知らない人は引っくり返ることだろう。火の番をする順を決めて、シルヴィは揺れる炎を見ながらウトウトと眠りについたのだった。


 翌朝、火の始末をしっかりとした事を確認して、シルヴィは伸びをした。気合いを入れるようにリルが「よし!」と言った声を耳が拾う。シルヴィは出そうになった欠伸を口を閉じて我慢した。気を緩めるには、早すぎる。


「もう少しで、最奥に到達するわ~。余裕で今日中には帰れるからね」

「それは、助かります。ルノーくんにお土産買わないとなので」

「まぁ、街の視察という名目だからね」

「私もフレデリク様に買って帰ろ~!」

「わたくしも、トリスタン様に」

「じゃあ、私もマリユスに買って帰ろうかな。最後の最後まで不満そうだったから」


 見送りにきたマリユスの不服そうな瞳を思い出して、リルは苦笑した。


「マリユス様は、リル様の護衛であることに相当の誇りを持っているんですね」

「そうだね。もう少し、軽い感じで良いんだけどな」

「それは、ちょっと無理じゃない~?」

「王族の護衛なのですから」


 そんな事を言っている間に、ロラが謎解きを終えたらしい。閉ざされていた扉が開いた。昨日と同様に、ロラを先頭に進んでいく。


「えっと~……。あと、謎解きは何個あったかしら~」


 ロラが記憶を探るように、立てた人差し指を顎に当てた。瞬間、「ロラ嬢!!」というリルの大声が神殿内に響く。

 シルヴィもジャスミーヌも、呼ばれた当人であるロラも状況を理解できずに目を丸めた。そんな三人を置き去りに、リルだけが動く。

 ロラが「んぇ??」と間の抜けた声を出した時には、既にリルの手には矢が握られていた。どうやら、飛んできた矢をリルが素手で掴んだらしい。


「どっ、えぇ??」

「矢!? ロラ様無事ですか!?」

「いったい何処から飛んできたのです!?」

「罠ですか!?」

「そんなのゲームには、なかったわ~……」


 ロラが呆然とそう溢す。腰が抜けたのか、ヘナヘナとその場に座り込んだ。シルヴィとジャスミーヌは慌ててロラの側に屈む。

 リルは暫く無言で掴んだ矢を見ていたが、不意に瞳を鋭く細めた。リルの手の中で、矢柄がバキィッ! と折れる。


「わぉ……」

「妙な魔力を感じる」

「妙な魔力?」


 リルが視線を奥まで続く廊下の先へと遣る。釣られるようにして、シルヴィも顔をそちらへと向けた。

 確かにリルの言う通り、“妙”と表現するしかない。そんな魔力が漂っていた。非常に微かであるが。


「この感じ……。罠と言って間違いはなさそうだね」

「な、何でそんなものがあるの~?」

「分からない。しかし、“我々の邪魔をしたい誰かがいる”ということだけは確かだ」


 リルが腰に吊るしていた剣を抜く。


「もしもを想定して持ってきてはいたが、まさか本当に使うことになるとは」

「リル様……」

「心配しないで。言っただろう? 君達は私が必ず守ってみせると」


 リルがゆるりと笑む。刹那、リルは既に足を踏み出していた。

 飛んで来る矢を的確に捉え、剣を振るいながら廊下を駆け抜ける。リルが足を止めた時には、矢はバラバラになり地面に落ちようとしていた。

 何事もなかったかのように、リルが剣を血振りのような所作のあと鞘に納める。佇まいはまるで歴戦の猛者のようであった。


「大した罠ではなかったが……」


 この漂う妙な魔力は何なんだ。リルは険しい顔で散らばる矢の残骸を見つめる。

 教会の過激派連中ではないだろう。あいつらの標的はあくまでも闇の魔力持ちだ。それに、このダンジョンの存在を知っている筈がないのだから。


「り、リル様ってば凄~い」

「圧倒的ヒーロー」

「ですわね」


 矢の残骸を踏みつけにしながらリルが戻ってくる。ロラと目線を合わせるようにして、しゃがんだ。


「大丈夫ではないね。怪我はないかな?」

「ないわ~。でも、腰が抜けました」

「ふむ。では、私がお姫様抱っこをさせて頂いても?」


 リルの煌めきに、恐怖が少し和らいだのだった。


「リル様しか勝たん」


 ロラはリルに安定感抜群のお姫様抱っこをして貰い、一行はダンジョン内を進む。その後、罠のようなものに出会すことはなかった。


「何だったのかしら~?」

「気味が悪いね」

「ま~、でも。最後の扉には、辿り着いたわよ」

「如何にもな大きな扉ですね」

「それでですね。皆さんにお知らせがありま~す」

「……? 何でしょう?」

「私、これだけは苦手なの~」


 ロラが申し訳なさそうに、眉尻を下げる。指差した先には、箱の中に玉が沢山入った最後の謎解きがあった。


「これって……」

「少しずつ赤い玉を動かして、青い玉をゴールに持っていくやつで~す……。私、何回やっても上手く出来ないのよね」

「私、これ得意ですよ。やりましょうか?」

「そうよね。難し、い……え?」


 返事を待つように、シルヴィがロラを見つめる。それに、ロラはただ首を縦に振った。

 それを受けて、シルヴィは赤い玉に触れる。迷いない手付きで、それを動かしていった。あっという間に、青い玉がゴールへと到達する。それは、最短の手数であった。

 ゴール部分に穴が空き、青い玉が吸い込まれるように落ちていく。どういう仕掛けなのか、両開きの扉が重々しい音を立てながら開いていった。


「あんな簡単に出来るものなの~?」

「わたくしは、結構苦戦する方ですわ」

「私もあそこまで迷いなく最短ルートは無理かもしれないな」

「そうですかね?」


 シルヴィが照れを誤魔化すかのように、首を傾げる。リル達に先を譲って、シルヴィは定位置の後ろに戻った。


「皆のお陰で、早々とクリア出来たよ」

「ほらほら、リル様。聖具の指輪をゲットしないと~! 私はもう下ろして大丈夫だから」

「そう? 無理はしないで欲しい」

「勿論よ~」


 リルがロラを下ろして、扉の中へと足を踏み入れる。その後ろから、三人も続いた。


「わぁ……。凄い魔力を感じますね」

「光の魔力で満たされてるからね~」

「神聖な雰囲気です」


 シルヴィは思わず、辺りを落ち着きなく見回してしまう。場の空気に圧倒されて、シルヴィは気付けなかった。腕輪の変化に。

 部屋の中央。祭壇に置かれた箱をリルが開ける。中には、美しい輝きを放つ指輪が入っていた。リルはそれを緩慢な動きで手に取る。


「これが、聖具」


 所有者を待ちわびていたかのように、指輪が一層輝きを増す。それに、リルが眩しそうに目をすぼめた。


「これは、ずっとこのままなのだろうか。嵌めたら消える??」

「……どうなんでしょうか」

「眩しくて困るのだが」

「嵌めてみては如何かしら」

「物は試しよ。装備してみましょ~」


 何とも緊張感のない会話である。リルは言われた通りに、指輪を人差し指に嵌めた。躊躇いのない普通の動作で。

 リルの要望通りに、指輪の輝きは段々とおさまっていった。よくよく見るとロラが腰に吊るしている剣に施された細工と同じ紋様が、指輪にも刻まれている。


「ふむ。あまり変化が分からないな」

「そこは何かを感じてよ~」

「何かと言われてもなぁ」


 リルが繁々と指輪を眺める。しかし、結局は首を捻るだけであった。


「まぁ、その内分かるかもしれませんよ」

「そうだね。シルヴィ嬢の言う通りだ」

「リル様が強過ぎるのかしら~?」

「それは、大いにあり得ますわね」


 寧ろ、聖具いた? という空気に一瞬なりかけはしたが、何とか持ち直す。何故なら、シナリオ通りにダンジョンを攻略しておくに越したことはないのだから。


「では、お土産を選びに街に戻ろうか」


 シルヴィ以外の三人は、もしかしたらこのルノーへのお土産こそ聖具よりも重要かもしれない。などと思ったのだった。

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