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『何から何まで異様な男』〜夫の親友が夫を溺愛してきて困ります。こっちは新婚なんですなんとかしてくださいっ!!〜  作者: 江古左だり


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9/16

(9/16)ピンチ!『茶髪先生』

 嵐は突然やってきた。

 朝比奈玲が弁当屋に走り込んできた。


「おっおねっおねっお姉様っっ。ネット見ましたかっ」

「ネット?」


 スマホを見せられる。


「いっ今学校大変な騒ぎになってますっ」



 タカハシは学校にいる間スマホの電源を切っているので連絡が取れない。紫陽はタカハシの家に直行した。

 玄関にピカピカのブランド靴を見つけた。ハッとする。リビングルームまで走った。


 案の定サトルッ。

 呑気にソファに横になっているではないか。


「サトルッ。アンタ学校どうしたっっ」


「んー。早退させられたー」


 やっぱり!!!!


「アンタさあっ。ネットに『あることないこと』書かれてるらしいじゃんっっ」



 それは今日10時ごろであった。ネットの掲示板サイトに


=====================

 茶髪先生の正体ww wwwwwwwww

=====================


 というスレッドが立った。そしてあっという間に広まった。


 まとめサイトのURLを貼ったTwitterのリツイート数がすごいことになってる。『茶髪先生公式』のコメント数は1000を超えていた。


「いやっちょっ。本名から経歴から全部書かれてるじゃん」

「YouTubeで目立ちすぎたなー」


 17位。いいことばかりじゃない。


「何この嘘まみれの経歴っ。『小学校で問題行動を起こし児童精神科に通院』」


「本当だ」

「はっ!?」


「『精神科の知能テストでIQ148と診断される』」

「事実だ」


「……はぁ?」


 つまらなさそうにスマホをテーブルに置いた。


「『JAPAN MENSA会員』」


「そうだぞー」


「え? メンサって何?」


「IQが全人口の上位2%の人間だけが入れる。親睦会的なとこ」


「………………」


「他は?」


「12歳で渡米。アメリカで学年を次々飛び級(スキップ)。16歳で有名大学に入学。18歳で大学中退。全米高校数学コンクール優秀賞」


「全部ほんとじゃねーか。てかFacebookに全部載せてるわ。くだらねぇ」


「嘘でしょ……」


「だからなんだよ。めんどくせー」


「『帰国後『上進大学』の教育学部に入学。教員免許を取り、現在松桜高等学校の数学教諭。本名久保悟31歳』」


「ガッコーの名前出ちゃったのはまずいよなー」


「『女癖が非常に悪く、すでに5人中絶させている』」


「そこだけウソー」


「え? ありえそうじゃない!?」


「ねえわっ」勢いつけて起き上がった。


「『女癖が悪い』は本当で『5人中絶』がウソー。オレはなー。避妊だけは人一倍気を使ってんだよー」


「え? コッソリ堕ろしちゃった子とかいるんじゃない? それかすでに10人くらい子供いたりして!」


「いねえわ。『あなたの子供だ』って赤ん坊連れてきた女はいたけど、『じゃあ遺伝子検査』って言ったらすごすご帰ってったわ」


 つまり今、サトルは『本当と嘘』の情報でネット上のオモチャになってしまっているのだ。



「とっとりあえず是也さんに今後のこと相談しようよ」

「タカハシは帰ってこねーぞー」

「何で!?」

「オレの対応に追われてるからに決まってんだろっっ」


 ネットでサトルの情報が出回って以来、学校の電話は問い合わせでパンク状態になってしまった。


 学校ホームページは攻撃を受けサーバーダウン。


 周り中人だかり。女子高生たちが次々取材のマイクを向けられているのだという。


 取材を警戒して、自宅にも実家にも帰れなかったサトルはこの家にくるしかなかったのだ。


「よく記者を巻けたね!」

「そこらへんの突撃ユーチューバーにオレが頭脳戦で負けるわけねーだろ」


 紫陽はストンとサトルの隣に座った。


「記者ったって、地上波でわざわざきたのは1局らしい。『17位』じゃ知名度もその程度だ。メンドクセーのはネットだな。あることないこと書けるし、みんな面白がって拡散する」


 サトルはただ生徒のために補講をしただけなのである。しかしあまりに上手くいきすぎてしまった。巨大なお金が動けば、注目も巨大になる。


「今頃ガッコーめちゃくちゃになってるだろーなー」


 どうすればいいんだろう。



「あっ……あのさあ……サトル。私に出来ることある?」

「ねえわ。単なる女子大生だろうがよ」

「『サンタチーム』と緊急会議開くよ」

「もうやった」


……そらそうか。


「あっ! 一つだけあるな!」


『えっ?』と思った瞬間にゴローンと紫陽の膝の上に頭をのせた。


「ちょっっとっ! 女と膝枕してる場合かっ」


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜何億稼ごうが女の太ももには勝てない〜〜〜〜〜〜〜〜」


 そのまま紫陽の膝の上でゴロゴロした。


 紫陽がサトルのフワフワした髪をなぜる。


「……なんとかなるよ。なんとか……サトル……」

「なんとかねぇ」


 そのまましばらく膝枕させていた。



 夕飯時になってもタカハシは帰って来れなかった。

 取材や冷やかしだけでなく父母からの問い合わせもひっきりなしらしい。学校として無視を決め込むわけにもいかない。


 遅くまでホームページに載せる文言の協議があった。


 途中1度だけ紫陽に電話がかかってきた。サトルのスマホは問い合わせが殺到するのですでに電源を消している。


 サトルに代わると「ああ。大丈夫だぞ。タカハシ」と一言いった。


「大丈夫かサトル」と聞かれたらしい。それ以上はお互い何も言わなかった。


 夕飯はサトルのリクエストでオムライスになった。具材は玉ねぎと、ピーマンと、にんじんと、ベーコン。バターで炒めて味付けはケチャップのみ。


 こいつ注文細かい。


 出してやると「おいっ。ケチャップで描いたハートがねえぞっ」と言われたので「うちは『メイド喫茶』じゃないんだよっ」と言い返してやった。


「うまいなぁカブラギ」

「10歳のころから10年作ってるからねっ」

「もう結婚してくれよ」

「ダメに決まってんでしょっっっ」


 はははは。サトルがほがらかな笑い声をあげた。


「なんだぁ。カブラギ。今お前幸せなのか?」

「死ぬほど幸せ」

「そおかぁ。分が悪いな! 一旦退却だ!!」

「2度と進軍してくんな」


 麦茶をゴクゴク飲む。


 3月のあの日。紫陽はタカハシと結婚することにしたのだった。タカハシにプロポーズリングをはめられた瞬間彼女の一生も決まったのだった。


 でももしも、サトルのプロポーズを受けていたら。


 こうやって毎日2人で夕飯食べてたのかなぁ。


 それはそれで幸せだったんだろうなぁ。



 夕飯のあと『パソコン借りるぞ』と言われタカハシの書斎に引っ込んでしまった。


 マグカップに入れたコーヒーを持っていったら画面にナヨンが1人写っていた。

 モルモットみたいにポテチを食べる髪の長い男の子。


『あっ。紫陽さんだっ』とパソコンから声がする。


「ナヨン! サトルが女癖悪いせいで苦労かけるねっ」

「カブラギ。てめぇ聞こえてんぞ」


『いや……そんな……』ナヨン恥ずかしそう。


『あの。ボク。サトルさんのこと守りますからご心配なく』


 いやいや。アンタどーやってサトル守んねん。YouTubeでも何の役割もしてないけれども。


「ありがとー」と言ってその場を去った。



 タカハシは日付が変わってから帰ってきた。


 ドサッとソファに座る。明らかに疲労困憊してる。ネクタイを左右にずらしながら投げやりに外した。


「おつかれー。タカハシ。世話かけんなー」

「…………とにかく問い合わせがすごいよ」


「説明会開くことになるか?」

「ならない。父兄はみんなサトルを心配してる」


『サトルを辞めさせないでくれ』と懇願の電話が何本もきたらしい。


「学校にきちゃった子もいてね」


 泣いてなだめるのが大変だったそうだ。


「明日もサトルは出勤停止。一両日中にホームページに学校としての対応を載せる。授業はそのままやるが、部活は全面中止だ」


「おー。悪いな」


「今日は泊まれよ」


「そうするわー」


 衣装部屋にサトルの布団を敷いた。風呂場じゃ呑気に歌を歌ってるし、コイツだけ涼しい顔である。本当は台風の目なのに。


 紫陽はパジャマ姿でリビングルームに顔を出した。

「サトル。もう私寝るからね」

「あいよー」

「だっ大丈夫だからねっ」


 ニヤニヤしてる「何だぁ? カブラギ。俺のこと心配してんのかぁ?」

「バカッ」


 サトルとタカハシは夜遅くまで話し込んでいたようだった。



 翌日。

 大学で【茶髪先生公式】のTwitterを見て紫陽は度肝を抜かれた。

ナヨン→『トナカイ4』。YouTubeクルー『チームサンタ』の1員。


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