(12/16)下衆の勘繰り
爆笑されてしまった。
「え? お母さんがサトルと? なんで? あの子のスペックでなんでわざわざお母さんを選ぶわけ?」
「あいつは普通じゃないんだってぇ!!!!」
「よく考えなさいよ。お母さん『46歳。寡婦。子持ち。なんの取り柄もない中年』よ。なんでIQ148の、年収億越えの、31歳結婚適齢期のブランドづくめハイソサエティがお母さんを結婚相手に選ぶのよ。そういう漫画とか読みすぎなんじゃないの? 『なんの取り柄もない私が石油王に!』的な」
うっ。紫陽は正座で下を向いてしまった。
「……いや……だから……お母さんと結婚するのは表向きで……本当は私を寝取ろうとしてて……」
「あんた随分自分に自信があるのねぇぇ」
ううううううううっ。紫陽は下をさらに向いた。
「あんただってね。ちょっと顔の可愛い巨乳なだけの女じゃない。知識もない経験もない金もない。是也さんがあんたを選んでくれたことに感謝したら? 若さしかない女が無鉄砲に突っ込んでったのを受け止めてもらったわけじゃない」
ううううううううううっ。紫陽は床に額がつくくらい下を向いた。
「視野が狭いのよ。サトルが会ってる女はお母さんとあんただけじゃあないのよ。それこそ何百人とサトルを狙っている女がいるよ。正直入れ食いなんじゃない? 『茶髪先生』お母さんも見たわよ。 YouTube10位の男にどういう女が群がるかちょっと考えなさい」
ううううううっ。うううううううっ。そりゃ…………そりゃそうでした。
あいつは『読者モデル』を40分で呼びつける男でした…………。
「なんてね。紫陽をからかうのはここまで」
「え?」
「サトルがね。なんで毎週うちに来てたか知ってる?」
◇
ここからは紫陽の母、琴絵の話である。
◇
お母さんねぇ。紫陽が結婚したの本当嬉しかったの。
そりゃあ最初『17歳年上の元担任』て聞いて胃がひっくり返りそうになったけど、高橋先生の人となりは良く知ってたからね。
真面目で、誠実で、安定してて。とてもいい人を選んでくれたと思ったわ。
でもねぇ。それはそうなんだけど寂しいのよ。
そりゃあ、いつかはお嫁に行って欲しかったけど。20歳とは思わなかったし。お父さん死んで2人きりで生きて来たしね。
『置いてかれたなぁ』って思ったの。
だから是也さんが『大学生の間は実家暮らしで』って提案してくれて。さすが大人ねって。わかってくれてるって。
2年後には完全にいってしまうけど、その間に思い出いっぱい作ろうと思っているのよ。
それでね。何となくサトルに『紫陽がいってしまって寂しいし、2年間でアルバムをまとめて嫁入り道具としてもたせようと思ってる』って言ったのよ。
『驚かせたいから、紫陽には内緒にしてね』って。
そうしたら『お母さんオレもそれ手伝うわ〜』って。
いや、何言ってんのかと思ったんだけど(琴絵は笑った)せっかくだから夕飯ご馳走するようになったの。
2人で紫陽のいない家でご飯食べて、紫陽の写真を選ぶの。すごく楽しいのよ。写真を見ると次から次へと思い出がやってきて。
七五三とか。運動会とか。家族旅行とか。
どんな話もサトルは喜んで聞いてくれるのよ。あの子すごい人の話を聞くのが上手いのね。
それでね。お母さん気づいたの。
サトル心から紫陽のこと好きだったんだなぁって。お母さんは一人娘を失ったけど、サトルは恋を失ってしまったのよ。お嫁にいってしまったんだものね。
それで2人で慰め合うようにしてアルバムを作ったのよ。
◇
ある日サトルがソファで寝てしまったの。
なんだか疲れてたみたいだし、ビールを飲みすぎたのね。
テレビに紫陽が映ってたわ。昔撮ったビデオ。髪の毛をてっぺんでふたつ結びにして学芸会のダンスしているやつね。小学校3年だったかしら?
『紫陽。可愛いなぁ』って途中までは笑って見ててくれたのよ。
それで『サトル! サトル!』って膝を叩いて。『風邪引くから2階で寝なさいっっ』って。
『はぁ〜い』って目をこすって2階に上がってったわ。可愛いの。31歳でしょ? 小学生にしか見えないのよ。
それで紫陽のベットで寝ちゃったらしいのね。
「ええっっ。お母さんっ。なんで娘のベットに男寝かせちゃうのよ!」
あ、ごめんね。お母さん布団でしょう? 敷いてなかったの。サトルもそこしか寝るところなかったと思うのよ。
翌朝ご飯の支度をしてたらなんか慌てた感じで2階から降りて来て。
『お母さん! え? オレなんで紫陽の部屋で寝てんの!?』って。
事情を話すとバツの悪い顔してねぇ。あの子あんな顔すんのね。初めてみたわ。
それで気まずそうにシラスご飯食べてねぇ。可愛いの。そうね。確かに紫陽が是也さんと結婚してくれて嬉しかったけど、サトルでも良かった。あんな息子欲しかったわね。
「そう言う理由でサトルはうちに来てたんだけど。紫陽。あなた随分下衆の勘繰りするのね?」
◇
紫陽は顔をカアッと赤くして下を向いた。
穴が! 穴があったら入りたいっ。ていうか穴を掘って埋まってしまいたいっっ。
タカハシの家に自転車飛ばして帰ると台所にいた夫に抱きついた。
「是也さん〜〜〜〜〜〜〜〜。どうしよ〜〜〜〜〜〜」
◇
夫にすっかり事情を話した。いや、キスのことは話さなかった。他の男にキスされた話なんぞされて楽しい夫がいるわけない。
タカハシは最後まで静かに話を聞いてくれた。
「紫陽あのね…………」
「あい(泣いてる)」
「その。まず何か行動する前に、1回俺に相談するようにしようか?」
「……………………あい。突飛な女ですみません」
「…………知ってるけど」
コトリと湯呑みを置いてくれた。『お茶を飲みなさい』ということだ。
「まずその……。『お母さんを落として、家に入り込んで、娘を襲うに違いない』って発想ね。『どこのエロ漫画見ましたか?』ってことなんだけど」
わあっと紫陽は両手で顔を覆った。
「大丈夫。大丈夫。サトルには俺から取りなしておくからね。まあわかるよ。サトルはだいぶ人との距離がおかしいからね」
「ううう……。だって友達の嫁のお母さんとそんな仲良くなるってこと自体が異様じゃないですか」
「確かにサトルは『何から何まで異様な男』だからね」
◇
「紫陽。サトルってね。『ミッキーマウス』みたいな顔してるでしょ? ところで『ミッキーマウス』にとっての『テーマパーク』ってどこだと思う?」




