第83話 屋敷での再会
私は、ムルルとともにとある場所に向かっていた。
今日は、聖女の仕事は休みである。丁度、ロクス様にも暇ができたようなので、ヴァンデイン家の屋敷に向かっているのだ。
「あれが……ヴァンデイン家の屋敷ですか?」
「そうだよ」
馬車の窓から、少し遠くにある屋敷を見たムルルは、少し驚いていた。
ヴァンデイン家の屋敷は、それなりの大きさだ。それに衝撃を覚えたのだろう。
私も最初に貴族の屋敷を見た時は、その大きさに圧倒されていた気がする。その時は、まさか自分がその一員になるとは思っていなかった。私も、不思議な人生を辿っているものだ。
「着いたね……さて、行こうか?」
「あ、はい……」
馬車が着いてから、私はムルルとともに馬車から下りた。
すると、屋敷の前で待つ二人の人間に気づく。
その内の一人を見て、ムルルの顔は明るくなる。彼女にとって、彼と会えるのは一番の楽しみだろう。
「ドルス、久し振りだね」
「ムルル、元気だったか?」
ムルルの言葉に、ドルスは笑顔で応えた。
現在、ドルスはこのヴァンデイン家の屋敷に住み込みで働いている。ムルルのことが心配で、こちらに来た彼をロクス様が雇ったのだ。
「ロクス様、お久し振りです」
「セレンティナ様、お元気そうで何よりです」
私は、ロクス様と挨拶を交わした。
久し振りにその顔を見たので、結構幸福感に包まれている。会えない日々が続けば続く程、会う時の嬉しさというのは大きくなるものだ。
「ラプレノス家との戦いは、無事に終わったようですね?」
「ええ、ですが、まさか叩いてあれ程埃が立つとは思っていませんでした。僕が思っていた以上に、大事になったことは驚いています」
ラプレノス家のことを触れてみると、ロクス様は微妙な顔をした。
流石のロクス様でも、そこまでラプレノス家が腐っていたとは思っていなかったようだ。
「ムルル、お前は大丈夫か? ラプレノス家のことで落ち込んだりしていないか?」
「あ、うん。それは、大丈夫。色々と思う所はあるけど、あの人達のことはもうどうでもいいと思っているから」
「そうか。それなら、大丈夫かな」
そこで、ドルスはムルルにラプレノス家のことを聞いていた。
それに対する回答を聞くと、ムルルはもう大丈夫なように思える。
こういうことを彼女に聞けるのは、彼しかいない。彼がこちらに来てくれたことは、とても助かることである。ムルルの心を支えられる人がいてくれるのは、とてもありがたいことなのだ。
「さて、いつまでもここで話している訳にはいきません。中に入りましょうか?」
「あ、はい。そうですね……」
ロクス様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
こうして、私達はヴァンデイン家の屋敷に入っていくのだった。




