第79話 怒る者達
私とロクス様は、ラプレノス家の屋敷に向かっていた。
彼等の行いは、咎めなければならないことだ。オーガイムの過ちを隠すために、一人の少女を村に監禁した。その罪は許されることではない。
「許せませんね……」
当然のことながら、私は身勝手な貴族の行いに怒りを覚えていた。
しかし、私以上に怒っている人がいる。
目の前にいる人物は、今まで一度だけ見たような形相をしていた。かつて、私の身勝手な婚約者を咎めた時と、同じような顔をしているのだ。
「ロクス様……相当、怒っているようですね」
「ええ、怒っています。ですが、僕の怒りなど当然のことですよ。あの涙を見て、怒らない人間などいません」
「そうですよね……」
静かに燃え上がるロクス様は、少し怖かった。
ただ、その怒りはとても頼もしかった。あの身勝手な婚約者の時も、そうだったが、こうなったロクス様がいれば、誰にも負けない気がするのだ。
最も、今回の相手は、そこまで曲者という訳ではない。子爵家など、私やロクス様には相手にならないだろう。
思えば、あの時もそう思えば良かったのだ。伯爵家の三男の戯言に耳を貸す気はない。そのような断固とした態度でいれば良かったのだろう。
それができなかったのは、私に公爵家としての自覚がなかったからだ。しかし、今はそれがある。つまり、負ける気はまったくしない。
「ロクス様、わかっているとは思いますが、あくまで冷静にお願いしますよ?」
「ええ、わかっています。僕も、怒りに任せるつもりはありません。心情としてはそうしたい所ですが、それはしてはならないことです」
一応、私はロクス様に注意しておいた。
私達は、子爵家の行いを咎める立場にある。そんな私達は、怒りに任せて行動することはできないのだ。
あくまで、私達は冷静に、事実を追及して、彼等を咎めなければならない。ロクス様の言う通り、心情的にはそれは難しいだろう。だが、それでも冷静でなければならないのだ。
「こういう身勝手な貴族を見ていると、いつも思います。権力を振りかざしている者達が、どれ程愚かしいかということを……」
「そうですね……私も思います。ああいう風になってはいけない。そういう思いが強くなるのですよね?」
「ええ、僕達はきちんとした貴族でいましょう」
「もちろんです」
ロクス様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
私は、しっかりと胸を張って歩ける貴族になりたい。私は、改めて自身の貴族としての在り方を決意するのだった。




