第77話 少女の事情
私は、ムルルとドルスから話を聞いていた。
ムルルは、自身に何が起こっているかを隠そうとしていた。それに対して、ドルスが激昂したのである。
「セレンティナ様、どうか聞いてください。こいつの事情は、なんとかしなければならないものなんです……俺には、その力がなかったけど……聖女のあなたなら」
「うん。大丈夫、私に任せてくれればいい。だから、話してもらえる?」
ドルスの必死の訴えかけに、ムルルは何も言わなくなっていた。
自分を助けたいと願っている少年の思いが、強がっていた少女の心を溶かしたのだろう。
それなら、最早何も問題はない。ドルスから話を聞いて、私達は彼女の事情を解決するだけだ。
「この村は、ラプレノスという子爵家の領地なんです」
「うん、それは把握している」
「そのラプレノス家の現当主は、ボルガムという男で、その長男にオーガイムという男がいるんです」
「聞いたことはある名前だね……」
ドルスが話し始めたのは、この地を治める貴族のことだった。
その貴族達に関しては、村で起こっている差別を放置していることを注意するつもりだった。そのため、事前に色々と調べてはある。
ただ、その貴族達は放置していたとか、そんな間接的な関わり方ではないようだ。話の流れからして、その貴族達が全ての原因と判断した方が正しいだろう。
「そのオーガイムは、この村の一人の女性に手を出したらしいんです。その結果、その女性には一人の子供が生まれた……それが、ここにいるムルルなんです」
「ムルルは……オーガイム様の娘さんだったのね……」
ドルスの口から放たれた事実は、衝撃的なものだった。
目の前にいるムルルは、貴族の娘。その事実は、驚くべきことである。
しかし、貴族の娘であるムルルが冷遇されているという状況に、それが繋がらない。貴族として生まれたなら、まったく逆の扱いを受けているはずだ。
「でも、どうして、こんな扱いを?」
「オーガイムには、婚約者がいたみたいなんです。だから、ムルルは浮気相手との子供らしくて……」
「浮気相手との子……つまり、その存在は隠したいという訳だね」
「そうなんだ。だから、領地の村の辺鄙な場所に監禁して……さらには、村人達にそれを監視させているんだ」
「なるほど……そういうことだったんだね」
ドルスの説明で、全てが見えてきた。
全ての元凶は、この地を支配する貴族の身勝手な行いが発端だったのだ。
ムルルが村人達を庇っていたのも、そのためなのだろう。貴族の身勝手な行いに犠牲になった人達。彼女はそのように考えていたのだろう。
その是非については、置いておく。今は、もっと重要なことがあるからだ。




