第62話 参考にできる人
私は、ロクス様に結婚した後、どうなるかを聞いていた。
始めは困惑していたロクス様だったが、今は既に落ち着いている。
「貴族の妻になっても、セレンティナ様は今まで通り聖女を続けてください。何も心配はいりません」
「あ、そうなのですね……」
私の質問に対する答えは、そのようなものだった。
どうやら、私は結婚しても聖女を続けても問題ないようだ。
それは、少し安心した。なんだかんだ聖女の仕事は嫌いではないので、続けられるなら幸いである。
「そもそも、聖女というものは、貴族と婚約することを約束されている地位です。その程度で仕事をやめなければならないというなら、色々と問題が起こってしまいますよ」
「あっ……」
ロクス様の言葉に、私はあることに気づいた。
よく考えてみれば、聖女は貴族と婚約を結ばされる。貴族と結婚して、聖女の仕事をやめなければならないなら、その婚約をする意味というものがないだろう。
そこまで考えられていたら、こんなくだらないことで悩まないで済んだ。浮かれていた私の思考能力は、かなり低下してしまっていたようである。
「よく考えてみればそうですよね……あ、でも、子供ができた時とかはどうすればいいのでしょう?」
「こ、子供ですか? その時は、聖女の仕事を休むしかないのではないでしょうか?」
「まあ、単純に考えればそうですよね……」
私は、ロクス様の言葉にゆっくりと頷いた。
子供ができた場合は、聖女の仕事は休むしかない。それは、当たり前のことだろう。
だが、そんなに聖女が現場を離れていいはずがない。その辺りは、考えなければならないのではないだろうか。
「というか、単純に先人に倣えばいいのではないでしょうか?」
「え? 先人ですか?」
「ええ、先代のやり方と同じようにすれば、一番早いと思うのですが……」
そこで、ロクス様はそのようなことを言ってきた。
その言葉は、とても真っ当な言葉である。普通に考えれば、私の前の聖女が、同じような事態になっているはずだ。その人を倣えばいいだけというのは、至極全うである。
「でも、私の先代は……」
「ああ、少し事情が特殊な方なのでしたね?」
「ええ、だから、参考にはならないかと……」
しかし、私の先代は、少し特殊な事情を抱えている人だった。
そのため、今の私の参考にはならない可能性がある。
「でも、とりあえずその人に話を聞けば、何か名案が浮かぶのではないでしょうか? 先代の先代の話も聞けるでしょうし……」
「あ、確かに、そうですね」
ロクス様の提案に、私は頷いた。
確かに、先代に話を聞いてみれば、先々代のことも聞ける。そちらが聞ければ問題ないのだから、それでいいはずである。
こうして、私は先代の話を聞くことにするのだった。




