第55話 割り切った思い
私は、ロクス様に告白されていた。
どうやら、ロクス様は私のことを聖女になる前から知っており、そこで私に惹かれていたらしい。
色々と話を聞いたが、どれも驚くべきことばかりだった。ロクス様が秘めていた思いは、私にとって容易に信じられるようなものではない。
だが、ロクス様が嘘をついていないということわかる。だから、これはすべて真実なのだろう。
「……驚きましたよね?」
「あ、はい……驚きました。まさか、ロクス様がそのように思っていたなんて……」
「セレンティナ様は、僕のことを知らなかったのですから、それも当然のことです」
驚いている私に、ロクス様は理解を示してくれた。
その顔は、少し自嘲気味な笑みを浮かべている。
ただ、別にロクス様が何か悪いことをしていた訳ではない。誰かを好きになるのは自由なので、別にそのような表情を浮かべる必要はないはずである。
「聖女になってからは、セレンティナ様も知っている通りです。僕は、公爵家の人間として、セレンティナ様に接していたはずです」
「そうですね……」
そこで、ロクス様は話を再開した。
聖女になってからのことは、私もわかっている。ロクス様は、時々会う公爵家の人間くらいの印象だった。そのような思いを抱いている素振りは、まったく見せていなかった。
その理由は予測できる。ロクス様には、そういう素振りを見せてはいけない理由があったのだ。
「あなたには、婚約者がいましたから、そういう思いは捨てることにしたのです。貴族の人間として、そこは理解していましたから、割り切ることはできました。簡単ではありませんでしたが」
「そうですか……」
ロクス様が言ってきたのは、私が予想した通りのことだった。
私には、婚約者がいた。婚約者がいる人間に、そういう素振りを見せるのはご法度である。色々と面倒なことになってしまうからだ。
そういうことは、貴族であるためよくわかっていたのだろう。簡単ではなかったが、私への思いは割り切れたようだ。
「ただ、色々と事情が変わってくる出来事がありました。あなたの出自が判明したのです」
「なるほど……」
しかし、色々と事情が変わる出来事があった。
私が、ヴァンデイン家の人間であったという事実が判明したのである。
そのことは、色々な事情を変えるものだっただろう。平民だと思っていた者が、貴族だったのだ。それだけで、色々と変わってくる。
だが、ロクス様にとってはそれだけではない。自分が好きになった人が、近しい人物だったのだ。それは、かなり衝撃的だっただろう。




