第50話 あの反応は
私は、予定が合ったため、ロクス様と会っていた。
いつも通り、ロクス様とは他愛のない話をする予定だった。
ただ、今日は少しロクス様に聞きたいことがある。それを聞いてみることにしよう。
「ロクス様、少しよろしいでしょうか?」
「はい? なんですか?」
「えっと……サレース様との会話に関することなのですけど……」
「サレース様との会話ですか……」
私が放った言葉に、ロクス様は少し嫌そうな反応をした。
あの会話に関することは、掘り下げて欲しくないようだ。
それは、サレース様との告白を振り返りたくないから、そういう表情なのだと理解することもできる。だが、ラカニアが言っていたように、あの言葉に他意があるからという解釈もできない訳ではないだろう。
「なんでしょうか? 何か、あの会話で気になることでもあったのですか?」
「あ、はい……」
しかし、それでもロクス様は私の質問を受け付けてくれる姿勢を示してくれた。
こういう所は、ロクス様の真面目な所だ。嫌に思っても、きちんと対応する。そういう誠実さを持ち合わせているのだ。
そんなロクス様に、私は罪悪感が芽生えていた。別に、無理して聞くようなことでもない。ここは、流してもいいのではないだろうか。
そう思ったが、私の中にあるもう一つの感情がそれを否定する。サレース様のように、ロクス様を愛していた人が婚約者にならず、私が婚約者になっているのだ。そういう立場である以上、私はロクス様との関係をはっきりさせる義務があると思う。
その考えがある以上、ラカニアが抱いた疑念を確かめないという選択肢をとってはならない。その辺りをぼやかしておくことは、今の私の心情に反するのだ。
「サレース様が言ったロクス様自身が私を選んだという言葉を、ロクス様は肯定しましたね?」
「え、ええ」
「その返答の際、ロクス様は少し妙な反応をしていました。歯切れが悪いというか、なんというか……とにかく、あれはどうしたのですか?」
とりあえず、私はそのように質問してみた。
あの時の歯切れの悪さは、一体どういうことだったのか。
単に、嘘をついている罪悪感だったからなのか。それとも、ラカニアの言う通り他意があったのか。それは、非常に重要なことである。
「それは……」
私の質問に、ロクス様は目を瞑った。
ゆっくりと目を瞑り、何かを考えているかのような素振りだ。
恐らく、私への返答を考えているのだろう。だが、考えている時点で、その返答が普通ではないと答えているようなものである。
ロクス様は、何か特別な考えがあって、あのような反応になったのだ。それが何かは、今からロクス様が話してくれるだろう。




