第46話 議論の行方
私達は、サレース様の父親であるザレング様と対峙していた。
ザレング様は、今回の抗議の首謀者である。この人と話し合えば、全てが解決するはずなのだ。
「さて、今回の抗議に正当性があるかどうかという話をしましょうか」
「正当性? そちらが娘の言葉を聞き入れなかったのは事実だろう?」
「サレース様がしてきた質問は、私個人に関する質問です。聖女の仕事中、そのような質問に答える義務はありません」
「む……」
私は、サレース様とした問答をもう一度始めた。
この問答が、私達に分があることは、ザレング様もわかっているのだろう。あまり歯切れが良くないのが、その証拠である。
「しかし、セレンティナ様の個人的事情が聖女の業務に支障をきたしているなら、無関係とは言い難いでしょう?」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「公爵家の人間となったことで、あなたは傲慢になった。それにより、業務が疎かになっているのではありませんか?」
だが、ザレング様も一筋縄ではいかなかった。
私の個人的な事情を聖女の仕事を結びつけてきたのだ。確かに、抗議の正当性を主張するなら、そういう風に結びつけるのが一番だろう。
しかし、その結びつきを正しく言えないのなら、意味はない。私の業務が、どのように疎かになったか、言ってもらうとしよう。
「具体的には、どのように疎かになっていますか?」
「公爵家の人間と会うために、休むことが増えたそうではありませんか。それは、職務怠慢とはいえませんかな?」
「それはおかしな話ですね。私は、自身に与えられた正当な休日を使っているだけです。それを使うか使わないかは私の自由ですが、使わないことを強要されるという訳ではありません」
ザレング様は、私の休みが多くなっていることを指摘してきた。
だが、それはまったく問題ないものである。なぜなら、私は与えられた休みを消化しているだけだからだ。
それは、聖女の仕事に支障をきたしているとは言わない。正当な手段で休んでいるのだから、何も問題はないのである。
「……それでも、休んでいるのは事実でしょう」
「事実だとして、どうだというのでしょうか?」
「国民のために、一分一秒でも多く働くのが聖女ではありませんか? それなのに、個人的な時間を使うために休むのはおかしな話です」
「それならば、ザレング様は私に自由はないと仰るのですか?」
「それは……」
私の言葉に、ザレング様は怯んだ。
当然のことではあるが、私に自由がないと言うことなどできるはずはない。
そのような個人の尊厳を否定するような言葉を吐けば、アルガンデ家の信用すらなくしかねないからだ。
それ以上、ザレング様は何も言えなくなっていた。私の言葉に反論できなくなったのだ。
ということは、この抗議には正当性などなかったということである。私の論を否定できないのだから、そういうことになるのだ。




