第37話 強引な来客
私は、公爵家の令嬢であるサレース・アルガンデ様と対峙していた。
聖女の仕事の文句かと思ったが、サレース様が言ってきたのは、私が公爵家の人間と判明したことやロクス様と婚約したことだった。
その質問に、私が応える義理はない。なぜなら、それは完全に個人的なことだからだ。
「あなたは、職務中の私に文句を言いに来たそうですね。もちろん、聖女の仕事に関することなら、私も耳を傾ける必要はあると思っています。ですが、あなたが触れているのは、私の個人的な事情ばかり。そのような質問に、私が答える必要などないではありませんか」
「そ、それは……」
「もしどうしても私にそのような質問をしたいというなら、個人的な場を設けてください。今は仕事中ですので、無駄な質問を受けている余裕はありません」
私は、ゆっくりと立ち上がった。
これ以上、サレース様と話すことは時間の無駄だと思ったからだ。
「お待ちください」
「え?」
その場から立ち去ろうと歩き始めた私を、サレース様は引き止めてきた。
私の前に出て、立ち塞がってきたのだ。
なんというか、とても真剣な顔をしている。それだけ、この話がしたかったのだろう。
なんとなく、サレース様が何を言いたいかわかっている。ただ、そのことを話し合うのは、とても面倒だ。あまり話したくはない。
「あなたとロクス様は、どうして婚約しているのですか?」
「その話はしないと先程言ったばかりでしょう」
「私は、それをどうしても確かめたいのです。確かめなければならないのです」
サレース様は、とても熱意を持って、私に質問してきた。
だが、いくら熱意を持たれても、私はその質問に答えるつもりはない。なぜなら、私は今仕事中だからだ。
「申し訳ありませんが、私は今仕事中です。そのような質問を答えている暇はありません」
「いえ、私も引く訳にはいきません。あなたとロクス様の関係について、答えてください」
何故わからないが、サレース様は引き下がってくれなかった。
別に、私は話を聞かないと言っている訳ではない。今は、聞かないと言っているのだ。それなのに、どうしてここまで引き下がらないのだろうか。
ただ、私は後日でも話をあまりしたくないと思っているので、そういう所を見抜かれている可能性はある。
だが、ここまで引き下がらないのは職務の邪魔だ。あまり使いたくないが、聖女の強権で引き下がらせるしかないだろう。
こうして、私はサレース様を引き下がらせるのだった。




