第36話 仕事の範囲外
私は、公爵家の令嬢であるサレース・アルガンデ様と対峙していた。
サレース様は、とても怒っている。何故、ここまで怒っているのかはさっぱりわからない。一体、どんな文句が飛び出してくるのだろうか。
「さて、セレンティナ様、今日はわざわざ私のために時間をとって頂いて、ありがとうございます」
「い、いえ……」
サレース様は、私にまずお礼を言ってきた。
最初にこのようにお礼を言ってくるということは、サレース様はまだ冷静であるということだ。こういう時、まず文句を言ってくる人も多い。そういう人と比べると、サレース様はまだましということである。
「今日は、あなたに色々と言いたいことがあってきたのです」
「はい……」
ただ、サレース様が怒っていないという訳ではない。
むしろ、かなり怒っているように見える。
多くの貴族達は、こういう時に興奮していることが多い。だが、サレース様はかなり冷静である。
その冷静さが、今はとても怖い。こういう人は、普通に怒鳴る人より底知れなさがあるのだ。
「あなたは、先日ヴァンデイン家の人間と判明しましたね」
「え? あ、はい」
「そして、その後、ロクス・ヴァンデイン様と婚約されましたね?」
「え? あ、そうですね」
サレース様は、私が公爵家の人間となったことやロクス様と婚約したことを指摘してきた。
そのことで、私は少し違和感を覚えた。もしかして、サレース様は聖女の仕事について文句を言いに来た訳ではないのだろうか。
公爵家の人間となったことやロクス様と婚約したことは、聖女の仕事とはそこまで関係がないことだ。それを指摘してくるということは、聖女の仕事とは関係ないのではないだろうか。
いや、公爵家の人間になって威張っているとか言われる可能性がある。話は最後まで聞いてみなければわからないだろう。
「どうして、同じヴァンデイン家で婚約を結んでいるのですか?」
「え? それは、色々と事情があって……」
「事情? 一体、どういう事情なのですか?」
サレース様は、ロクス様との婚約について色々と聞いてきた。
どうやら、サレース様は聖女の仕事について文句を言いに来た訳ではないようだ。
それなら、私がこの質問に答える義理はないのではないだろうか。聖女としてなら、仕事なので色々と対応しないといけないが、プライベートなことを質問する義理など、私にはない。
「申し訳ありませんが、個人的なことなので、お答えすることはできません」
「なっ……」
「私は、今聖女としてあなたに対応しています。ですが、そのようなことは、聖女の仕事に関係がないことです。という訳で、そのような質問に答える義務はありません」
という訳で、私はサレース様の質問に答えないことにした。
聖女の仕事をしている以上、そういう質問には答える訳にはいかない。聖女の仕事の範囲外だからだ。




