第35話 厄介な客人
私は、いつも通り聖女の仕事をしていた。
最近は忙しかったが、だんだんと仕事も落ち着いてきている。
「セレンティナ様! 大変です!」
「え? どうしたの?」
そんな時、ラカニアが慌てて私の所に駆けてきた。
ラカニアが慌てるとは、珍しいことだ。本当に大変なことがあったのだろう。
「実は、サレース・アルガンデ様が訪ねて来たのです」
「サレース・アルガンデ? 確か、公爵家の令嬢だったかな?」
「そうです。その人です」
ラカニアが慌てているのは、公爵家の令嬢であるサレース・アルガンデ様が訪ねて来たからのようだ。
確かに、それは一大事である。貴族が、私達の元を訪ねてくるのは、大抵ろくでもないことが多い。変なお願いとか、変な指摘とか、色々と面倒くさいことを言われるのだ。
厄介なことに、相手が貴族だとそれを無下にすることが難しい。断るのも、一苦労なのだ。とても、面倒くさいのである。
「何を言われるのかな? 嫌だな、また変なことを言われるの……」
「あ、えっと……そう思っているセレンティナ様にあまり言いたくはありませんが、なんかすごく怒っているのです……」
「え? 怒っているの?」
ラカニアの言葉を聞いて、私はさらに嫌になってきた。
一体、サレース様は何に対して怒っているのだろうか。貴族の人は、くだらないことで怒ることが多い。意味の分からない論で感情をぶつけるのは、とても面倒である。
「その……というか、サレース様はセレンティナ様を名指しして怒っているのです」
「え? 私を名指し? なんで?」
「わかりません。ただ、セレンティナ様を出せと言って聞かなくて……」
「うわあ……嫌だな」
どうやら、サレース様は私を名指しして怒っているらしい。
その話を聞いて、私はさらに嫌になった。そんな人の前に、どうしてわざわざでなければならないのだろうか。
そう思ったが、聖女としてその場に立たなければいけないのだ。こういう文句に対応するのも、一応聖女の仕事なのである。
「公爵家ではない人は、最近そういう文句も少なくなっているのに……」
「そうですね……」
最近は、こういうことは少なくなっていた。
なぜなら、私が公爵家の人間ということが判明したからである。
公爵家の人間に、文句を言える貴族は少ない。そのため、そういう文句はかなり少なくなったのだ。
それは、公爵家の人間になってよかったことだと思っていた。だが、同じ公爵家にそれは通用しない。とても、面倒くさいことである。
「仕方ない、行かないとね」
「はい……」
しかし、いつまでも嫌だとは言っていられない。
こうして、私は文句の対応をすることになったのである。




