第34話 これからも
私とロクス様は、アウターノ様のお見舞いに来ていた。
アウターノ様の壊れてしまった精神は、未だに戻ってきていない。私達が来ても、何も反応は返してくれなかった。
「母さんと兄さんは、今度別の町に行くことになっているのです」
「そうなのですか?」
「ええ、空気が澄んでいる緑が多い場所で、ゆっくりと療養するのです」
カタルス様は、私とロクス様に対してそのように説明してくれた。
どうやら、アウターノ様は母親とともに別の町で療養するようだ。
その方が、アウターノ様には幸福だろう。きっと、その町でアウターノ様も良くなるはずだ。
そんなことを話しながら、私達はお見舞いするのだった。
◇◇◇
私とロクス様は、馬車に乗っていた。
お見舞いが終わったので、家に帰るのだ。
「……ロクス様、少しいいですか?」
「え? はい? なんでしょうか?」
静かだった馬車の中で、私はロクス様に話しかけていた。
少し、ロクス様に話したいことがあったのである。
「私が公爵家の人間になって、色々なことがありました。その色々なことを解決するにあたって、ロクス様には本当にお世話になりました。改めて、お礼を言わせてください。ありがとうございました」
「……いえ」
私が伝えたかったのは、ロクス様への感謝だった。
ロクス様は、私のために色々と尽力してくれた。私がドルバル様に絡まれた時も、公爵家の人間と対面する時も、ずっと助けてくれたのだ。
そのことに、今一度感謝を述べたかった。ロクス様には、本当に感謝の気持ちでいっぱいである。
「僕は、感謝されることなど、何もしていません。あなたを助けるのは、当然のことなのですから……」
「当然のことだなんて……」
「あなたは、僕の大切な家族です。そんなあなたに手を差し伸べることは当たり前のことなのです」
私の感謝に、ロクス様はそう返してきた。
ロクス様にとって、私を助けたことは当たり前のことだったらしい。
「ああ、でも、仮に家族でなかったとしても、あなたを助けることは当然だったと思います」
「え?」
「セレンティナ様は、この国の民のためにずっと尽くしてきました。聖女としてのあなたの評判はとてもいい。あなたがいてくれるから、僕達は平穏に暮らすことができる。そんなあなたが困っているなら、手を差し伸べるのは当たり前のことだと思います」
仮に家族でなくても、ロクス様は私に手を差し伸べてくれたようである。
その言葉に、私は喜んだ。聖女としての働きを褒められるのは、とても嬉しいことなのである。
「これからも、どうか聖女として活躍してください」
「はい、わかっています」
「そして、僕や他のヴァンデイン家の人々とも、家族としてよろしくお願いします」
「はい、もちろんです」
ロクス様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
これからも、私は聖女として生きていく。そして、公爵家の人間としても生きてくのだ。
きっと、これからも充実した毎日が続いていくのだろう。




