第30話 後もう一押し
私は、ロクス様とともに、ログド様を人質としているアウターノ様と対峙していた。
アウターノ様を説得できるのは、私だけである。そのため、なんとかして、アウターノ様を止めようとしているのだ。
「あなたのやろうとしていることは、あなたの思想と矛盾している。もし、無念を晴らすのに命を奪う必要がないと思うなら、その刃を捨ててください」
「……それはできない。俺は、この男を許すことができない」
私の言葉により、アウターノ様はかなり揺れていた。
もう少し押せば、アウターノ様を説得できる可能性はあるだろう。
「……父親がいなくなって、寂しかったのでしょう?」
「何?」
「あなたは、父親がいなくなった悲しさの責任を、誰かに押し付けているだけ。その悲しさを晴らすために、誰かを傷つけようとしている。そんなことをしても、あなたの悲しみが薄れることはないのに……」
「違う……そんなことはない」
私にはわかっていた。アウターノ様は、自身の寂しさや悲しさの責任を、誰かに押し付けたかったのだ。
そのために、他者を恨み、他者を傷つけようとしている。だが、それは無駄なことだ。そんなことをしても、アウターノ様の心は癒されない。
「俺は、そんなちっぽけなことのために復讐している訳ではない……俺は、俺は……」
アウターノ様は、かなり揺れていた。
あともう一押しすれば、アウターノ様を止めることはできるはずだ。
だが、言葉を間違えれば、アウターノ様が逆上することもあるだろう。慎重に、言葉を選んでいかなければならない。
「邪魔をする」
「え?」
私がそんなことを思っていると、一人の人物が部屋の中に入ってきた。
その人物は、ラウド様。ロクス様の兄であり、ログド様の息子である人物だ。
その登場は、今の状況的には良くないものかもしれない。なぜなら、ログド様の息子という存在は、アウターノ様を刺激するからだ。
「アウターノ、随分と派手なことをやっているな」
「貴様は……」
「だが、落ち着け。その刃を引かなければ、お前は一生後悔することになるぞ」
「何?」
ラウド様の言葉に、アウターノ様は顔を歪めていた。
明らかに、怒っている反応だ。こういう反応になるから、ラウド様が来るのは良くないものだと思ったのである。
「入れ」
「な、何?」
しかし、私はその直後に考えを改めることになった。
ラウド様がここに来たのには、アウターノ様を絶対に止められる理由があったのだと、理解できたからだ。
「兄さん、もうやめよう」
「カタルス……」
ラウド様の合図で入ってきたのは、二人の人物だった。
一人はカタルス様。もう一人は、高齢の女性である。
その人物を見て、アウターノ様は明らかに表情を変えていた。その表情の変化で、私はその人物か何者かを理解した。恐らく、アウターノ様を止められる最大の人物である。
「アウターノ……もうやめなさい」
「か、母さん……」
私の予想通り、その人物はアウターノ様の母親だった。
こうして、アウターノ様の説得に、新たなる人物が加わることになったのだ。




