第28話 最悪な状況
私は、ロクス様とともにログド様の部屋の前まで来ていた。
ここで、ログド様とアウターノ様が話しているらしい。
「……どうしますか?」
「……とりあえず、中の様子を窺ってから、決めた方がいいでしょう。普通に話しているのなら、今は待機していてもいいと思います。ただ、アウターノの様子がおかしかったら、中に入って止めましょう」
私の質問に、ロクス様はそのように答えてきた。
とりあえず中の様子を窺ってから、後のことは決めるようだ。
という訳で、私とロクス様は戸の近くに立つ。良くないことではあるが、盗み聞きさせてもらうのだ。
「俺の父を……お前は殺したんだ! そうだろう!?」
「ああ、私がお前の父を殺したことに間違いはない」
中から聞こえてきたのは、そのような会話だった。
あまり穏やかとは思えない会話である。
これは、私達が入っていった方がいいかもしれない。なんというか、アウターノ様は爆発寸前のような気がする。
「ロクス様」
「ええ、行きましょう」
私の呼びかけに、ロクス様はゆっくりと頷いてくれた。何も言わずとも、私の言いたいことを理解してくれているようだ。
ロクス様は、話が早くてとても助かる。この非常事態において、私は改めてそのことを実感するのだった。
私とロクス様は、それぞれ左右の扉に手をかける。二人同時に、戸を開け放つためだ。
「三、二、一……」
ロクス様の合図とともに、私達は一気に戸を開け放った。
すると、中の様子が目に入ってくる。
私が思っていた以上に、部屋の中は切迫していた。なぜなら、アウターノ様がその手にナイフを持ち、ログド様と対峙していたからだ。
私とロクス様が入って来て、ログド様とアウターノ様は驚いていた。
その隙を、見逃す訳にはいかない。私もロクス様も、一直線にアウターノ様の元へ向かって行く。
「待て!」
「えっ?」
「なっ……」
そんな私達は、ログド様の大きな声で足を止めることになった。
刃を向けられている本人からの制止の言葉。それは、私達にとって驚くべきものだった。
その隙に、アウターノ様はログド様の後ろに回り込み、その身を拘束する。一瞬の内に、人質をとられてしまったのだ。
「アウターノ、そう焦る必要はないだろう」
「黙れ……」
アウターノ様は、ログド様の首元に刃を向けた。
少し手を動かせば、その命はないだろう。
だというのに、ログド様は一切焦っていない。人質をとったアウターノ様の方が、動揺しているくらいだ。
だが、これはまずい状況である。人質をとられている以上、私達は身動きがとれない。アウターノ様を抑えることも、ログド様を助けることもできないのである。




