第26話 屋敷の異変
私は、ロクス様とともにヴァンデイン家に辿り着いていた。
「これは……」
「何か……あるみたいですね」
そこで、私達はすぐに気づいた。
公爵家の様子が、少しおかしいのである。
なんというか、異様に静かなのだ。いくらなんでも、この静けさはおかしいものだろう。
「……迎えも来ませんね」
「そうですね……」
通常なら、馬車が着いたら誰かが迎えに来てくれるはずだ。
それなのに、そういうものもない。明らかに、何かが起こっている。
「セレンティナ様、ここから先には何か危険なことが待っているかもしれません。だから、あなたは……」
「ロクス様、そのお心遣いは嬉しいですが、私はここで引く訳にはいきません。これが、アウターノ様が起こしたものかどうかということに関わらず、何か異常が起こっているなら、私も協力します」
「し、しかし……」
ロクス様は、この異常事態に私を巻き込まないように言ってくれた。
その心遣いに関しては、嬉しく思う。だが、私は引き下がる訳にはいかないのだ。
私は、聖女である。この国で何か問題が起こっているなら、それを解決するのは私の仕事なのだ。
それに、これがアウターノ様の起こした事件なら、猶更見過ごせない。カタルス様の約束を果たすため、私はアウターノ様を止めなければならないのだ。
「それに、色々と言っている時間などありません。中で何が起こっているかを確かめるのが先決でしょう」
「それは……」
私は、ロクス様に考える時間を与えるつもりはなかった。
事態は、一刻を争うかもしれないのだ。無駄な議論をしている余裕などないのである。
「わかりました。それなら、行きましょう」
「ええ」
私の言葉に、ロクス様は納得してくれたようだ。
いや、納得したというよりは、仕方がないと思ったということだろう。
しかし、今の私にとっては正直どちらでもよかった。早く中の様子を、確かめなければならないからだ。
「とにかく、中に入ってみましょう……アウターノが何かしたとしたら、犯行は彼だけで行っているはずです。それに、ここまで静かなら、それ程中に人がいるという訳ではないと思いますから、恐らく入っても問題ないはずです」
「そうですね……とりあえず、中に入ってみましょうか」
ロクス様の言葉に、私は頷いた。
恐らく、中に入ってもそれ程問題はないだろう。ロクス様の言う通り、見張りなどがいるなら、ここまで静かなのはおかしいからだ。
そういう面も考慮して、アウターノ様が何かした可能性は高い。早く止めないと、取り返しのつかないことになってしまうだろう。
こうして、私達はヴァンデイン家の屋敷に入っていくのだった。