第22話 力を貸すべきこと
私は、ロクス様の妹であるルルーラ様とアウターノ様の弟であるカタルス様と対面していた。
カタルス様は、私に対して、父親がやった仕打ちを謝罪してきた。だが、私はそんなことをする必要はないと言ったのである。
「セレンティナ様、あなたに聞いてもらいたいことがあります」
「聞いてもらいたいこと? なんでしょうか?」
「僕の兄のことです」
そこで、カタルス様は、そのようなことを言ってきた。
どうやら、カタルス様はアウターノ様のことを聞いてもらいたいらしい。
「わかりました。どういう話なのですか?」
「……兄は、父親を奪われたことで、狂ってしまったのです」
「狂った?」
カタルス様の口から出たのは、そのような言葉だった。
アウターノ様は、父親を奪われて狂ってしまったようだ。
「正直、僕は父が死んだのは、当然の報いを受けたとしか思っていません。あなたの父上を奪った報いは、誰かから与えられるべきものでした。それを実行したのが、ログド様だったというだけだと思います」
「カタルス様……」
カタルス様の考え方は、理解できない訳ではないことだった。
その考え方が、間違っている訳ではないだろう。しかし、理屈はわかっても、感情がその考えを邪魔するはずである。
それなのに、この考え方をしているカタルス様の精神はすごいものだ。
「ですが、兄は父親を奪われたという事実だけに着目して、その他の考えを排除しているのです。それは、悪しき考え方です」
「悪しき考え方……」
「僕は、そんな兄を止めたいと思っています。取り返しがつかないことが、起こる前に……」
カタルス様は、真剣な顔でそのように言ってきた。
アウターノ様のあの態度を見ていると、何か起こしてもおかしくはないだろう。もしかしたら、本当に取り返しがつかないことを起こす可能性があるのかもしれない。
「兄を止めるには、兄と同じ立場にありながら、僕を恨まないと言ってくれたセレンティナ様の協力が必要だと思うのです」
「私の協力ですか?」
「はい」
カタルス様は、私に対して協力を求めてきた。
アウターノ様を止めるには、私の協力が必要であるようだ。
私に、アウターノ様を止める力があるのかはよくわからない。だが、私の助けが必要だというなら、手を貸すことを躊躇う必要もないだろう。
「わかりました。私の力が必要なら、お貸します。どこまで役に立てるかはわかりませんが……」
「ありがとうございます。とても心強いです」
私の言葉に、カタルス様はゆっくりと頭を下げてきた。
こうして、私はカタルス様に力を貸すことになったのである。