第21話 謝罪する者
私は、ロクス様の妹であるルルーラ様とアウターノ様の弟であるカタルス様と対面していた。年下二人ということで、私も先程までよりは緊張していない。
「二人は、仲が良いのですか?」
「あ、はい。カタルス様は、小さい頃からよく遊んでもらっていて、仲はとてもいいです」
「ええ、僕にとって、ルルーラ様は妹のようなものです」
「そうなのですね……」
ルルーラ様とアウターノ様は、仲が良いらしい。
ただ、妹のようだと言われて、ルルーラ様は少し不服そうだ。
なんとなく、二人の関係性はわかってきた。これは、色々と大変そうな関係性である。
それにしても、カタルス様は本当に穏やかな人だ。あのアウターノ様の態度を見た後だと、弟だということが信じられないことのように思えてくる。
「……僕の兄には、既に会ったのですか?」
「え? あ、はい。先程、廊下で会いました」
「そうですか……」
私がそんなことを考えていると、カタルス様はそのような質問をしてきた。
先程、ロクス様が私にアウターノの弟と紹介した時点で、既に私が会っていることは容易に予測できていただろう。
そのため、カタルス様は特に驚くこともなかった。代わりに、少しだけ悲しそうな表情になったのである。
「セレンティナ様、僕はあなたに謝罪しなければならないと思っています」
「謝罪? 何故ですか?」
カタルス様の言葉に、私は少し驚いた。
私に対して、カタルス様は謝罪しなければならないと思っているようだ。
だが、謝罪するようなことをされた覚えはない。そもそも、初対面なので、そんなことがあるはずはないのだ。
「僕の父があなたの父上にしたことを、謝罪させてください」
「それは……」
「謝って済むことではないと思っています。ですが、一言謝らせてください。本当に申し訳ありませんでした」
カタルス様は、ゆっくりと私に頭を下げてきた。
自分の父が、私の父にやったことに対する謝罪。そんなことをされると思ってもいなかった私は、思わず固まってしまう。
だが、すぐに考えは纏まった。カタルス様には、頭を上げてもらうべきだ。
「……頭を上げてください、カタルス様」
「しかし……」
「私は父に対する思い出はありません。ですが、それでも父を追い詰めたというあなたの父上に対して、何も思わない訳でもありません。ただ、それでも、私はあなたに謝ってもらいたいとは思わないのです」
私は、カタルス様に謝ってもらいたいとは思っていなかった。
なぜなら、そんなことはお門違いだからだ。
「あなたの父上がしたことは、あなたの父上がしたことです。それをあなたが謝る必要なんて、ないと思っています」
「でも、僕は……」
「私は、あなたのことは恨んでいません。だから、あなたが罪悪感を覚える必要なんてないのですよ」
「セレンティナ様……」
私は、カタルス様の心にある罪悪感を見抜いていた。
彼は、父親がしたことによって、私に引け目を感じていたのだ。
しかし、そんなものを感じる必要はない。父親がやったことは、父親がやったこと。それに対して、カタルス様が責任を感じる必要などないのだ。
「……ありがとうございます」
カタルス様は、顔を上げてから私にそう言ってきた。
これで、彼の罪悪感が少しでもなくなったのならいいのだが。