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4話

「失礼致しますわ。こちらにエルク・ハーベスト様はおりまして?」


エアルデ先輩とハース先輩から事細かに、義姉のおだて方や誘導の仕方を習っていると

艶を含んだ鈴が風と踊っているような声が受付カウンターの方から私達にかけられる。


そんな詩的な表現が似合う程の美声を持つ方は、やっぱり容姿も整っているもので

声がした方へ顔を向けると、緩やかに波打つ黒髪を持つ、学園内でも有名な先輩がそこにたたずんでいた。


「申し訳ないですが、エルクはここには来ていないですね。」


「そうですの。邪魔を致しましたわね。それではごきげんよう。」


ハース先輩が、ここにはいない先輩の不在を伝えると鈴の声の麗しき持ち主、エアトス・レッドアイズ先輩は、優雅に一礼すると足跡を立てることもなく図書塔から立ち去って行った。


ここは学園内の図書館としての施設なのだから、委員以外の生徒が来ることも当然あり、在学中のレッドアイズの妹姫様が来る事も何もおかしくはないのだが、

滅多に見ない有名人の一挙一動を凝視してしまうのは仕方ないことだと思う。


声の主とのやり取りを終えたハース先輩が席に座ると、話題は当然ここにはいない、もう一人の図書塔管理委員の先輩のことである。



「今のって、レッドアイズ家の双子姫ですよね?!エルク先輩を探しているということはあの噂って本当なんですか!」



私を盛大に巻き込んだ婚約破棄騒動の噂とともに学園内を駆け巡った、身分差の恋の行方の噂。

当人達と学年が違っていたり、婚約破棄騒動のせいで学園にいなかったりで真偽がわからなかったのだが、学園のこんな端にある図書塔まで来るなんて、やっぱり本当だったのだろうか。

雲の上の人の恋バナにドキドキしてしまう。


「噂?あぁ、エルク先輩が《レッドアイズ家の双子姫》に婚約を迫られたってやつね。」


「そうです!それです!どうなんですか、エアルデ先輩!!」


「本当みたいよ。この間、ここでエルク先輩がなんか百面相してたもの。」


なんてことだろう。見たかった!とてもとても見たかった!雲の上の人と、自分が知る身近な人との身分差の恋バナなんて、わくわくしてしまう。これこそ恋愛小説のようではないか。


自分が関わるわけがないと分かっているからこそ、事の顛末が知りたくてソワソワしてしまう。

読者としての美味しいとこばかりじゃないか。むしろこの話題だけに没頭していたい。

自分に降りかかっている問題なんて忘れてしまいたい。


「でも、エルクは今のところ逃げ回ってて、特に進展はしてないみたいだよ。まぁ、彼のことだから進展させる気もないだろうけどね。」


ハース先輩の情報に疑問しか出てこない。あんなに美しい双子姫に迫られて、なんで逃げ回っているのエルク先輩。


「エルク先輩、どんな人が好みなんでしょうね。」


「エルクなら妹姫みたいな淑やかな方が好みだと思うけど、なんだかんだ似合うのは姉姫のようなハッキリとした方だと思うな。」


「あー、わかります。わかります。」


話題の人物、エルク・ハーベスト先輩の好みを想像し、ハース先輩の言葉にエアルデ先輩ともども大きく頷いてしまう。


同じ図書塔管理委員であり、私よりも2学年上の特に特筆するものもない地味というか、平凡というか普通の先輩。


年下のはずのエアルデ先輩にいい様に扱われていたり、知識では私は全然足元にも及ばないハース先輩と楽しそうに語りあっていたりすることを考えると、

普通の人とは言えないのかもしれないけれど、外見は本当に国内によくいる髪色と瞳の色だし、顔立ちも可もなく不可もなくといった平凡そのもの。

エルク先輩と私は、平凡同盟なんてものを冗談で組む位に普通に良い先輩なのだ。


「というか、《レッドアイズ家の双子姫》は、エルク先輩の何が良くて婚約を迫っているのでしょうね。」


「そうだね…僕が見た限りだと、婚約を迫っているのは姉姫だけのようにも見えるんだよね。」


「え?噂では双子姫に迫られてるってことみたいですけど。」


「そうなんだけど、実際に姉姫がエルクに婚約を申し込んだ場面は、色んな人が見てるんだけど妹姫が申し込んだっていう場面を見た人がいなくてね。」


「妹姫が人の目を気にしてるってことじゃないんですか?」


「まぁ、そうとも言えるんだけどね。」


三人であれじゃないか、これじゃないかと言い合うも答えがでるわけもなくて。

何故今日に限って来てくれないかとエルク先輩を恨めしく思うばかりだ。




充実したランチタイムを終え、午後の授業を受けるべく教室へと入るとそこにはここ最近の話題の少女が一人。ここ数日で嫌って程に姿を見た姉の姿である。


しかし、何故ここにいるのか。

姉とは選択している授業は全て違うから、同じ教室になるわけないのにどうして。


なんて疑問に思いながら義姉の姿を無遠慮に眺めているが、当の本人は私に気が付かないのかぼんやりと教室の窓から空を見上げるばかり。


「あの、ライナ義姉様…。何故ここに?」


覚悟を決めて呼びかけると物凄い速さでこちらを見られた。怖い。


「あぁ、マリアーナ。あなたこそどうしてここにいるの?教室、間違っているんじゃない?」


「いえ、ここは領地経営理論の教室なので、私は間違っていませんが…。」


「領地経営…あぁ、なるほどね。」


何がなるほどなのか、激しい思い込みは今の会話でどこまでの物語を生み出したのか次の言葉に不安で鼓動が跳ねる。


「せこい真似よね…。教室、間違えてのは私みたい。それじゃあね。」


ぽつり、と呟くと私を見ることもなくライナ義姉様は教室を出て行ってしまった。

なんだろう…。今朝とは雲泥の差で、とっても静かだった。初めてみた普通な態度が逆に不安になってくるなんて私も物語の登場人物の感性に染まってきているのかしたら…。

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