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プロローグ

書き直しましたが、展開は変わっていません。

ストレスフィア王立学園。

それは国一番の教育機関でもあり、国最大の研究機関でもある施設の名だ。


基本的には貴族や王族、一部の選ばれた平民への社交話術やマナー等の教育機関が主な役割を果たす、どこの国にもある教育機関なのだが、我が国「フィフィスアース」の学校は他とは違うのだ。


入学を希望するのであれば細かく説明しても構わないところなのだが、今はとてもタイミングが悪い。なぜなら…。



「シャリアーナ。君には悪いが婚約を破棄させてもらう。」

「それは…、何故でございます?」


なんて王道な台詞だろう。

数ある台詞の中から、そのやりとりをチョイスしたお二人は相性抜群なんじゃないかと思う。


『婚約破棄』した男子生徒。『婚約破棄』された女生徒。

そして男にすがりつくように立つ女生徒。


このキーワードだけでも、この間まで読み終えたばかりの物語の再現シーンの様でドキドキしてしまう。


「俺は…、俺は君とは良い関係を築けるとは思っていたんだが、知ってしまったんだ。愛する人と共にいたいという、何ものにも変えられない程に深い想いを…。」


「そんなっ!エクイテ様…幼き日に婚約を交わしたあと時から、我がハインツベル家とブルーアイズ家はお互いに良好な関係を築き、私は…未来のブルーアイズ伯爵夫人として…ブルーアイズ家に恥じない、貴方に恥じない女性として努力して…。」


男子生徒の名は、エクイテ・ブルーアイズ。

ブルーアイズ伯爵家の長男であり、さらさらな金髪に深い青色が綺麗と評判の学園の3年生である。

女子生徒からダントツの人気の外見に加え、騎士団からもスカウトされているとの噂。


対する女生徒は、シャリアーナ・ハインツベル。

ブルーアイズ先輩と同じく学園の3年生であり、ハインツベル伯爵家の次女。

ふわりと柔らかそうに揺れる茶色の髪を背中に流し、澄んだ青い瞳は常に未来を見据えているといわれるほどの男女問わず尊敬の念を集める女性。


このお二人は入学前からの婚約者同士で、美男美女のそれはそれはお似合いの二人だと、学園内でも有名だったというのに、いったい何があったというのか。

いや、どうみてももう一人の女生徒が問題ってことは一目瞭然なんだけど…。


「…エクイテ様。信じたくはありませんが、その…腕に抱かれている方が、共にいたい…と思われた…お相手なのでしょうか…」


「ああ。私の愛する女性、ライナ・ブリューナク嬢だ。」


「ブリューナク?あぁ、貴女があのブリューナク子爵の…」


ブルーアイズ様の腕に縋りつく女生徒は、学園内で瞬く間に広まった有名になった転入生のライナ・ブリューナク。

ブリューナク子爵が大人の事情により平民との間に授かった、庶子。

そして大人の事情により、半年前に子爵令嬢と名乗ることが許された、元平民。


ここまでは貴族間の話題でよく聞く話なので、わざわざ学園内で噂になることもないのだが、彼女については良くない噂がついて回る。


高貴な方のお力添えにより、入学時から1学年上の貴族クラスへ編入した裏口入学の噂や、天真爛漫風を装って色んな男子生徒に声をかけているとか、

道なき暗い恋へ男子生徒を引き込んだとか噂とか、いずれも噂の範囲でしかなかったのだが…。


まさか、本当に道なき恋を突き進めていたなんて。

それお相手があの、エクイテ・ブルーアイズ様だったなんて。


この衝撃の事実に、お二人のやりとりを見回る数多くの生徒が驚いただろう。

相思相愛のお二人の間に割り込めると、誰も想像すらしなかったというのに。


そう、数多くの生徒である。


幼き頃からの婚約を心変わり…いや浮気が原因で破棄したい、という恥ずべき交渉をブルーアイズ様はランチ時の中庭で始められたのだ。


中庭を取り巻くように隣接している校舎や渡り廊下やベンチにも、当然のように憩いの時間を堪能していた人がいる。

それはもう、上からも横からもばっちり見られる場所に何人もいる。


とても正気とは思えない行動。

これが未来の伯爵なのかと、ため息をつく生徒や教師の気持ちも分かる。


「…エクイテ様。私との婚約を破棄されたいというお気持ちはわかりました。ですが、この婚約はハインツベル家とブルーアイズ家の契約です。私たちでは勝手に破棄することはできません。」


「そうだな。だがしかし、どんなに家の契約が強固であったとしても、俺は君とは結婚するつもりはない。」


「…私の気持ちや立場など、どうでもいいとおっしゃるのですね…。せめて、せめて、このような場などではなく、人知れずに解決することもできましたのに…。なぜ、このような晒しもののような…。」


シャリアーナ先輩の瞳から透明の涙が溢れて零れていく。


どこまでも澄んだ、青空のような青瞳からあふれる透明な涙をぬぐうことも忘れ、シャリアーナ先輩は我慢の限界のように声を震わせていた。


それもそうだろう。原因は相手の浮気であったとしても、完全無欠な伯爵令嬢が『婚約破棄』される瞬間を数多くの生徒達に一部始終見られたのだから。


しばらくは学園内で噂の的になり、居心地は最悪な上に学園に在籍している生徒達より各々の親御様へと脚色された醜聞が広まり王族の方もご参加される貴族の最大の仕事場である社交界で、面白おかしく話のネタにされるであろうことは容易に想像がつく。


女性側には落ち度はなくとも「『婚約破棄されたご令嬢』として、今まで何人もの女性が傷物扱いされてきたのだ。


「確かにシャリアーナには、このような場で宣言したことは申し訳ないとは思っている。だが、ここで宣言する必要があったのだ。多くの者達が集まるこの場で、ライナと俺と君の関係をハッキリさせるために。」


その言葉にシャリアーナ先輩は感情が落ちてしまったようなお顔で、じっとブルーアイズ様を見つめられている。


ブルーアイズ様の説明を理解できた人がいるのか、ふと周囲を見回してみるとほとんどの人はシャリアーナ様と同じような表情をしているが、一部はあまりの言い分に青ざめていたり、怒りを抑えていたり、とても表情豊かだった。


「そんな!そんなことのために、貴方様は私に辱めを…」


「そんなことなのではない!ライナへの愛を簡単に言わないでくれ!」


「貴方は、いったい何を言っているのですか!貴族たるもの常に毅然と、誇りと立場を忘れずに。との教えはどうしたのです!」


「そんなもの!ライナが手に入るのなら、俺は喜んで捨て去ろう!」


「由緒正しいブルーアイズ家の後継者ともあろう貴方がッ、なんということを言うのですか!」


シャリアーナ先輩とブルーアイズ先輩の交わす熱論の最中、空気も読まずに飛び混んできた少し高めの可愛い声。


「ごめんなさい、シャリアーナ先輩!」


それは、ここにきて漸く口を開いた問題の転入生、ライナ・ブリューナク。


「私とエクイテ様は真実の恋人なんです。このまま婚約を続けていたら、好きな人に愛されずに一生を終えるなんて悲しい人生を…私。シャリアーナ先輩にはして欲しくないんです!」


あまりの内容に誰もがドン引きしたのは言うまでもない。当事者の一組の男女以外の誰もがドン引きしている中、問題の転入生はさらに続ける。


「それに、エクイテ様を責めるような言葉はやめてください! 好きな人を傷つけるようなことを言うなんて酷いです!感情があるんですよ!」


「ライナ…そんなにも俺もことを想ってくれているんだね。」


「勿論です。私は家のために貴方の人生を犠牲にさせません!」


転入生の放った言葉に、恐々と見守っていた者達の体に緊張が走り、小さな波紋のように不穏な空気が流れ始める。


元平民だった彼女には、家のための犠牲という言葉にどれだけの辛さや責任、苦しみが付随するのかわからないのであろう…。


「お家の犠牲に婚約者を決められたエクイテ様が可哀そうとは思わないんですか!?人を好きになる気持ちが育つ前から、婚約者を一方的に決められ、自分の意志が無いように、次の伯爵になるのだと、大きな期待を背負ったまま、愛の無い人生を孤独に生きていかれるエクイテ様のお心をお慰めしようともせず、エクイテ様が悪いのだと!家の権力をちらつかせて、破棄を拒否なさろうなどと!!それにっ。」


「お黙りさないブリューナク子爵令嬢。」


「…え?」


聞くに堪えない子供のような持論を滝のよう語り始めた転入生の言葉をさえぎるように、呟かれたシャリアーナ先輩のお声は、今まで誰も聞いたことのない程に低く、


硬い氷のような冷たさに、思わずといったように彼女は言葉を失ったようだった。


「ブリューナク子爵令嬢。誰が貴女に発言を許しましたか。子爵令嬢である貴女が、伯爵令嬢である私に声をかけることは例え学園内であったとしても恥ずべき行為です。


それに貴女と私は初対面ではないですか、自己紹介も挨拶もせずに許可なく名前で呼ぶなど、礼儀知らずにも程があります。


礼儀知らずの小娘に、私が非難されるなど…。そのスカートのラインの色から見て、2学年なのでしょう。その程度のマナーもできぬとは、あの噂も真偽を調べた方が良いのではなくて?」


「…酷いッ」


「シャリアーナ。今のは言い過ぎではないのか?ライナは複雑な生い立ちなんだ。君からしたら私をとられて悔しいのかもしれぬが、その憂さ晴らしに罪なき者へ八つ当たりなんて醜いよ。」


「八つ当たり、ですって…?」


シャリアーナ様の纏う空気が一度下がったように思う。

確実にお声は低くなっているのだから、間違ってはいないと思う。まぁ、ここまで馬鹿にされたんじゃ完璧なご令嬢とはいえやさぐれたくもなるというもの。


「ブルーアイズ様。そこまで彼女を気にかけているのであれば、何故諫めぬのです。我が家との約束を反故にしてまで、彼女と共にあることを選ばれたのでしょう。そのような態度で伯爵夫人として今後過ごしていけると、ブルーアイズ家を名乗ることに値すると、本当に思っているのですか?」


「ライナは、これから淑女教育を自ら学ぶと言ってくれたのだ。元平民の彼女が今から淑女教育を学ぶのはとても困難ことだろうに…なんて健気で優しいんだ。」


「はい!エクイテ様に似合う淑女となるよう、私がんばりますね!」


転入生の緊張感のない「がんばります宣言」に周りで聞いていた女生徒達が固まった。

今から、同年代の女生徒や既に夫人として領地の運営に携わっている先輩方と遜色ないレベルにたどり着けると思っている世間知らずに、空いた口がふさがらないとはこのことだと、まさか実体験として学ぶことになるとは。


淑女教育は貴族として生まれた瞬間から始まっているのだ。

子供の頃から体に叩き込まれる足元が見えないドレスでの立ち居振る舞いのマナーに、お約束の舞踏会に必須のダンスの練習に、姿勢が崩れないようにと徹底的に教え込まれるお辞儀の仕方。それを今から学ぶというのだろうか。


誰しもが思うであろうこの疑問は、やはりシャリアーナ先輩も感じているようで、その表情は少し哀れみを含んでいるようにも見えた。


それよりも、シャリアーナ先輩は先ほど『ブルーアイズ様』と家名で呼んだのに皆がざわつく。

今まで名前で呼びあっていたのに、この短い間に今まで培ってきた信頼や情といったもは綺麗さっぱり消えてしまったようだった。


「それではブルーアイズ様、私はこれで失礼いたします。」


やや早口でそういうとシャリアーナ先輩は優雅にお辞儀すると、颯爽と去っていかれた。

それにつられるよに、興味をなくしたように野次馬達はひとり、またひとりと早々に立ち去っていく。


流行りの物語のように、「真実の愛」を見つけた、二人の思い描いていたストーリーは

家同士の婚約破棄を行い、真実の愛を見つけた二人に賞賛の声がかけられる-----。といったものだったようだが、誰一人として賞賛する者はいない。


ライナ・ブリューナク。

大人の都合により末端とはいえ突然貴族世界に放り込まれた少女。

これから生きていく世界に疑問を感じ、解決することなく今までに自分が培った経験と知識で乗り越えられると信じている愚かな少女。


そんな愚かな少女の義妹、それが私…。

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