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Hands-光腕の銀狼-  作者: AOH村
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終章 収束する騒動、新たな謎

「消えた……?」

静寂に包まれる司令室内にただ一人、阿座上解析官の声が発せられる。

現状、用意できるあらゆる手段、火器を使用してもなお仕留めるに至らず、さらには壊滅的なまでの被害を負ってしまうほどの怪物二体をこうもアッサリ撃破するとは、未だに現実としてソフィーだけでなく、誰もが実感できずにいた。

ましてや六年前に現れた異形の存在の一体、通称『ベータ』がまさかあの怪物たちと敵対しているとは、誰もその時まで予想だにしていなかった。

そうこう思考を巡らしていくうちに、衝撃で麻痺していた頭が回り出すとともに、まだ興奮と驚きの連続で思考停止しているような職員たちを指示しなければいけない、と局長義務を思い出した。

「総員、厳戒態勢は維持したままで。ナグモオペレーターは他の情報士と連携して、前線での生存者の救助隊の編成、及び支援をお願いします。」

「りょ、了解ですっ!」

「さっきの戦いでファイターB小隊の隊長機は健在であるはずです。脱出予測ポイントを割り出し、捜索もまたお願いします」

ソフィーの迅速な現場指示と対応により、職員全体の止まっていた時間が動き出し、それぞれの持ち場の役割を全うし始める。

生存者の救助、被害状況を纏め、戦闘データの収集及び解析、そして怪物との戦闘報告書作成、と職員総出で対処する事柄を上げていくとキリが無いとソフィーは悟った。

だが、局長として事態の把握、そして収束のため、第一に尽力しなければいけないと自身に課せられている義務は理解していた。

私情を挟む余地など、現状あってはならない。

それを察してか、傍に立つ八馬吹副局長はソフィーに向けて進言した。

「局長」

「何かしら?」

「我々にはまず優先的に確認に向かわねばならないことがあると……」

「そうね……。でも申し訳ないけど、対応と救助班の編成をあなたに一任します」

「承知いたしました。加えて失礼ながら申し上げさせていただきますが、局長は病み上がりの身……。そろそろ休まれたほうがいいかと存じます」

ソフィーは八馬吹副局長の申し出に躊躇した。

正直なところ、確かに一週間ほど眠り続けていた身体は体力が落ちて、既に限界を迎えている。

身体の節々がそれを訴えだしている最中で空元気を出しても、後々になって周囲に迷惑を掛けてしまうのが目に見えている気がする。

「でも……」

「あとのことはお任せください。伊達に長い間、あなたの手腕を見てきたわけではありません。ここからは私が引き継がせていただきます」

「……それでも、最低限のことを局長と行わなければ、示しが尽きません」

「それでしたら、局長の足で民間人の確認をお願いできないでしょうか?」

「……あなたって人は」

「どうかご容赦を」

「……いいえ、ではあなたに一任します。後のことをよろしくお願いします。情報は逐一、私の端末に」

「承知しました。一応、各収容者の配置図を局長の端末に送っておきますので、道中にでも確認をお願い致します」

「ありがとう」

踵を返すように身体を反転させて、司令室を後にする。

ソフィーの向かう場所は既に決まっていた、既に八馬吹副局長からの情報を閲覧しながらエレベーターでD区画まで向かっている。

そして件の部屋の扉前に到着し、鼓動が高まって動悸と息苦しさを覚える。

深呼吸を一つして、それらを鎮めようと胸に手を当て、自分自身を落ち着かせようとする。

きっとこの扉を開けた時、そこには絶望的な光景が広がっているのかもしれない、たった一つの心の支えである、あの子を失ったという事実と向き合うことになるかもしれない。

それは八馬吹副局長も理解のうえ、他の職人たちもあえて黙認してくれていた。

であれば局長としてどのような事態がこの先に待ち受けていようとも、それを受け止めなくてはいけない、それでも前に進まなければいけないとソフィーは自身に言い聞かせ、その扉を開ける決心をした。

扉はIDカードを翳しての開閉式、ソフィーはそれを持ってはいないが、局長が持つ端末はいざという時も考慮してIDカードのマスター機能も有していた。

端末を扉の横に備え付けられているセキュリティー機器に翳した時、認識及び承認の際の独特の音が機器から発せられる。

独特な音を立てて自動スライド式の扉が開くと、外の冷たい風とともに眩い夕焼けの陽射しが身体に当たり、思わず手で顔を覆う。

ゆっくりと手を下ろしていくとともに、そこに広がっている光景を目の当たりにしてソフィーは驚愕した。

D区画はもともと、職員の休憩、物置など多目的な用途で使用されている場所であり、急遽仮設の医療大規模収容施設の設備を整えた真っ白く清潔感がある空間であった。

だが、その壁は清潔感など微塵もなく、焼け焦げ、煤と灰だらけの部屋となり、辺り一面に損傷し、使い物にならなくなった医療器具が散乱しているのが見て取れた。

外側の壁は破壊され、吹き抜けの状態となり、まさに野晒しにされていた。

だがそんな破壊現場を見て、ソフィーが驚いたわけではない。

彼女が自身の目を疑うほど驚愕したのは別にあった。

「生きている……」

なりふり構わず黒焦げになって所々溶けている床の上を、その部屋の片隅、一人の少年が眠っている寝台まで駆けていく。

彼の顔が目と鼻の先まで近いことも気に留めることもなく、ただ愛しい息子を想う母親のようにその胸に縋りつき、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら彼の名を呼んだ。

「ユウタくん!ユウタくん!」

大粒の涙が優太の頬に垂れ落ち、重力に従って下へと伝っていくが、彼はただ静かな寝息とともに深い眠りについたまま、目を開けることはなかった。

それでも生きている、その事実だけでソフィーは胸が張り裂けるほどの喜びに満ち溢れ、恥も外聞も気にする余裕など無いほどであった。

そんな喜ばしい状況だからこそ、疑問がソフィーの中でより一層深まった。

部屋が半壊状態、そして部屋の様相からして敵生物の攻撃の魔の手は部屋全体まで行き届いているのは明らかだ。

しかし目の前に眠り続けている優太にどこか異常が見当たるわけでもない、外傷もなければ気を悪くしている素振りもない、極めて健康体と言っても過言ではないだろう。

そして、それは彼に限った話ではなかった。

一部屋に付き、八人が収容されて治療を受けているが彼以外の七人の生存者も同様の状態だ。

彼らと彼らが使用している寝台、取り付けられている器具が全て健在なのだ。

だが、それはなぜ……?

「ここで一体、何が……?」

彼女の高まる疑問の声は、破壊された壁から入ってくる突風で虚空に溶け、消えていくのだった。


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