段ボール
あれから二週間がたった。林太郎は当選した手紙を毎日みながら焦る気持ちを押さえていた。楓がいない悲しさを埋めるには、どうしても楓の変わりになる新たな人物が林太郎には必要であった。それが生身の人間ではなく機械の人形であろうと、もはや林太郎はどうでもよく、鬱屈した気分をきっと楓の生まれ変わりが林太郎の悲しみを埋めてくれるのだろうとそう信じていた。
午後、林太郎がベットに横たわりぼんやりと外の景色を眺めていた。
今日の午後には配達員が荷物が届きますよと、メールが届いていた。林太郎はいつ届くのかと最初は苛立っていたが、やがて時間が過ぎていくと感情は薄れ、同じ景色をひたすら見ている。それから暫くして「ピンポーン」と、家のチャイムが鳴った。母親が出る前に自分がいかないとまずいことになると林太郎は起き上がり玄関の鍵を開けた。扉を開くと配達員が頭を下げて大きな段ボールの荷物があった。
「こんにちはお届け物です。お届けの品もってきました」
「ありがとうございます」
配達員はボールペンをポケットから取り出し、指でボールペン先をだすと林太郎に手渡した。
「では、こちらにサインをもらってもいいですか」
「はい」
林太郎は受け取り人の欄にサインをすると、配達員に返した。
「ありがとうございます。では」
軽く頭をさげると配達員は荷物を家に入れて、玄関をしめ次の配達に行った。
母親に気づかれる前に荷物をもっていかないと何を言われるかわかったものではない、と林太郎は思い大きな段ボール持ち上げると急ぎ足で運ぶ。大きな段ボールだけに中身が重いのか林太郎は苦しそうに階段をあがった。自分の部屋にはいると掻いた汗を左腕で拭い、苦しそうに林太郎は息を切らしていた。
部屋にあるカッターナイフで段ボールについているテープを切り、大事に梱包されている発砲スチロールを外からだした。
段ボールの箱に入っていたのは楓そっくりなアンドロイドロボットが入っていた。ちゃんとした精密の作りには林太郎もため息がでた。ロボットは裸で何も着ていない。綺麗な肌にピンク色の乳首。胸の形まで本物の楓そっくりであった。箱に入っている楓を見て林太郎はすごく懐かしい気持ちになった。目頭が熱くなり涙が零れ落ちる。感情が熱くなると同時に、脳裏には母にこの丸裸のロボットを見られてはなにか変な勘違いを起こされるのではないかと思い、なにか楓に服を着させないといけないと林太郎は考えた。
しかし、女性用の衣類など持っていないので、なにか替えになるものはないかと、考えた結果母親の服をもってきて着させるのはどうかと思いついたが、なにかそれはそれで気色の悪いものを感じ、代用は自分の衣服を着させることにした。
押入から二、三着洋服を取り出し、ロボットを段ボールの箱から取り出した。持ち上げて時、重みも普通の一般女性並に重量があって苦労した。
介護士のように楓にズボンを履かせ、服も着させた。ベットにロボットをベットに寝かせると、林太郎は何処に起動させるスイッチがあるのか探した。
体のあちらこちら見て触った結果。首の辺り赤いボタンが一つついていた。
『ここかな』林太郎はこれがロボットの起動スイッチだと思い押した。
暫くスイッチを押してからなんも反応は無かったが、ロボットの目が少しづつ開きはじめ、手を握ったり絞めたり、足を動かしてみたりと、動作確認をしはじめた。ロボットが動きだしたことに林太郎は嬉しかったが、動作確認をしている動きかたは見ていて、やはり人間ではなく生き物とは感じない不気味なものを感じた。
ベットからロボットは起きあがると頭を下げて一礼をした。
「こんにちわご主人様。ヒューマン・イズ・ロボット社の123号ですこれから長いお付き合いになりますが宜しくお願いします」
無表情で目は見開いたままじっと林太郎を123号は見つめていた。
「よ、よろしく」
「ネーム設定ができますが、123号のままでよろしでしょうか。それとも私に名前をつけますか」
「名前は佐藤楓。楓でいいよ。楓よろしくな」
「はいかしこまりました。私は楓というのですね。了解しました」
楓は左右首を振りながら林太郎に聞いた。
「私楓はこれから何をした」
「何もしなくていい。俺の近くにいてくれ。ずっと俺の近くに。楓。なんで自殺なんてしたんだ」
「私は自殺などしていませんご主人様」
自殺をしたなど楓に似たロボット自身なにを思うのか、ロボットは真っ直ぐな目線で林太郎を見つめている。
ロボットを抱きしめながら林太郎は泣いていた。漸く自分の元に楓が帰ってきたという安心感が、苦しめられていた心が解放されてことに安堵していた。しかし、楓にそっくりなロボットは何を思うのであろうか……それは誰にも知らない、この世の中に今初めて意思を持ち始めたのだから。