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人造の哀憫  作者: 森野健一
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目が覚めて

「うわああああああああああああ」

 戸田林太郎は驚き起きあがった。窓からは朝日が差し込み、雀の鳴き声が聞こえてくる。

 林太郎は事故にあったのかと思ったが、どうやら夢だったらしい。夢で魘されてたかと思うと、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

 ベットから起きあがり、呼吸を整えると、ゆっくりと床に足をつける。生きた心地がしなかった林太郎は自分の体を触りこれが現実なのか確かめるように、自分の頬を軽く叩いた。

「ああ、大丈夫だ俺は生きてるんだ」と、深いため息を吐き、スマホで時間を確認する。時刻は朝の7時。林太郎はそろそろ学校に行く時間だと思い食事をとることにした。

 朝食をとるべく食堂に行くと、目元が細く、鼻立ちが小さく、年の割にわ若く見える。母親の戸田和泉が料理を作っていた。

「お母さん。腹減った。ご飯まだ」と、目を擦りながらいった。

「り、林太郎。お、おはよう。もう少しでご飯できるから待っててね」

 和泉は目を真っ赤にさせて、涙を流していた。流れる涙を拭きながらフライパンに焼いている卵焼きを何度もひっくり返す。

「お母さんなんで泣いてるの」

「き、昨日のドラマが凄く感動しててね。思い出してまた泣いちゃってたのよ」

「ふうん。そうなんだ」林太郎はなんで涙もろい母親なんだろうと、どんなドラマを見て思い出し泣いてるのか理解しがたいが、いい年こいて朝から泣かないでくれと思った。

 林太郎は何気なくテレビのリモコンを手に取り、電源をつけた。適当にチャンネルを廻して、ニュース番組を見ることにした。ニュースの内容はバーチャルアイドルのスキャンダルだったり、偽造アバターや違法のアバターを使い個人情報を引き抜き金を横領したというありふれた内容のものだった。ニュース番組がCMに入った。料理を紹介するCMやお酒のCM、これといって興味もないどうでもいいものばかり流れていった。興味もないものばかりただ映像を眺めていると、林太郎はあるCMに釘付けになった。CMの内容というのが自分のお好みのアンドロイドロボットを作って一緒に手を繋ぎ散歩をしたり、又は自分の好みの異性のアンドロイドロボットを作って彼女にするなど、老若男女性別年齢を好みませんというキャッチコピーを売りにしているアンドロイドロボットを作る会社であった。

「いいな俺も理想の可愛い女の子が欲しいな。あ、俺には楓がいるからいらないか」と、林太郎は鼻で笑った。

 楓とは林太郎の付き合っている彼女で、高校に入った時に同じ席になり話し合う打ちに意気投合し、一緒に帰ったり一緒に弁当を食べたりしているうちに、林太郎から告白したら楓も頬をそめ了承を得てお互い付き合っうことになり、もう半年以上の付き合いになる。

 俺には楓がいる。そう考えるとアンドロイドロボットなんていう存在自体莫迦莫迦しく思え、テレビの電源を消した。

 和泉が食卓に卵焼きとご飯、それにお味噌汁を林太郎のテーブルに置いた。

「いい匂い。頂きます」

 林太郎は箸を手に持つと、卵焼きを突っつきながらご飯を食べ、お味噌汁を啜った。無我夢中でご飯を食べていると、まだ母親の和泉は涙を流していた。あまりにも母の異常な涙の行方はドラマにあるとはいえ気味が悪い。訝しげながらも林太郎は時々母の顔を見ながら食い物を口に運んだ。

 ご飯が食い終わるとテーブルに箸を置き、「学校に行って来るね」と座ってた椅子から林太郎は立ち上がった。

「いっちゃ駄目。外にでちゃ駄目」と急に和泉は大声をあげた。

 急な母の態度に林太郎は驚いた。母親の目は何処か悲しい目をしている。流れた涙は頬から零れ落ち、頬には濡れた涙の線がより一層太くなっていくのであった。林太郎はこれはただごとではないと感じた。

「どうしたの急に」

「あんたはね林太郎。交通事故にあって三年間寝たきりになっていたのよ」

「う、嘘だ。そんな莫迦な」林太郎は腹を抱えて笑いだした。

「本当なのよ。信じられないでしょうけど本当のことなのよ」

「わかったわかったよ。自分の部屋に俺は戻るから」

 母の態度と言っていることに非現実だと林太郎は信じようとも思わなかった。なんせ自分は今こうして生きている。手を動かしたり、足を動かしたり物を食べたりしている。生きている実感があり、事故の後遺症などまったく無かった。母はどうかしていると仕舞いには、母に対してなんらかしらの妄想に掛かっているのではないかと心配になってきた。

 自分の部屋に入ると学校の制服に着替える。鏡を見て身だしなみが済むとスマホで楓に電話を掛けた。電話に出たのは無機質なアナウンスの女性で、「現在この電話番号は使われておりません」と流れた。

「あ、あれ。楓スマホ変えたのかな」

 林太郎の心臓は早く脈を打ってくる。楓とは最近喧嘩もしていないし別れる理由もない。楓とのアプリのメッセージ遣り取りと、スマホの時間表を林太郎は見比べた。確かに三年の月日が過ぎ去っていた。

 手に持っていたスマホを地面に落とすと、動悸がして眩暈がしてきた。 まるで浦島太郎が竜宮城にいって玉手箱を開けておじいさんになるような、スマホという玉手箱を手にして真実を知ってしまったように……

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