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イベント(仮)

浮かれた気持ちを静め、半ば睨みつける形で彼を見た。


私より少し淡い金色の髪、彩度の低い赤色の眼、生気がない垂れ目、猫背の白衣姿、馬鹿にしているかのような笑みに口調。

どれらの要素を引き出しても覚えはなく、むしろ攻略キャラにしては怠惰な雰囲気が些か漂いすぎている気がして、どうも人気が出るキャラとは思えない。

加えてあの乙女ゲームは「正統派恋愛ファンタジー」であり、この男とはその恋愛が育めはしないだろう。

「まァ、そういうわけだから」

再び杖をこちらに向けて、面倒そうに言い放つ。

「二度とこんなくだらない要件で呼ぶんじゃねェ」

そうして再び扉を雑に開け放ち、挨拶も振り返りもせずどこかに行ってしまった。

「野蛮」の一言に尽きるその振る舞いであり、メイド達はわなわなと震えていたり、顔を青くしたかと思えば赤くなったりと、せわしなくしている。


「大事を取って今日は安静になさって下さい。」

その中でも落ち着き払った様子のメイドは他のメイドを窘めながら、先ほどの彼とは対照的な態度でこの部屋を後にしていき、きっとこれが私が目指す「振る舞い」なのだろうと心の底から思うが、

ニートだった私には辛いなぁと少し憂鬱になってしまい、先ほどまでの浮かれた気持ちがすっかり息をひそめてしまった。

頬をあまり痛くならないようにつねるが、当然元に戻ることは無い。

深いため息をついて、勢いよく枕に顔を埋めると、固い金属のようなものがおでこに当たった。

訝し気にその金属を手に取ると、どうやらそれは何かの鉱石らしく、少なくともベッドの装飾にしては少々無骨に思われるので、例の彼が落とした物が落としたものかもしれない。

「(そういえば名前聞いていないな)」

名残惜しいようなそうでもないようなもやもやとした気持ちを抱えながら石をポケットに入れる。

次会った時に石について尋ねよう。いつ会えるか分からないが…。

疲れからか、眠気がまた襲ってきたので、抗うことはせず目を瞑る。

「(次目覚めたら元の姿に戻ってたりなんかしてね…)」

そんな淡い期待と共に眠りに落ちた。





まぶしい光で目が覚める。

元の姿に戻っていることは無かった。

だが、さっきまで私がいた場所でもなかった。

豪華絢爛な部屋とは違い、よくわからない瓶と本で埋まっている質素な部屋。

先ほどのまぶしい光は頭上のランタンが原因らしく、綺麗な炎がぱちぱちと中で燃え盛っている。

「おい、火傷するぞ」

気付かぬ間に伸びてた手を、虫でも払うかの如く叩かれ、煙で視界を覆われる。

「(受動喫煙…)」

煙を手で払い抜けると、件の金髪の男性がいた。

持っているキセルを器用に回しながら、また煙を吐く。

「お前、俺に用事あるだろ」

私の返事を待つまでも無く、彼はずけずけとポケットに手をいれさっきの石を取り出して、歪んだ微笑みを浮かべている。

「ご苦労」

意地の悪い顔をし、またキセルを吸おうとしたので、仕返しにと言わんばかりにそれを奪うと、露骨に嫌そうな顔をするが、わざわざ返せという気にもならないのか、また相も変わらないヘラヘラとした笑みを顔に貼り付けている。

「あ、貴方が私をここに連れてきたんですか?」

少しでも今の状況を理解しようと、男に問うが、そーかもなーといった適当な返事でのらりくらりと交わされ会話にならない。

今日、何度目になるか分からないため息をまた吐き出して、キセルを差し出すもなかなか受け取ってもらえはしなかった。

「おまえさァ…」

まつげが当たるほど彼の顔が近づく。

呼吸することさえも躊躇う距離で、心臓の音さえ聞こえてしまいそうだった。

「(え、なにこれイベント?)」

やはり、攻略対象…!と高鳴って止まらない胸は、次の彼の一言で一気に静められた

「おまえ、悪魔と契約した?」

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