隣の席の金髪ギャルが僕のお弁当を奪いに来る
僕の隣の席には金髪ギャルが座っている。
彼女の名前はハルさん。
クラスで一番の人気者。
綺麗に染められた金色の長い髪、それがなびくと“いんだすとりある”とか言う耳についたピアスがきらりと光る。
長いまつげは彼女のキリッとした目元を際立たせ、カラーコンタクトの入った赤い瞳は僕の視線を捉えて離さない。
短く折られたスカートからはモデルの様に長い脚が伸びており、着崩した制服のシャツは彼女の胸元に意識が持っていかれるため直視は危険だ。
そんな彼女は毎日昼休みになると、自分の席を僕の机にくっつけてしまう。
向かい合うようにして座ったハルさんに僕は苦笑する。
「ハルさん、今日もですか?」
僕がそう言うと、ハルさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「とーぜん!」
ハルさんは自分のカバンからコンビニの袋を取り出すと、そこからおにぎりを四つと野菜サラダを机の上に並べる。
ハルさんは見た目スレンダーなのによく食べる。
「ねぇ、今日のおかずはなに?」
ハルさんは身を乗り出しながら僕のお弁当を覗き込む。
「いつもと変わりませんよ」
「いーから、見せて!」
僕はしぶしぶお弁当を取り出してふたを開ける。
今日のお弁当の中身は、昨日の晩御飯の残り物である歪な形のハンバーグに、焦げ目のついた卵焼き、タコさんどころかエイリアンみたいな形に切られたウィンナーと、申し訳程度のキャベツを少々。
白いご飯は本当に白だけで、梅干しもゴマ塩を振られていない。
どこに出しても恥ずかしい、僕の手作り弁当だ。
「ハルさん、あんまり見ないで」
「えー、いーじゃん! あーしが作るより全然マシだし!」
「それ、あんまりフォローになってないと思うなぁ」
そんなやり取りがほぼ毎日続いている。
それでも僕は嫌がらない。
「では、いただきます」
「いただきまーす!」
お互いに手を合わせると、それぞれの昼食に手を付ける。
今日の卵焼きは、焦げ目は付いてしまったけどおいしくできていた。
タコ(?)さんウィンナーは見た目が悪いだけで味に問題は無い。
そして、メインのハンバーグに手を付けようとした時だった。
「ね、ハンバーグちょうだい!」
見上げてみればハルさんの顔が目の前に迫っていた。
ふわりと香る甘い匂いは僕のお弁当とは無関係で、彼女の薄いピンクの唇からはペロッと舌をのぞかせている。
僕は、ハルさんのそのお願いを断れない。
「今日のメインディッシュなんですけど」
「でも、ちょーだい!」
ハルさんに求められると僕はNOと言えない。
三つある一口サイズのハンバーグを一つ箸で摘まみ、彼女の口元に差し出す。
ハルさんは、僕が口を付けた箸の事などまったく気にせずに目の前のそれに食い付いた。
「どうですか?」
僕がそう訊ねると、ハルさんは満面の笑みを浮かべて答える。
「おいひい!」
まるで、小さな子供のように頬を緩ませて食べる彼女の姿を見ていると幸せな気持ちになってくる。
なにより、僕の作った料理をおいしそうに食べてくれるのは素直にうれしい。
「あーし、ハンバーグが一番好き」
「知ってますよ」
僕がそう答えると、ハルさんは嬉しそうに微笑む。
「覚えてたんだー」
「はい、ハルさんのことなら何でも覚えてますよ」
すると、ハルさんは耳元を赤くしながらも余裕そうな笑みだけは崩さない。
「ね、明日のお弁当はなに入れるの?」
「そうですね、何が良いでしょうか?」
僕は首をひねりながら考える。
とはいえ、僕の作れるレパートリーは乏しく選択肢は少ない。
すると、ハルさんが楽しそうな顔をして言った。
「あーし、からあげがいい!」
それを聞いて僕は少し困ってしまう。
「揚げ物はまだ作ったことが無いんですよね」
すると、ハルさんはしょんぼりとした顔を見せる。
そんな表情をされてしまうと、僕はこう言わざるを得ない。
「だから、今日の晩御飯で初挑戦です」
すると、ハルさんは嬉しそうな表情を浮かべると、僕の両目を見据える。
「あーしのお願い、なんでも聞いてくれるね」
小悪魔の様に笑うハルさんに、僕は堂々と答える。
「当たり前です。僕はおいしそうに食べてくれるハルさんが大好きですから」
そして、ようやく彼女は顔を真っ赤にして俯くのだった。
連載作品執筆の息抜きに。
今の連載が終わったら長編として再構成するかもしれません。