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…9


笑顔が見たかった。

嘘じゃない。


ただ本当はもっともっと欲張りだった。


目が覚めると見慣てるはずなのに恋しかった自室。


机の上には一通の招待状。送り主は大好きな彼の名前

その隣に書かれたのは被害者。

きっとこれは悪い夢。

そうじゃないって自分を嘲る自分に知らないふりをしました。


結婚式。

私もいつかはカイ君と。なんて考えてにやけた事もありました。

カイ君の隣が私じゃないなんて。


余所行きのお洋服を着ても

魔力封じの首輪と腕輪で台無しです。

魔力に負けない黒石をつかったそれは罪人の証。

闇より深い黒が私を締め付けて苦しくてたまらないのです。



カイ君が他の人と結婚するところを見たくない。

私の足は縫いつけられたように教会の前で動けなくなってしまいました。

それなのに信じられなくて確かめたい気持ちが消せませんでした。


カイ君がイザベルさんとなんて信じたくなかった。

そんな醜い私はまたすぐ周りに怒りを与えてしまうのです。


「あの女!新郎新婦を襲いに来たぞ!イザベルを殺そうとした犯罪者だ!捕まえろ!」

礼服に身を包んだ男性達に囲まれ取り押さえられ地面へと体を抑えられます。


「ひ…は…!」


違うと言ったって言葉になりません。何より私は犯罪者。

誰だって私が悪いと思うでしょう。

私はもう男の人ってだけで怖いのです。やめて力でねじ伏せないで。

怖い。怖い。助けてカイ君…!


「やめろ」



「は…くん…」


カイ君。


「僕たちが招待したんだ。いますぐその手をどけろ」


「な、なんだよ!俺たちはお前やイザベルの為にこの殺人犯をつかまえたんだぞ」


カイ君の瞳の怒りの色が増したと感じたその時イザベルさんが現れました。


「やめて!彼女は罪を償うって決めたからここへ来たのよ。私は死んでいないんだから彼女は殺人犯じゃないわ!あなた達が優しい人だって私知っているわ。彼女を許してあげて」

「優しいのはイザベルだよ。自分を殺そうとした奴を許すなんて。本当に聖女そのものだ」

「魔力を使って人を殺そうとするなんて極悪非道。人間のごみを許すべきじゃない!」


イザベルさんへの賛辞と私への誹謗がぐちゃぐちゃにまざり大きな波となる。


「もういい。彼女はもう魔力は使えない。幸せな結婚式にしたいんだ」


「さすが私のカイは優しいわ!愛してる」

「僕もだよ」



カイ君はイザベルさんの腰を抱いて協会へと歩いて行きます。

男性達は私を睨みつけ、舌打ちしながらも後へ続きます。イザベルさんは私をみて微笑みました。

大好きな人の結婚式でぼろぼろの私。

あんな姿見たくなかった。もう嫌だ。愛してるなんて聞きたくなかった。彼女に触れないで。



カイ君は私を庇ってくれたってわかってます。

カイ君は優しいカイ君のままなんです。


それが嬉しいのに。

涙をとめることはできませんでした。







大好きな人が神様の前で永遠の愛を誓いました。

こんなに辛くて苦しいなんて。


「誓いの口づけを」


一番後ろの席で2人を見つめる。少しずつ2人の顔が近づいて…。

カイ君の口づけする横顔なんてはじめて見ました。

とっても綺麗。


ずっと見たかったカイ君の笑顔は涙で滲んで。


これが現実。


あんなにつらい取り調べも牢屋暮らしも裁判だって強くいられたのに


『消えちゃいたいな』



初めて絶望の意味を知りました。

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