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牢屋で目が覚める度にこれも夢なんじゃないかなあ。と考えてしまいます。
それでも1日が始まって嫌という程現実を味わっていくのです。
100年以上前、アフマール国では魔力の強い人間が世界を掌握しようとして魔法をつかって人々を蹂躙したという事実が歴史に残っています。初めは屈服し苦しみ続けた人々が後に聖女とされる女性を旗印に決起し魔力の強い人間を数の力でねじ伏せ勝利を勝ち取りました。
魔力は誰でも持ちうるもので勝ったからと言って魔力の強いものを弾圧するのでは悲劇が繰り返される。
どうやって助け合っていくのかを必死で考え皆が平和に暮らせるように努力しているのがこの国です。
だからこそこの国では魔法をつかった傷害事件はひどく非難され重い罰が与えられるのです。
今日は判決を言い渡される。
受け止められる自信はないけれど、
それでも周りの誘導に従い昨日と同じ被告人席に座ったのです。
「裁判長!異例ではありますが被害者の女性から証言台にたって一言言いたいことがあるそうです」
「許可します」
どよめきの声があがります。私も動揺が隠せません。
彼女は何が言いたいのだろう。
期待したい。怖い。心臓の周りをぐるぐると感情が暴れまわって。頭では何も考えられなくて。
ゆっくりと彼女が入ってきました。
攻撃魔法は外傷が残らないので目に見える傷はありません。
儚げですがちゃんと歩いている様子に安心しました。
最近は自分の無実ばかり訴えていて彼女を気遣う心を忘れていたのです。
自分が随分悪い人間のように思えて怖くなりました。
「被害者のイザベル・ウィグナードさんでまちがいありませんね」
「はい」
「何か言いたいことがあるとの申し出でしたが」
「はい!彼女を許してあげて欲しいんです!」
凛としたそれでいて可愛らしい声が法廷中に響きました。
「被害者である私は彼女を許します!確かに彼女に襲われました!すっごく怖かった。殺されるって思った。だけど私にも悪いところがあったんです。そんなつもりなかったけど彼女が傷つけるようなこと言っちゃったみたいで。確かに攻撃魔法は使っちゃいけません!だけど魔力封じのおかげで彼女にはそんな力はもうないんです。彼女を釈放してあげて魔法なしで生活することも罰になると思うんです。」
まるでこれは舞台だ。
「…甘いって言われるかもしれない。だけど!だけど人は許しあえる!私はそう信じたい!皆さんにも許す勇気を持ってもらいたいんです!」
しんと静まりかえる法廷。
聞こえたのは拍手の音でした。
初めは1人。
それが2人3人と増えて今はもう数えきれない。法廷全部が拍手の音に包まれる。
驚いたことにエンベーシさんや弁護人の方まで。
「静粛に。本日判決を言い渡すこととなっていましたが、一時休廷します」
「ぅゔ!!!!ううう!!!!」
ざわつく法廷。私の声は誰にも届かない。
イザベルさんが私をみてにっこりと微笑みました。
「聖女だ!聖女の再来だ!」
誰かが発言すればそれはどんどんと大きな塊になっていく。
聖女!聖女!
「ゔぇ…ふ…!」
どういう状況で、彼女が襲われたのかなんて誰も気にも留めない。
そこに矛盾や誤りがあるなんて思いもしない。
本当はあの時何があったのか。最後までわからないままなのか!
心優しい人間ではありえないような黒い感情。
救おうとしてくれてるのに感謝する気になれくて
この茶番はなんなんだと心臓が焼けるようなこの感覚が、
醜いことは自分でもわかる。
それでも止められない。
「ゔううううぁああああ!!!!」
獣の慟哭が聞こえる。これが本当の私なの?
もう自分すら信じられない。