…2
夜更けに人を避けるように寮へと入り込み懐かしい布団へと顔を擦り付けます。
少し埃っぽいけど懐かしい私の匂い。
カイ君の家とお揃いの匂い。
「本当に僕のこと好きだよね」
カイ君が頭をよぎり涙を止めることはできませんでした。
嫌だよカイ君。離れたくない。
魔力は全人類に与えられた女神様からの祝福。
魔力には色と波がありそれはひとりひとりに違いがあり、
同じ魔力を別人が持つことは双子でさえありはしない。
それはこの世界の常識。
血液が流れる血管のすぐ横に魔素管が通り、全身に魔素は巡ります。
それを体外に出して使うことを魔力を使う。というのです。
魔素は指先に溜まりやすくそこから放出することが主です。
私の腕輪はそれを封じています。
そしてこの首輪は封じられた魔素が暴発しないように抑える力があります。
その副作用で声帯に干渉して声が出なくなるそうです。
きっとカイ君に聞けば詳しく教えてくれると思うのですが。
事件は突然のことでした。
今回の被害者であるイザベルさんが私の元へ訪れたことから起こりました。
魔道具店[クラアト]
カイ君も働いている魔道具専門店。王都では本質をわかる人間が買うならならここが一番と一目置かれたお店です。
魔道具は呪文を構築し核に彫り込みそこに魔力が宿って機能する道具です。
使う人の魔力の強弱は関係なく誰にでも使え、
呪文によって魔力が宿った核が持つ限りその道具は力を発揮します。
灯りに保冷庫に計算機。商品は様々で開発、製造、販売全てお店の少数精鋭でやり遂げているのです。
呪文の構築は本当に難しい。
完成したものを模写することは訓練次第ですが、
構築は才能は勿論想像もできないくらいの努力が必要で、
カイ君がそのすごい人の1人です。本当にすごいのです!
その核を最大限生かしながら素敵な設計をするライさん達がいて、
それを売る才気溢れたマークさん達がいて。
みんなのお父さんのようなお母さんのような厳しくも優しい店長のウォルさん。
そんな人たちを支える大好きな友達でもある事務員のソフィアとメル。
みんなで支え合うこのお店が私は大好きなんです。
リア。それが私の名前です。
親に捨てられ孤児となった私にいつでも愛を深くもてる人間であれと神父様がつけてくれた大切な名前。
私はここの一室をお借りしてクラアトの一員として魔法文字を取り扱っていました。
依頼主様からお借りした文献や本や資料を魔力を流して書き写せば、私の書いたものを原本に沢山複写することができたるのです。
複写はクラアトでも開発できないほど繊細な作業。
文字は私の書いたものと同じものになるので
自体や大きさ濃さなど相談を重ね、要求に答えた文字を書きます。
魔力の強さによって複写できる数が決まりますのでそれも依頼主様との相談でした。
私はこの仕事に誇りを持っていました。
例え恩を仇で返すとか宝の持ち腐れ。神への冒涜と言われても。
強い魔力を持つ者は人口の3割程度です。私もその中のひとりでした。
魔法文字は訓練すれば魔力の少ない者でも複写できる数は少ないですができるのです。
魔法局でこの強い魔力を役立てるよう言われたこともありました。だけど。
「カイ君いってらっしゃい!気をつけてね」
「ありがとうリア。リアも気をつけるんだよ。夕方には帰るから」
カイ君を見送り、
定休日なのでガランとした店の中。裏の職場のそれぞれの部屋も誰もいません。
カイ君もせっかくのお休みに急に仕事になってしまって。
お互いお休みに頑張るのだから今日は2人の好物の肉団子にしよう。
カイ君との夕食を目標に私は残してしまった仕事に取り掛かりました。
今ある幸せが大切でこんな毎日守ることが好きでした。
魔力との付き合い方もこれが性に合っていたのです。
「ここに来るようにあなたから連絡があって来たのです」
薄茶色の艶やかな髪がきらきらと輝き、緑の瞳は人懐こくまるで愛らしい子犬のよう。
イザベルさんは商家[ウィグナード]の一人娘だと言いました。最近めきめき力をつけている商店で私も名前を聞いたことがありました。
「すみません。私そんな連絡はしていなくって。どこかで行き違いがあったのかもしれないです」
「おかしいなー。でも私あなたとずっと話してみたかったの!部屋に入れてください!」
にこにこ笑いながらするりと私をすりぬけと部屋に入っていくイザベルさん。
ついて来ていた護衛の方2人は部屋の外で待つように言いつけていました。
何が間違って彼女が来たのかはわからないまま
少しのおもてなしはしなくてはならないと私も中へ入り、
彼女を背にお茶の準備に取り掛かりました。
「ねえ知ってる?私とあなた魔法学園の同級生なのよ?」
「そうだったんですね!すみません存じあげなくて。何の間違いか不思議な縁ですね」
「…。もちろんカイさんとも同じだったってこと。知ってる?私たち最近とっても仲がいいの」
カイ君の名前が出て心臓が大きく揺れて思わず体が反応します。
カイ君は素敵な人だからこんなことは慣れっこでした。
なにか返さなくちゃ…挑発的な声色になった彼女に必死に言葉を選んでいると。
「きゃー!!」
大きな物音に振り向くとイザベルさんが倒れて意識を失っていました。
「イザベルさん!!!」
駆け寄り抱き起こすと彼女にまとわりついているのは
私が魔力を使った後に残る魔素でした。
それもひどく攻撃的な魔法の残留魔素。
必死に呼びかけても彼女は反応を示しません。
「誰か!誰かお医者様を呼んでください!!」
私の大声に1番に入って来たのはイザベルさんの護衛の方でした。
「お前!お嬢様になにをした!」
吹き飛ばされ床に打ち付けられましたがそれどころではないのです。
「わからないんです!早くお医者様に見せないと!彼女を助けて!」
「貴様に言われたくない!彼女を警備団が来るまで捕まえておけ!」
護衛のもう1人が私を手荒く締め上げ拘束しました。
その間に彼女は抱きかかえられ部屋の外へと出て行ったのです。
力の差は歴然としていて彼から離れることは叶わなくて。
「お願い!やめて!…あれは何?」
イザベルさんが倒れていたところに多くの魔素がそこに漂いまるで光っているようでした。
そこには蓋があいたままの試験管のような瓶が転がっていました。
あの瓶はこの部屋のものじゃない。
「抵抗するな!」
「見て!あの瓶!なにか変だわ!イザベルさんが倒れた原因かもしれない!彼女をみてくれるお医者さまにお渡ししなくちゃ!」
「うるさい!」
「警備団のセイリーだ!犯人の確保感謝する!」
ドタドタと数人の警備団が押しかけあっという間に私は犯人として連行されることになったのです。
魔力封じの手錠がかけられた。
「殺人未遂の現行犯で逮捕する」
「私犯人じゃないです!お願いだから話を聞いて!」
「警備団でゆっくり取りしらべてやるからその時だ」
騒ぎを聞きつけ人だかりの中、
「リアちゃん!」
「おいリアに乱暴するな!!」
助けようとしてくれる近所の皆の心配そうな顔に涙が浮かんで
「私は犯人じゃないよ!」そう伝えたかったのに。
口にギュッと布がつめられ代わりにセイリーさんが叫びました。
「うるさいぞ!こいつは殺人をしようとしたんだ!あなた達を守るために俺たちは働いてるんだぞ!」
大声で言い切り私を馬車に押し込め警備団の本部へと向かったのです。
違う。違う!決めつけないで。私はやってない!
荒ぶる気持ちは抑えられない。それでも今は冷静にならなくちゃ。
きちんと調べてもらえばきっと疑いは晴れるはず。
冷静にならなくちゃ。わかってもらわなきゃ。
自分に言い聞かせるのに痛くて怖くてずっと震えは止まりませんでした。