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「もう僕に付きまとうのはやめてくれ。僕は彼女と結婚したんだ」
釈放されて牢屋から外に出たら、日差しの眩しさに目がくらみました。
体がぼろぼろで思うように動かない足をなんとか交互に前に出していけば、
遠く見える門の傍に愛しい彼、カイ君の姿が。
ずっとずっと好きな人。
孤児である私にとって家族みたいな、それ以上に大切な人。
カイ君がそばにいてくれたらもうなにもいらない。
嬉しい気持ちでいっぱいで現金なもので足取りは軽くなります。
彼に一歩一歩近づく。
無表情の彼に違和感を感じると隣にいる女性に気がつきました。カイ君しか目に入らなかった。
私の魔力で傷ついた被害者の女性、イザベルさん。
彼女への殺人未遂の罪で私は裁かれていたのです。
状況証拠、そして現場の残留魔素が私のものだったことから
私の犯行だと認められ死刑が求刑されました。
彼女が必死に助命を願ったからこそ牢屋から出れたわけですが。
ふたりがなぜ一緒にいるんだろう。なんで腕を組んでるんだろう。
カイ君に触れないで欲しい。
その思い以上に嫌な予感に耳につき刺す心臓の音。
ずっと夢見てた。カイ君と向かい合える日を。
今だって嬉しくて、
カイ君に恥じない自分でありたくてここまで耐えて
やっとこうして見つめ合えたのに。
「もう僕に付きまとうのはやめてくれ。僕はイザベルと結婚したんだ」
私は魔力封じの首輪と腕輪のせいで声を出す事ができません。
でもたとえ声が出せたとしても何も言えなかったでしょう。
私はカイ君のことがただ好きなだけで。一緒にいられるだけで幸せなのに。
付きまとうって何?わからない。結婚って何?イザベルさんと結婚?わからない。
「裁判で言った通り私はあなたを許します。とっても怖かったけど…カイが支えてくれるというから私強くなれたの。私たち明日結婚式を挙げるんです。あなたも来て私たちを祝福して下さい。それがあなたにできる償いのひとつです」
ぷるぷると震えて怯えてるのにそれでも勇敢に立ち向かう健気なイザベルさん。
体調は元通りみたいでそれだけは本当に良かったと思います。
カイ君が彼女をかばうように2人は体を寄せ合っていて
2人から差し出された綺麗な封筒を受け取った私の手は汚れていて傷だらけでみじめったらしいものでした。
カイ君は冷めた目で私をみていて。その隣にはイザベルさんがいて。
それでもカイ君が好きで好きで泣けてきました。
「い…い…あ…」
やっぱり掠れた呻き声しか出せません。
醜いその声で『嫌だ行かないで結婚なんてしないで』
子供みたいに駄々をこねても全然伝わりません。
手を伸ばしてカイ君に触れる寸前。彼は身を引いて私を拒みました。
呆然とする私を憎むように睨みつけるカイ君。
「君はイザベルを殺そうとした」
首を振る私を心底軽蔑した様子で
「今後一切関わりたくない」そう顔を背けて呟きました。
「しん…て……てない…お」
お願いカイ君。こっちみてよ。
「ごめんね。リアのこと大嫌いだったんだ。君は君で罪を償って」
いつまでそうしていたのでしょう。照りつける太陽の中、ひとりぼっちになってしまったことを知りました。
魔力を封じられても、犯罪者と言われようと、カイ君さえいればよかった。それはどんなに独りよがりな思いだったのでしょう。
それでも、ずっとずっとつらい日々の中カイ君への想いが私の心の支えでした。
カイ君は、私を信じてくれているとそう思って耐えていました。
その気持ちがポキリと折れてなにも無くなってしまいました。
『信じて。私は罪を犯してないの』