序章:魔王因子
魔王因子
それは、圧倒的な破壊力を持つ力・・・ではない。
人を傷つける力でも、物を破壊する力でもない。
人を従わせる能力でも、操る能力でも、ない。
それは、一つの忠誠から始まった。
今は昔。
強大な力を持つ一人の騎士が、力を持たない一人の姫に救われた。
姫が救ったのは、騎士の命だけではない。
力ゆえに迫害される身にあった騎士に、職を与え、地位を与え、安全を確保した。
果てし無い恩義を感じた騎士は生涯にわたって王家を守り続け、その精神は子々孫々に至るまで受け継がれていった。
数百年、数世代にわたって「ある一族を守り続ける」という使命を果たし続けた結果、一つの血筋に『王に従う』という遺伝子が書き込まれた。
ある意味において、これこそが『魔王』誕生の瞬間である。
時は流れて戦の時代がやってきた。
この時代、騎士が持つ力は弱く、王家も善戦したのだが時代を勝ち抜くには至らなかった。
数多くの騎士が命を落とし、王家の血筋もほとんどが滅び去った。
それでもそのうちの幾らかは戦火を逃れ、離れ離れになりつつも生き延びていく。
王家は滅び、騎士の制度も自然消滅したが、残されたものがいくつかあった。
そのうちの一つは「騎士の持つ力」だ。
もともと騎士は『特殊な力』を持った一族であり、戦争によって僻地に避難した騎士たちは「王家が滅んだ」という情報を得ることもできず、ひたすらに再興のための力を蓄え続けていった。
その中で騎士の持つ力は「王家を守る」という意思とともに、強く、鋭く成長していった。
そしてもう一つ。
『王家の因子』と呼ばれる遺伝子を持つ一族も、滅びることなく生きながらえていた。
騎士達と同じく「王家の復興」という夢を抱きながら。
他の多くの王家と同じように、気を伺いながら僻地で戦況を伺っていた。
その後王家は何度か戦争に復帰し、何度か勝利は重ねたが、それでも歴史の勝者には至れなかった。
確かに騎士達は『特殊な力』を持っていた。
一人の騎士で、三人の兵士を相手できる実力を持っていた。
しかし、結局のところ人数の差を埋めることができなかったのだ。
戦いに挑んだ騎士は次々と死に至る。
王から「戦え」と命じられた騎士は、まさに「戦う」以外の選択肢をなくしてしまうのだ。
王家の周りの騎士から次々と死んでいき、残ったのはただの王家と、辺境に逃げ延びた騎士だけだ。
王家は今度こそ這々の体で逃げ延びて、そして二度と戦争に参加することは叶わなかった。
そして数十年後、戦争が終わった。
歴史の勝者は皮肉にも、最後に王家と戦った国だった。
その国では、幾たびの戦争で勝利したが、同時に多くの血も流していた。
その中でも、最も多くの被害を出したのが、王家との戦いだったという。
兵士たちは、死を恐れない騎士達のことを『狂戦士』『魔戦士』と呼び、その上に立つものを畏怖を込めて『魔王』と呼んでいた。
幸い、魔王自身は力を持たないとされている。
また魔族達も多くがその力を封印して日々を過ごしているという。
だが忘れてはいけない。
今は辺境で暮らす騎士と王族だが、彼らは滅んだわけではないということを。




