下取り
「なあ、これほどの物をどこでかっ攫って来たんだよ? 教えろって、クルト」
その古物商の店主は、三十代後半の男だった。
見栄えのする長身に、アゴを薄く覆う髭がなかなかに渋みを感じさせる、押し出しの利いた好漢だ。
・・・まあ要するに、チビで目付きの悪いクルトにすれば外見的には天敵である。
「おいおい・・・。これは ”ジン・ピアス”か?
しばらく前から、ルミノア家が失われたのを隠しながら、裏で躍起になって探してた魔石だぜ?」
その店の店主、クライド・マーソンは奥のテーブルに並べたお宝を、なおも一つ一つ丁寧に鑑定していた。
ここは、リラの街から北にある、大きな交易都市である。
”盗人は、自分の巣では仕事をしない”と言われるように、普段はクルトも大陸各地を飛び回っているのだが、拠点はやはり近場にある方がいい。
今回は警吏の目を欺くためにも、わざわざリラで盗みを働いたのだが、どうやらそれは、間違いでしかなかったようだ。
「・・・けど、いいのか? 今回はいつものように『無償で引き取って、好きに流してくれ』なんてレベルの額じゃないぞ。このオニキスなんて・・・ヘタをすれば、俺は一生お前に情報を回し続けても、おつりが来るかもしれん」
古物商の店主クライドは、まだいくらか高揚したように眉間をもみ、クルトに話しかけていた。
「かまわないよ。何せ、元の持ち主が盗まれて喜んでるくらいなんだ。もちろんワケありでね。できるだけ暴利にならない程度に、本当の持ち主を見つけてやってよ」
盗んだ物の八割は返すことにしている青年だが、得物の中には、とてもじゃないが本人に届けられないものもある。
今回のように出どころからして間違っているものや、既に持ち主が失踪している場合、最悪のケースは、舞い戻ってみれば当人は自殺していた、というケースだ。
そう言う時は、苦い思いをしながらもこの”マイカ”の街で、商品を落とすことにしている。
「ーー」
あっ、そこの貴方。
俺のことを偽善者だと思ったでしょ。
・・・でもねえ、好きでこんな仕事やってるわけじゃないし、こんな見てくれの者を雇ってくれる人なんてまずいない。
仮にいたとしても、盗みなしにはやっていけないような給金で働かされるんだぜ?
・・・まったく・・・。不公平ってやつを飛び越えるためには、法を飛び越えるしかないんじゃないかって思うよ。
・・・ああ、これじゃあどっかの詐欺集団の言い訳みたいになってるか・・・。
まあ何しろ、ここの店主クライドは、表裏のルートで商品を探し回ってる持ち主を見つけ出したり、最も高値で売れる時期まで品を手元で熟成させたりする、ある種の錬金業の第一人者なのだ。
クルトは、いつものように品物と交換で情報をタダで受け取り、優先的に回してもらう約束になっている売品を、リストで確かめていった。
「まあ、しばらくは大人しくしておけよ。こっちもなるべく騒ぎにはならないようにするが、お前が持ち込んだ商品で、いくらか場が荒れるかもしれん」
そうクライドは言い終えて、クルトの手から書類を受け取ったのだった。
・・・俺も素人じゃないんだぜ、と青年はしぶるように答えていたが、クルトの目つきは、とてもではないが軽口を言い合うようなものには見えなかった。
当然、彼の人生の場が荒れまくるのは、これからだったのである。