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STORY  作者: AtsushiXXX
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序章

-4月6日-

この病院に入院して4カ月が過ぎた。

病室の窓からはピンクに色づいた桜の花が風に舞い、春の訪れを感じさせてくれる。

優海は窓の外を見つめながら1人考えていた。

(私はこのまま死んじゃうの…)

優海の身体は病魔に侵されていた。「もう治ることはない!」医者からはそう言われていた。

(私は結局、皆を助けることが出来なかった…皆の想いを止めることが出来なかった…)

自然と涙が溢れ出てくる。

これまでどれだけの涙を流してきたのか、頬を伝う涙の痕が赤く腫れているように思える。

日に日に衰弱していく体は起き上がることも困難なくらいに痩せ細っていた。

明日に繋ぐ希望の光はもう消えかかっていた。


心電図が異常を知らせる。看護師さんやお医者さんが駆け寄ってきた。

薄れゆく意識の中で優海は、

「ごめんね…ごめんね…ごめんね…」

と何度も呟いた。



1年前


今日は高校の始業式。優海は今年高校3年生で来年進学を考える普通の女子高生。

優海は窓側の席から外を見つめている。

桜の花が風に煽られ宙を舞っていた。

「優海ぃ、おはよう!」

声をかけてきたのは幼馴染の麻衣。

麻衣は某ファッション雑誌の売れっ子読者モデルで、多数の芸能事務所からスカウトを受けていて、世の女の子の憧れの的だった。

「優海、今年は別々のクラスだね。なんか寂しい。」

麻衣とは高校2年まで同じクラスだった。

「ほんとだね。でも希美は同じクラスなんでしょ?私もそっちがよかった。あれ?そういえば希美はまだ来てないの?」

「まだなんじゃない?相変わらずのお寝坊さんwww」

2人が談笑していると、


(キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン…)


始業を告げるチャイムが構内に響き渡る。

「じゃあ優海、また後でね~」

「うん。」

麻衣は足早に自分の教室へと帰っていく。


体育館では始業式が行われ、校長の長い挨拶が始まる。

「新学期を迎え、心機一転の気持ちでいることと思います。時季は今まさ に「春爛漫」ですが、私はこの春は色々と考えさせられることが多く‥」

優海が辺りを見回すと隣のクラスの席に座っている希美が目に映った。

希美も優海の視線に気づき、笑顔で小さく手を振る。

携帯にLINEの知らせを告げる着信。

麻衣からだった。

(今日は表参道に美味しいカフェ見つけたからそこいこっ!)

優海と麻衣と希美の3人のグループへの投稿だった。

優海と希美はスタンプでOKと返信した。


始業式が終わって3人は表参道に向かった。

3人は小さい頃から学校も、遊ぶ時もずっと一緒だった。

表参道に面したお洒落なカフェ。店内もテラスも緑があふれる素敵なお店だった。

テラス席にはランチで通うOLやママ友達で賑わっていた。1テーブルだけ空いているのが見えたので3人はその席に移動した。

「校長の話ってなんでいつもあぁ長いんだろうね~ほんとウザいっ」

麻衣はストロベリーラテを片手に呟いた。

談笑していると時間はあっという間に過ぎていく。気付けば1時間が経過していた。

「そういえば、今年で私達も卒業だね。進路はどうするの?」

そう切り出したのは優海からだった。

「私は、このまま芸能界入って、テキトーに女優やって、いい男捕まえる!」

麻衣が答えた。

「麻衣は美人だからいいよね~。勉強できなくてもいい男捕まえれるんだから」

そう切り返したのは希美だった。

「ひどーい!私だって色々努力してんだよ。美容院代だってバカになんないんだからね」

「冗談だって。そういえば優海はどうするの?大学か専門か決めたの?」

優海は将来、看護師になりたいと思っていた。看護の4年制大学に行くか、3年制の専門学校に行くかで悩んでいた。

希美も看護師になりたいと思っていた。しかし、希美には看護師を目指すのに大きな障害があった。

「キャッ!」

女の人の叫び声がした。

3人が声のしたほうを振り返ると女性が1人倒れていた。

ヒールが折れて転んだのだろう。膝から出血している。

「痛そう~」

麻衣が言った。晴美は転んだ女性からそっと視線をずらす。希美が震えていた。

「希美、大丈夫?」

晴美が心配そうに希美に声をかける。

「う、うん…大丈夫」

希美は震えながらそう答えた。


10年前…


希美がまだ小学6年生の時、夏祭りの帰りだった。急に振り出した雨を避けようと慣れない浴衣と桐下駄で一心不乱に家まで走った。

(ガチャッ)

家には鍵が掛かっていなかった。

(あれ?)

いつもなら用心で鍵が掛かっているのに、なぜかこの日だけは様子が違っていた。扉を開けて

中に入る。

「ただいま~もうびしょ濡れだよ…ねぇ、お母さんいるの?」

「………」

中から返事はなかった。

「ねぇ、お母さんってばぁ」

奥のリビングに母の姿はなかった。リビングはいつもと同じように片付けられていて、ただ、いつもと違っていたのはダイニングテーブルに置かれた一輪の薔薇と高級ワインと飲みかけのワイングラスが2つ。普段お酒を飲まない母がワインを飲んでいたということに希美は驚いた。

でも、何よりも驚いたのはグラスが2つあったことだった。

希美の両親は1年前に離婚が成立し、希美は母に引き取られ母と2人暮らしだったからだ。

(誰か来てたのかな?)酔っぱらって寝てるのかと思い母の寝室に向かう。

「ねぇ、お母さん、寝てるの?」

寝室は真っ暗だった。

明かりをつけると母はいた。しかし、そこにいたのは変わり果てた母の姿と地べたに転がる知らない男の姿だった。2人とも腹部を鋭利な刃物でめった刺しにされて死んでいた。

辺りには血が飛び散り、ベッドは鮮血に染まり、床には血の水たまりがが出来ていた。

希美は言葉も出ずその場に座り込んだ。

何が起こっているのか自分の頭で整理できなかった。

やっと我に返った希美は警察に電話し、警察が家に到着したとき現状を理解できたのか涙があふれ出てきて止まらなかった。


後に、母を殺したのは希美の父親であったことが判明した。警察の調べで母と知らない男は恋人関係にあって、この日、恋人であった男とディナーに行った帰りに自宅でワインを飲んだ後、情事にふけっていたところを希美の父が自宅に乱入し、2人を殺したということだった。

希美の父は、離婚してからも母の姿を追っていた。離婚の原因は父のDVが原因だったが、父の母に対する愛情は深かった。だから、離婚してからも母の姿を追い、いつかやり直せる機会を探し求めていたのかもしれない。しかし、母がほかの男と仲睦まじく歩いている姿がどうしても許せなかったのだろう。


現代


希美は母の最後の姿が脳裏に焼き付いて離れない。血を見るたびに、その悲劇の光景が蘇る。

「もう帰ろうか?」と麻衣が提案し、希美と優海に向かって話した。それを聞いた3人はカフェを後にした。


「希美、大丈夫?」道を歩きながら、麻衣が希美に心配そうに尋ねた。

「うん、大丈夫。ちょっと動揺しただけ…」希美が静かに答えた。麻衣も優海も希美の過去については知らなかった。希美自身も、あの時の記憶を忘れたいと願っていたからだ。


その夜、優美は電話で健斗と話していた。

「部活、順調?」

健斗は優美の彼氏で、歳は優美の2つ上で大学2回生だった。

「あぁ、だけど、うちの大学ではプロを目指してるやつが少なくて、部活の練習があまり本格的にならないんだ。」

健斗は18歳でプロボクサーのライセンスを取得していた。しかし、健斗が通うボクシングジムは家から2町も離れたところにあり、毎日通うには遠いため、家からほど遠くないボクシング部がある大学へと進学していた。

「ボクシング部があるからここにしたんだけど、結局ジムの近くに引っ越した方がよかったかもね。」

「いやだよ、そうしたら全然会えなくなっちゃうじゃん。」

「冗談だよ。ところで、大学か専門かは決まったか?」

「健斗も希美と同じこという。それをいま考えてんだから…」

看護師になるためには、看護師国家試験の受験資格が得られる学校に通う必要がある。2年制の看護系学科やコースもあるが、2年制で目指せるのは都道府県知事が発行する「准看護師」の免許だ。准看護師は将来的に看護師資格に一本化する方向で検討されているため、先生は看護師国家試験の受験資格が得られる学校を勧めていた。

しかし、その学校は実家から少し離れているため、優美は健斗と頻繁に会えなくなることを心配していた。

「そういえば、武志の親が沖縄に別荘を持ってて、今年の夏貸してくれるって言ってるんだよ。高校最後の夏に、みんなで沖縄旅行に行かない?」

健斗の突然の誘いだった。

武志は健斗の幼馴染で、優美も彼を知っていた。彼の祖父は大手製薬会社の創業者であり、父がその会社を継いだ。武志は三代目の跡継ぎだった。

健斗と武志は幼い頃から仲が良く、ふざけ合っては共に遊んでいた。

武志が小学3年生のとき、ある事件が起こった。

学校からの帰宅途中、武志は3学年上の6年生数人にカツアゲされそうになった。ケンカが得意ではなく、お坊ちゃまとして育てられたため、彼は少し気弱な性格だった。6年生に言われるままお金を渡そうとしたそのとき、

「お前ら、何やってんだ!」

という怒鳴り声とともに走り寄り、6年生の顔面にパンチを放ったのが健斗だった。その勢いに圧倒された6年生たちは、足早に逃げ去った。それまで同じクラスの同級生でありながら遊ぶことの少なかった2人は、この事件をきっかけに頻繁に遊ぶようになり、お互いを親友と呼ぶようになった。

「沖縄旅行?いいねぇ!でも、皆って?」

「俺と武志、それともう一人行く予定だから、優美もあと2人誘ってさ。」

「2人きりじゃないんだ、ちょっと残念。でも、武志くんとそのもう一人って誰?」

その「もう一人」については、健斗もよく知らなかった。ただ、武志から健斗と同じく古くからの友人だと聞いていた。優美は少し不安を感じたものの、健斗の親友である武志の友人ということで信頼することにし、

「じゃあ、麻衣と希美に声をかけてみるね」

と言って、翌日学校で2人に話すことにした。


翌日の学校の昼休み、晴美は麻衣と希美に、健斗と話した沖縄旅行の話を伝えた。

「えっ、沖縄?行く行く!希美も一緒に行こうよ!」

「沖縄かぁ、優美と麻衣が一緒なら行こうかな。なんだか楽しみ!」

麻衣と希美は沖縄に行けると聞いてはしゃいでいた。今年の夏は3人にとって特別な思い出になるだろう。行きたい場所ややりたいことを話し合っているうちに、昼休みの時間はあっという間に過ぎてしまった。

昼休みが終わるとすぐに、晴美は健斗にLINEで麻衣と希美も旅行に行けることを伝えた。


健斗はボクシング部で汗を流しながら練習していた。8月下旬に予定されている東日本新人王の試合は、プロになって初めて挑むタイトル戦だ。健斗にとって、この試合は絶対に外せない大事な戦いだった。

健斗の父親も元プロボクサーで、このタイトルをかつて獲得していた。父の姿に憧れてボクサーの道を選んだ健斗にとって、このタイトルを取ることは夢だった。

父親はプロボクサーとしては華々しい成績を収めたわけではなく、唯一のタイトルがこの東日本新人王だった。しかし、彼は常に攻撃的な姿勢で戦い、どれだけ打たれても一歩も引かずに相手に立ち向かう姿は、観客を沸かせていた。

健斗はそんな父親を尊敬し、心から憧れていた。


健斗が晴美のLINEに気付いたのは、練習終わりのバスの中だった。晴美のLINEに了解とだけ返信し、武志にもLINEを送った。

武志からすぐに返信が来て、もう一人にも伝えると返ってきた。

武志はその時、ちょうど旅行に行くもう一人の友達の玲也と会っていた。

玲也は、歳が武志の2つ下で高校の後輩だった。玲也は





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