表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムカンパニー  作者: からて
3/42

グロワールと帰る理由

「グロワールとは、あの塔のことです」


 猫耳シスターは、俺が落下中に見た黄金の塔を指さしてそう言った。

 遥か天空まで続いているであろうその塔の天辺は雲の上にあるのでまったく見えない。

 よくぞまぁあそこから落ちて無事だったな俺は。


「スズキさんはあの塔の近くで内蔵まき散らして倒れていました。あと数秒回復魔法かけるのが遅れていたら間違いなく死んでいたでしょうね」


 無事じゃなかったっぽいっすね……。


「ありがとう……ございます。俺、マジで死ぬところだったんだな」

「えへへ、感謝してくださいね。死んでいたらとても大変なことになっていたんですからね」


 猫耳シスターはどん、と胸を叩いて自慢げにそう言った。

 あ、胸が揺れてる。以外と大きいのね。ローブ着てたから分かんなかったよ。

 シスターは感謝されて気分が良くなったのか、聞いてもないのにこの世界のことについてドヤ顔で語り出した。


 なんでもこの世界は『ダンジョン』と呼ばれる塔や洞窟が各所にあるらしい。

 どうも百年くらい前に一斉に現れたとかなんとか。

 ダンジョン内は便利な道具や希少資源が多いから、各国がこぞって攻略をしている。さっき猫耳シスターがいっていた『冒険者』とは、個人でダンジョンを探索する人のことらしい。

 この世界には人間の他に猫耳シスターのように獣人や竜人、そしてエルフやドワーフ、他にも魔族と呼ばれる種族がいるのだとか。

 主に人間が集まっている人間の国、魔族や獣人が集まる魔王の国、竜族が統治する竜王の国がこの世界の三大勢力で、お互い仲が悪く敵対していたらしい。

 うん、まぁよくあるファンタジーの世界だ。魔王に勇者に竜王なんて、ドラ○エで良く聞く軍勢だな。

 しかしそれも数十年前までのこと。

 なんか色々あって今は停戦中だとか。「そのあたりの話は長くなるからやめやめです!」と猫耳シスターは言っていた。適当すぎる。

 そんで、停戦してからちらほら俺みたいな異世界からの転生者が現れ始めたらしい。おおざっぱに年一くらいの頻度で各ダンジョンの近くに現れるんだとか。


『珍しいけどたまにいるよね』


 くらいが転生者のポジションだ。


「異世界からの転生者は特殊な能力を持っていることが多くて、この世界で成り上がる人も少なくはないですね」


 数年前にやってきた異世界転生者の一人は今や人間の国で崇拝されるレベルの奴もいるらしい。巷では『勇者』とかいわれてるとか。うへぇ、異世界ドリームだ。

 俺もなんか特殊能力あんのかな? と聞いてみたけど、「知らないです」と一蹴された。なんか冷たくない?


 それから各国の特徴やらダンジョンの種類、そしてこの世界の産業についてちらほらと。

 正直ここら辺は難しくてあんまり覚えてない。猫耳シスターのドヤ顔を見ながら適当に聞き流してた。

 なんか世界史の授業っぽくて辛い。俺は理系なんだよ。


 ふと、思い立った。

 よくよく考えたらそんなことよりも、もっと重要なことがあるじゃないか。

 何で俺は先にこれを聞かなかったんだ。

 俺は猫耳シスターの話を遮って質問を入れる。


「あのさ、俺って元の世界に戻れるの?」


 そう。何より大事なこと。

 それは『帰れるのか』である。

 帰還可能か不可能かで今後の身の振り方は大きく変わってくるといっても過言ではない。

 俺の質問を聞いた猫耳シスターはすいすい語っていた流れに水を差されたせいか一瞬苦い顔をしたけど、すぐに顎に指を置いて考え始めた。

 猫耳シスターはしばらく「うーん」と唸っていたけど、その後ぽつりと一言。


「……わからない、ですね」


 そう言った。


「え、分からないの?」 

「はい。分からないというか、前例がないと言った方がいいですかね。異世界転生者の方が元の世界に帰った、というお話は聞いたことないです」

「マジかよ……」


 帰還不可能。

 異世界転生ではままある展開だが、実際に直面するとかなりクるものがある。

 帰れないってことはもうニコ動見れねぇのかよ。ラーメン二郎もう食べれねぇのかよ。

 毎週見てたアニメも来週は心灼く25分45秒になるって言ってたのに、その神回も見れないのか。

 あ、そういや俺のパソコンの中にあるいかがわしい画像フォルダはどうなるんだ? しばらく帰らなかったら部屋とか調べられそうだ。誰かにあれを見られたら発狂して自殺するまである。

 ヤバい……。

 ヤバすぎるぞ……。

 それに何か一つ、一番大事なことを忘れているような。


「まぁいいじゃないですか。異世界転生者の方はみんなこの世界で楽しくやってますよ。たぶん!」

「そんな適当な……」

「むー。何ですか、帰りたいんですか? もしかしてあっちに彼女残してきちゃったとかですか?」

「つっ……!!!」


 思い出した!

 そうだ! 俺は明日、大事な約束をしていたんだ!


「そうだ! なんで俺は忘れてたんだ!」

「え? ホントにそうなんですか?」

 

 『まさかあなたが?』とでも言いたそうな表情で猫耳シスターは俺のことを見つめてきた。失礼な! 俺だってやるときゃやるんだよ!

 そうだ、そうだよ。

 そうなんだ。

 俺は今日、転校生の真緒ちゃんとデートの約束をしていたんだ。

 オタクな俺にも優しく接してくれる天使のような真緒ちゃん。

 俺は人生最大の勇気を振り絞って彼女をデートに誘った。

 そんで、オッケーを貰えた!


『私甘いものが好きだからいいお店見つけといてね』

『承知!』


 そんな会話を、昨日した!

 そんで今日待ち合わせ場所に向かっていたんだ!

 何でこんな大事なことを忘れていたんだ。

 落下の衝撃でおかしくなっていたとしか考えられない。じゃなきゃ忘れるわけがない。

 クソ、絶対帰らなくちゃ。

 俺の人生に二度と無いかもしれない希代の超チャンス。

 絶対ものにしなくては!


「マジで帰れないのか!? 絶対なんか方法あるだろ!?!?!」


 俺はいても立ってもいられず、猫耳シスターに詰め寄った。

 猫耳シスターはあわわと後ずさり、しっぽを俺と対角線側に隠した。

 ちょっと傷ついたけど今はそれどころじゃない。俺は猫耳シスターに息荒く詰め寄めよる。


「なぁ! 帰りたいんだよ! 真緒ちゃんが待ってるんだよ! 帰らせてくれ!!!」

「ひぃ……」


 気付くと猫耳シスターはちょっと涙目になってぷるぷる震えてたいた。

 あ、まずい。これが日本なら事案だ。落ち着こう。

 俺は息を整え、


「わ、わりぃ。いやでも、俺は本当に帰りたいんだよ。何でもいい。帰るための手がかりがあったら教えて欲しいんだ」


 できる限り優しくそう言った。

 なおも訝しげに俺を見つめる猫耳シスターにもう一言。


「なぁ、あんたにしか頼れないんだ。凄腕シスター様、どうかお願い致します! さっき超すごい回復魔法?で俺を救ってくれたじゃないですか。また今回も俺を救って下さい! 帰る手がかりを教えてください!」

「そ、そうですか? 仕方ないですね、もう」


 めっちゃチョロい!

 褒めれば何とかなるって昨今のギャルゲでもそう簡単にいかないぞ。

 頼られなれてないのか、めちゃくちゃ嬉しそうだ。

 分かりやすいなぁ、この子。


「うーん。これは噂なのですよ。噂ですから話半分に聞いて下さいね」


 猫耳シスターはそう前置きをして、


「あそこにあるダンジョン『グロワール』ですが、実は今攻略寸前なんですよ。最終は恐らく三十階層だろうと言われているのですが、二十五階層までは踏破済みなのです」

「へぇ、そうなんだ。で、それがどう帰る手がかりに繋がるのさ」

「えっとですね。これは完全に噂なのですが、ダンジョンを最終階層まで踏破したらその先に何があるのか、ということをいろんな人が考察してまして……」


 ダンジョンを攻略したらどうなるのか。ゲーム的に考えるとなんか宝物が置いてあるとかそういうイメージだが……。


「見たことも無い宝があるとか、攻略したらダンジョンが消えてしまうとか、そんな妄想にも近い考察の一つにこんなものがあるのです」


『ダンジョン最終層の先は、別の世界に繋がっている』


「まぁ所詮は噂なんですけどね。もしかしたら、スズキさんの世界にあのダンジョンが繋がっているのかも……。なんちゃって。……ってちょっとスズキさん! どこ行くんですか! ちょっとー! おーい!」


 猫耳シスターの話を聞き終えることなく俺はダンジョン『グロワール』の入口まで走った。


 俺は帰る。絶対帰るぞ!


 待っていてくれ真緒ちゃん!

 いま、会いにゆきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ