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スライムカンパニー  作者: からて
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異世界転生と猫耳シスター

 落ちる。落ちる。落ちる!

 何で! なんで!


「うわあああああああああ!!」


 記憶の最後では目の前にトラックが迫ってきたところだった。

 眼前に迫り来るトラックに恐怖し、ほんの一瞬だけ目を瞑った。

 ほんの一瞬のことだったはずだ。

 

 次に目を開けたら俺は落ちていた。

 意味が分からない。

 どうして、なんて考えている間にも俺の体は落下し続けている。

 もの凄い風圧のせいで上着がびろびろびろと愉快な音を立てている。

 あ、空が青い。めっちゃ青いぞ。真っ青だ。綺麗。わー、楽しい。楽しいなぁ。

 現実逃避をしながら俺は周囲を見渡す。


「なんだあれ」

 

 落ちてく俺の横には、空まで続く黄金色の塔があった。

 あ、これまた綺麗だ。わー、今日はいいものいっぱい見れたなぁ。

 よかったよかった。

 ちらりと下を見ると地面が近かった。

 あ、もうダメっぽい。

 そして俺は目を瞑り、意識を手放した。


 ———


「……大丈夫ですか……。あなた……」

 

 次に意識を取り戻した時、俺の目の前にはシスターが立っていた。

 十字のマークのついた青い修道服を着ている金髪のシスター。教会とかによくいそうだ。

 頭に猫耳があり、お尻に猫っぽいしっぽが生えていることを除けば。

 コスプレかな?


「もう動けますか? 大丈夫ですか?」


 猫耳シスターがぺしぺしと俺の頬を叩いてくる。

 手の平に肉球があるんじゃないかと思えるくらいぷよぷよした感触。

 ああ、そうか。これは夢なのか。

 でも夢にしては感触が生々しい……。


「おーい。起きてますよねー? ……もう。てい!」

「わ、痛ぇ!」


 猫耳シスターが手をグーにして俺の頭をポコンと殴った。

 普通に痛くて声が漏れた。


「あ、やっぱり起きてる。もー、返事してくださいよ。治癒に失敗しちゃったかと思ったじゃないですか」

「へ? なに……何なの?」

「もー。ダンジョン攻略するのもいいのですけど、あまり無茶しないでくださいよ。ただでさえ最近大忙しで先輩シスターが出払っているんです。今回治癒できたのは本当にラッキーだったんですよ。自慢じゃないですけど、わたしの治癒魔法は三回に一回くらいしか成功しないんですからね」


 猫耳シスターはほぅ、と胸をなで下ろしながらそんなことを言う。


「ダンジョン……? 治癒魔法……? なにそれ、なんなのそれ」

「???」


 猫耳シスターはきょとんとしながら俺の目をまじまじと見つめてくる。

 なんか『なに言ってんだこいつは』みたいな顔。


「何言ってるんですかあなた」


 あ、口に出しやがった。コスプレ猫耳シスターのくせに。


「あなた、冒険者の方じゃないんですか? 『グロワール』を攻略しに来た」

「ぐ、ぐろわーる? 冒険者? いや、全然ちげぇよ。というかここどこなの? 横浜市にこんなとこあったっけ?」

「ヨコハ(↑)マシ(↓)?」

「ううん、ヨコハマシ(↓)」


 どうやらこのシスター横浜市を知らないらしい。

 マジかよ。政令指定都市だぞ。慶應義塾大学もあるんだぞ。

 髪も金髪だし、もしかして外国の人なのかな。

 にしても日本語ぺらぺらだし、あーもう訳が分からない。


「というかあなた、なんでコスプレしてるんですか」

「こすぷれ? 何ですかそれ」


 コスプレも知らないのかよ。むしろ外国の方が有名なんじゃないのかコスプレって。


「この猫耳としっぽですよ。こっちは真面目に話をしているんだから今くらい取ったらどうですかこれ……」


 俺は猫耳シスターの猫耳をひっぱった。


「ぴ!」


 俺が猫耳に触るとシスターが小さく呻いて固まった。何だよもう大げさな。

 ぐい。あれ、取れない。ぐいぐい。何だまったく取れないぞ。どうなってるんだこれ。ぐぐいぐい。接着剤でくっつけてんのかこれ。

 

「ひにゃん!」


 ぐいぐい引っ張っているとシスターが素っ頓狂な声をあげた。


「にゃ、なにするんですか!?」

「え……。だってこれコスプレでしょ? こっちのしっぽも……」


 しっぽをぐいと引っ張るも、同様に取れる気配は無かった。

 代わりにシスターの顔が真っ赤に染まっていく。


「ぴにゃー! へんたい! へんたいの人! やめなさい!」

「うわっ!」


 どん、とシスターに突き飛ばされる。


「しょ、初対面でしっぽ触るなんて変態にもほどがあります! へんたい! へんたい! せっかく治癒魔法かけてあげたのに!」

「これ本物!??!」

「本物に決まってるじゃないですか! あなたアホですか!」

「アホじゃねぇわ!」

「アホじゃなかったら本物の変態です! 獣人のしっぽ触るなんてデリカシーないにもほどがあります! うう、もう。初めて男の人に触られた……。汚されちゃったよぉ」

「じゅ、獣人?」


 なにそれ。獣人? 獣人って、ほら、あれだろ。ホロとかいづなとかそんな感じのキャラ属性のことだろ?

 そんなの漫画やラノベの話じゃないの?

 

 思わず挙動不審になってしまった俺を猫耳獣人シスターは涙目で見つめてくる。完全に不審者を見る目つきだ。

 うう、だってそんなこと言われてもわけ分からないですし……。


「……あなた、お名前は?」

「鈴木大輔、です。十八歳の高校三年生」

「……そういうことだったのですね」


 猫耳シスターはふぅ、と小さく息を吐いて、


「それで、あなたはどこからやってきたのですか」

「どこからって。横浜市だってさっき言ったろ。学校からの帰り道になんかトラックに轢かれそうになって、目を覚ましたらあの塔の上の方から落ちてて。そんで気付いたらここにいたんだけど」

「なるほど。あなた『転生者』の方だったんですね。どうりで……」

「『転生者』……?」


 猫耳シスターは、はふぅと可愛くため息を吐き、


「たまにいるらしいんですよ。……もちろんわたしは初めて生で見ましたけど。あっちの世界の人は名前がへんてこなので分かりやすいんですよね。『トヨタユウヤ』とか『サトウカズマ』とか。スズキダイスケさんも例に漏れずあまり聞かない名前ですね」

 

 頭がぐるぐるする。理解できない。

 いや、俺の頭が理解をしようとするのを拒んでいるのだ。

 だって、今までの話って……。


「転生者って。もしかしてここ、異世界だったりするの?」

「スズキさんのいた世界とは異なる、という意味では確かに異世界ですね」


 言葉が出てこない。そういった話を、俺は確かに知っている。

 小説家になろうとかでよく見るお話だ。

 当然のことながらそんなのが現実に起こるなんて考えたこともなかった。

 でも、あの見たこともない黄金の塔。それに猫耳としっぽの生えた人。

 現実にこんなの見ちゃうと、もう信じるしかない。


「スズキさん、ようこそ異世界へ」


 猫耳シスターは猫耳をぐんにゃりとしながらそう言った。

 俺も多分、ぐんにゃりとうなだれていたと思う。

 ぐんにゃり。

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