第8話☆魔法少女維新の会~このセカイをどげんかせんといかん~
いつの世も憂国の志はいるものです。
伏線バリバリ。
固有名詞バリバリ。
後でつじつま合わせるの大変そうな感じです~
「よく集まってくれたわね」
長崎のとある繁華街の一角にある、中華料理屋「はくらい亭」。名物「虹色かた焼きそば」がとても美味なこの店の、2階のお座敷席に、5人の魔法少女が集まっていた。
「イシュカ、本当にやるつもりなの?」
「うん」
黒髪のメイドと巫女を足して2で割ったような外見のつり目が鋭い魔法少女に問われ、灰色のロングヘアーの体に包帯が巻き付いた少女は頷く。
「ハルシロフ……あなたとここにいるシーザ、ウラノーマ、ファリア。戦力として申し分ない」
「それはそうだけど。最悪、死ぬわよね」
「仕方ない。腐敗した上層部を駆逐するには、私たちが動くしかない。他のコはただ惰性にまかせぬるま湯に浸かるだけの役立たず」
「確かに、千葉の担当とかは落花生食べてるだけのバカ犬だし。岐阜担当のカネ持ちボンボンは態度だけが一人前って感じだし。和歌山のアレに至っては問題外」
「顔に違わず、相変わらずの毒舌ね。だから敵が増える。敵が多いとそのぶん大変になるのに」
「でも、そんなのをわざわざ味方につけるんだよね君は」
「実力が伴っているのを、よく知っているから」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
ハルシロフは、テーブル上の皿に盛られたゲソの唐揚げをつまんで、口の中にポイと入れた。絶妙な塩加減がクセになる味で他の魔法少女も、止まらない勢いでぱくぱく食べている。特にワインレッドの長髪を垂らす剣士のような出立ちのウラノーマは進みが速く、食べながら無表情に感想を発する。
「うまいな。相変わらず安くてうまい」
「280円でこれだもんね。ただ、まだメインの絡めちゃんぽんが来てないから、あんま食べ過ぎるのもどーかと」
ピンク色の髪色をツインテールにして、ショートケーキみたいな甘い香りのしそうな服装のファリアに諭されても、ゲソの唐揚げをつまむ手は止まらない。なぜなら彼女は魔法少女の中でもかなりの大食いなのだ。それをわかっていたファリアは、それ以上言及せず話題を切り替えた。
「それでリーダーさん、どこで仕掛けるつもりなのかな?」
「それは、これから開かれる魔法少女交翅宴の場でしょうね」
四角いレンズの眼鏡をかけ、碧の髪を七三のように分け、どこかの社長の秘書のようなレディーススーツを着てインテリ匂を漂わせるシーザは、冷静極まる口調で口を開いた。しかし、その右手にはゲソの唐揚げがつままれている。
「あれが始まれば、上の魔術師達が来る。監督官のサベリオスや現大魔導ローザルフ様もいらっしゃるはずよ」
「なるほど、そこを狙うのね」
「そうです。ただし」
「ただし?」
ファリアは、首をかしげる。
そして、とりあえずゲソの唐揚げを食べる。
「あの方達が禁書の行方について詳細を知っているかは定かではありません」
「ああ、そっちの件ね。焼失したはずのアレが実はまだ存在しているって話。まー、隠すならあの人達ってのがわかりやすい流れだけど。魔杖エルゲングリム盗難事件も、なんだかモヤモヤする結果で終息したし」
「あれは、あのまま無くなってくれれば良かった気がしますね」
「そーかな」
「何せ、あの世界に蔓延る悪が、その脇に潜む可能性もあるのだから」
「あー」
「どちらにしても、このままにはしておけない。まったく、私たちがこんなことをしなければならないなんて。情けない世界ね」
「そーだねー。あっちもそうだけど、この日本って国も腐敗と是正を繰り返して来たんだよね」
「そうね、シーザ。神様のいたずらとは思いたくもないけれど、必ずと言っていいほどに、上に立つものは我欲と慢心に溺れ、必死に生きる者達の最低限の権利までもねじ曲げて踏み躙る。自分達に都合良く法を、黄金率であったかもしれぬものを浅はかな考えで改竄し、未来に業を押し付けることになる可能性も想定しない。それを変えようと、真に国を思い民を思う高き志あるものが幾度も現れたけれど、いつも最後は尽く、愚者どもに潰されてしまう。そして、いつも、人々は牙を抜かれ勇気を奪われる」
「結局、進化を停滞させるヤツラがのさばっちゃうんだよね」
「彼らを更正させるのは難しい。権力に浸かりきった者は聞く耳を持たない。だから、力を持ってこれを排除する。元々、人を変えるには力が必要」
「それが、私達ににあるってこと。大した自信だね」
「そのために鍛えてきた。培ってきた。あれも、犠牲を払って会得した。いくつもの苦渋を舐めた。この世界たちを、多くの人々を幸福にできるのは、私たち<魔法少女維新の会>だけよ」
静かな物言いだが、イシュカの言葉には熱意があった。4人もそれを感じとり、ゲソ唐揚げをつまむ手を止める。
<魔法少女維新の会>
それは、彼女たちだけの秘密の集り。
この世を憂い変革を求める者の密かなる女子会。
しかし、次の食べ物「しんがら焼き」がやってくると、彼女らの意識はそこに向いた。
「ま、とりあえずそろそろ乾杯しようよ」
ファリアに促され、杯もといコップを手に取る5人。まだ未成年者のため、注がれているのは酒でもエリクシールでもなく、何の変哲もないごく普通のオレンジジュースである。
「では、私たちの健闘と勝利を祈って、かんぱーい」
「かんぱーい」
若さゆえ糖尿病など気にするはずもなく、ゴクリゴクリあるいはこくこくと甘美なる液体を飲み干す。そして、ハルシロフはふーとため息をついてぼやいた。
「あと何回飲めるのかしらね。これ」
「事を成せばいくらでも飲めるよ」
「自信ね。ま、リーダーがそうじゃないとはじまらないけど」
もぐもぐ。
ぱくぱく。
5人はそれぞれ違った顔をして、来た食べ物を平らげていく。
まるで、人生がいつ終わってもいいような食べ方だ。
「ふぐふぐ。ところでリーダーさん、聞かれてないよね。見られてないよね」
「大丈夫よ。この店全体に<ステルスフィールド>と<ダミーエフェクト>を張ってあるから魔力は漏れないし、外部から話は聞き取れない」
「さっすが。その手の妨害魔法使わせたら右に出る子がいないだけあるね」
「EBとの戦闘では、あまり役に立たないのだけど」
「あいつらアホだから必要無いだけでしょ。にしても、あいつらの元凶も気になるねーやっぱ禁書と絡んでるのかな」
「その可能性もあるわね。活発化しているのは少なくとも間違いないから」
「あっちでも、増えて困ってるもんね。それなのに対応悪い」
名物の「特上海鮮大盛りかた焼きそば」が卓上に並んだ。
ぱりぱりの麺だけでもかなりの量だが、5人は食欲を失わない。気になるのは、お金のことだけだ。
「んぐんぐ、こんだけ食べると結構金額いくだろうな」
「気にする必要はありませんよ、ウラノーマ。金銭的に私たちが困ることはないのですから」
「それはそうだがな、シーザ。私たちが日ごろ消費しているこの金は<改鎚財閥>が肩代わりしているのだろう」
<改鎚財閥>とは、日本にある大企業という表の顔を持つ魔法少女支援機関である。主に滞在場所の斡旋と資金援助を行っており、これにより、各都道府県の魔法少女には一般の男性会社員の初任給程度の額の日本円が毎月ノーリスクで付与される。子供にはかなり高額なため、これに目がくらんで無駄遣いや不正使用など邪心に駆られる者もいるが、この5人はその類ではなく、比較的慎ましやかに生活している。
「この程度で罪悪感を抱くなんて真面目ですね。そう心配なさらずとも、怪しまれることはないでしょう。なにしろ千葉の太鼓持ち様や島根の子、東京の貴族まがいの浪費はひどいものですから。この程度では目もつけられないと思います。まあ、これから妥当すべき者達の力を借りているという意味では、あまりいい気はしませんがね」
「まあ、改鎚も改鎚できな臭いものだからな。金の出所などブラックボックス的な部分も多い。エンターライズの上層部との癒着もほぼ確実と聞くから考えようによっては、こうやって金を使う事もささやかな妨害工作と言えるかもしれんな。まあ、錬金術を使われていたら別だが」
「それはありません。この国の貨幣を勝手に増やしたりすれば混乱は避けられませんからね。あくまでもエンターライズはこの地球を守ることを主目的としているので。あくまでも、おもて向きにはですが」
それを聞いて、イシュカはコクリと頷いた。
「支配欲は隠せない。いずれジワジワとこの星を征服し植民地化するのが彼等の狙い。魔力源としても資源としても、非常に優れている、格好の苗床だから 。けれど、一気にやればいいのにそれができないのは<地母伸>への恐れ」
「ああ、それね」
「地球の守り神様。実在するかは定かではないけれど、存在するなら、確実な脅威よね」
「だから、私は探しているの。あの伝説の魔術師の唯一の弟子とも言われる方だから。味方につければ私たちの計画の地盤は更に堅固なものになる」
「でも、流石に交翅宴に間に合わせるのは難しいでしょ」
「残念だけどハルシロフの言う通り。そうね、できる限りの事はするけどこの地球のどこにいるかを特定する術が現状ないから、可能性は非常にわずかなものよ」
「私たちで何とかするって決めたのだから、つまりは、おまけみたいに考えれば良いのよね。そうしとくわ」
魔法少女維新の会の面子は、その後も食を堪能した。
その総額は、何と、1万5千円。ひとりあたま3千円と考えるとさほど高いとも言えない額であった。東京担当の魔法少女はこの総額を1日で消費する上、もらっている月々の資金も他より2倍以上多いため、勿論シーザが言うようにこの程度でエンターライズ側に目をつけられるようなことはない。目立ちにくい立地などすべて計算ずくの店選びをしたのは、やはりと言うべきかリーダーのイシュカの配慮であった。
「それじゃ」
「またね」
代金を払い、<改鎚財閥>に月末一括で送付する必要がある領収書を発行してもらった後。店を出て、すぐさま5人は足跡を残さんばかりに解散した。
あたりは夕闇が迫り、空は眠らんとする太陽とそれを見送る雲が交わって、神々しくもある光彩をつくり出している。
眼鏡橋の上で、仲間と別れたイシュカは、その流れる川に映されたその景色をただ、じっと眺め、そして呟く。
「魔法使いも、人も、同じ生き物。水に揺れ動く空が、天をするの空と同じであるように。しかし、ほとんどの記憶からそれは失われてしまった。認識や言葉のカテゴライズに分断されて見えていたはずの未来すら見えなくなって」
包帯と、そこから漏れる灰色の髪が風に靡く。
それは夜の闇に溶け込まず、意志を現すような輝きをきらきらと発つ。
「運命の時は近い。とても胃が重いけれど、私たちがいま動かなければ、世界行く先が負煉に堕ちてしまう」
その圧は、課せられた使命が険しいものであったり、準備するために残された時間が残り少ない事から生じる緊迫感と言うだけではない。単純に食べすぎたのだ。普通の大人の飲み会レベルどころか大食い選手権並の量を食べたのだからお腹がもたれるのは割と当たり前である。店選びをしたのは彼女だったが、メニューを頼んだのは他のメンバー達だったが、それは少し誤算であった。なにせ、ウラノーマの大食ぶりも相当だが、ファリアは更に上を行く大食い魔法少女なのである。本人は手加減したつもりだたのだが、それでもこの結果である。若いので逆流性食道炎などは無いもののちょっとトイレに行きたい気持ちが、彼女には芽生えていた。
「とりあえず、今度の会合はカフェにした方が良いわね」
腹をさすり、再び歩き出すイシュカ。
このあと、暫く何も食べり気がしなかったのは言うまでもない。
彼女達がこの先に辿り着くのは幸福なる未来か。
あるいは深遠なる地獄の業火か。
それとも、それ以外の奇天烈か。
眼鏡橋は語らない。
たとえ、自らがその「境」であったとしても。
<魔法少女維新の会>
それは、ヒミツでナイショでキケンな女子会。
仲間は、コッソリ募集中。