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ホームレス魔法少女☆はるなのドン底貧乏ライフ☆  作者: 束間由一
Ⅰ:マジカルビンボーライフ篇
6/56

第5話☆万引きGメン〜涼宮ハル子の憂鬱〜

涼宮ハル子。


彼女はごく普通の主婦である。

歴戦の凄腕万引きGメン捕獲率ほぼ100%若い頃に異世界に飛びこみ一人で魔王を倒しその上メタトロンに挑みこれを撃破したがその頃の記憶は全て抹消されたと言うことを除いては、いたって普通のおばちゃんでなのである。


 皆様、はじめまして。


わたくし、涼宮ハル子と申します……歳は自称42歳、旦那は公務員で役所勤めをいたしており、子供は男ばかり3人ございます。長男は2年程前に結婚して孫の顔を見せてくれましたが、必死に育てて来た甲斐があったとひしひしと感じますわね。



普段はスーパーマーケット「オザワステーション」の万引きGメンをしております。昭和50年代開店のこのお店ですが、バブル期には県内に10店舗まで拡大し、近隣の県にまで手が及んだこともありましたが、最近は大型専門店街やコンビニエンスストアー所謂コンビニの波に押されまして縮小の一途をたどり、現在は此処と黒野に一店舗を残すのみとなりました。まさに盛者必衰の理を現すものでありますが、商品の安さに関しては先ほど挙げたものよりも優れておりますので、細々ながらも一定の景気は維持できております。


 しかし、安いと言う事は当然仕入値との差が小さいわけであり、利益を得るには相当数を、確実に、売り捌かなくてはなりません。その最大の障害となる存在が、万引きであります。彼らは、当店の出入口にアラーム装置が無いのを良いことに、巧みに商品を盗んでいくのでございます。一応監視カメラはついておりますが、これだけでは決定打に欠け、証拠として不十分……そこで、私の出番と言うわけでございます。



最近は老眼により眼鏡をかけてはおりますが、長年培った洞察力は衰えを知りません。この四半紀年でとらえた万引きの数、延べ1万2千316人! 千冊に及ぶ、「万引き犯捕物手帳」による情報ですので間違いありません。ちなみに、万引きで最も多く捕まったのは市内在住の金山剛という男性で、2千210回私が捕まえその内の多くの男性のように「もうしませんから許してください。かみさんに言わないで」を聞いております。妻と子がありながら窃盗行為に走るのは、1種病的ではありますがまったく悲しいものでございます。結婚すなわち人の幸福と言えぬのがこの世の中。海から帰った鮭が産卵してすぐ生を終える潔さと比べれば、こんな未練たらしく長々生きるのはある種自然に反しているのではないでしょうか。


あら。


さてさて、今日もまた怪しき客が店にやって来たようです。


「ウィーン」


自動ドアを開け入ってきたのは小学生くらいの子供。

最近の子は、変なところだけおませていて、お菓子を盗むことも少なくありません。たかが10円100円そこらと侮ることなかれでございます。全てはこの店の大切な商品なのでございます。少年法などという甘い法律に擁護されておりますが盗みは罪。決して許すわけには参りません。


それにしても、変な服装をしていますね。

ハロウィーンでもないのに、まるでアニメの主人公のような格好でございます。この子の親はいったいどんな人物かはわかりませんが、ろくな教育をしていないでしょうね。ええ、この子はやりそうです。


やはり、食玩コーナーに行きましたか。

子供はあそこに屯しますからね。しかも、あの子は私の勘からして性悪に違いありません。さっさと追いかけて、犯行現場を見届け、捕まえるとしましょう。さあさあ、万引きGメンの腕の店どころです。さあさあさあ、覚悟いたして、悪徳少女。


!?


何ですって?

そんなはずは?

あの子の姿を見失った?


だって、今確かにこの食玩コーナーに向かったではありませんか。なぜ、あんなハゲオヤジしかいないのでしょう。この、涼宮ハル子がターゲットをとり逃がすなんて。私の力が衰えたと言うの?


そうは、させません。

わたくしは百戦錬磨の万引Gメンなのです。ここで取り逃がすのはプライドが許しません。必ず見つけ出します。


さあさ。

さあさ。


出ておいで悪い子ちゃん。おばさんからは逃げられませんよ。この店の出入口は2ヶ所ありますがいずれもレジ付近に張りつけば視界におさまります。焼津の(たか)にも負けないわたくしの眼力(まなこぢから)で、必ず捉えて差し上げますのよ!


チーン

チーン

ジャラジャラ

チーン

チーン


馬鹿な。

まさか。

ありえなーい。


いつまで待っても、あの子が来ない。あの子は、魔法使いだとでも言うのかしら? 透明になる魔法でも使ったと言うのかしら!? この「ハル子アイ」を()(くぐ)るなんて事があるのならば、あな恐ろしやあな恐ろしや。 この「オザワステーション」に最大の敵が現れたのかもしれません。


しかし、私も意地があります。

この涼宮ハル子の力で、この未曾有の危機を乗り気ってみせますことよ!


まずは究極の地獄耳「ハル子イヤー」発動!


しゃあしゃあしゃあ

しゃあしゃあしゃあ


続いて麻薬犬をハルかにしのぐ「ハル子ノーズ」!


くんかくんかくんか

くんかくんかくんかくんか


最後に万引きGメンの研ぎ澄まされし第6感「ハル子レーダー」でございます!!


BBBBB

BBBBB

BBBBB

BBBBB


Bi?


ごごばばばはっ!?

そ、そんなそんなそんなそんな馬鹿なァァァ!? 私の万引きGメンとしての全ての力が及ばない? あの子は、本当に人ならざる存在だとでも言うのおっしゃるのおっしゃられるの!?


完敗です。

完敗でございます。ハル子、燃え尽きました。


終わりです。

我が人生全て終わりました。今すぐ棺桶に入ろうかと思います。


「あのー」


ごばばっ!?

気がつけば私の横にさっきの魔娘がいるではありませんか! この私にこうも簡単に近づくとは。気配の消し方が上手すぎます!

この子、まっこと恐ろしい子でございます!!


「お嬢ちゃん、あなた」


「あの、どこかに5円落ちてませんでしたか?」


ん?

この子、ちゃんとレジ袋にうめー棒(駄菓子)を入れている? それに、手に持っているのはレシート? つまり、この子はお菓子を万引きしていない? でも、いつの間に買ったのかしら?


「落ちてませんでしたか?」


「わからない、わからないわ」


「そーですか、すいません」


しょんぼり去っていく姿にも盗みをした人間の気配はありません。一体、あの子は何なのでございましょう。何十年この仕事に携わって、あのような未知の存在は初めてでございます。全てが私をすり抜ける色即是空の体現と言わんばかりの途方のなさを感じさせる一方で5円と言う少額に執着する庶民感を持っている。


少なくとも、この件で万引きGメンの道が未だ半ばであることはよく理解できたのでございます。


人間は達したと思ってすぐ結末を作り出してしまう。年齢と言う作り出された概念に怯え嘆く。しかし、それはこの世界の(ことわり)からすればただの変化であり、劣化ではございません。人は常に進歩する可能性に満ちているのに、わざわざ負の錬成で自らを思考の檻にいつのまにか閉じ込める。わたくしもまた、そうであったのでしょう。


ふふ、あの子の5円探しておいてあげましょう。

これも、何かの縁でございますからね



ご縁だけに5円。

お後がよろしいようで。








(なお、このあと5円玉が見つかることはありませんでしたが、50円玉が見つかったので警察に届けました)










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― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼの回ですね。 はるなちゃん小さい処で不運さを見せてくれます。 そういう意味では涙を禁じ得ない回でもありました。 ついでになりますが涼宮さん、メタトロン撃破は凄すぎ。 神の別名ともいわ…
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