第46話■Side-B■聞こえざる「言葉」の壁
はるなたちのもとを去った中村夜半は斎藤と原田の元へ。
そこには……
「斎藤君、君だけで僕を止める気かい?」
「あたりまえっしょ! ヨハヨハパイセン、覚悟するし!」
「半人前の分際で、良く言うよ」
「は、ナメてんの!? サライマだけどそーいうスカってるとこマジムカつくんよね!!」
「別にそんな気はないんだけど、な」
「あったしょ! 絶対あった! 斎藤さんゲキバチチギレメンだわ!!」
「相変わらず頓珍漢な言葉を使うね」
はるな達のもとから去った中村夜半だったが、彼は原田と斎藤の戦っている2JJの北側へと足を運んでいた。
「原田君は、そうか、いないか」
「こっちは、あーしだけで十分ってことで、局長んとこ行ったよ」
「入れ違いか。フフ、来て正解だったよ。あれがいると、面倒だったかね」
「1人なら倒せるって発想ダサすぎるし!」
「なんと言われても構いませんよ。頭数を減らせれば良いのですから」
中村は肩からぶら下けている鞘から洋風の長剣を抜いた。
「さあ、デュランダル。仕事のお時間です」
「させるかっての!」
斎藤も刀を抜く。お互いの刀身は偽りの太陽の光で輝いた。
「いきますよ」
お互いに重心を低くして、一拍を置いて斬りかかる。最初の一撃はお互いに斬りあげだった。
刀と剣が接触して弾かれたが、斎藤の方が受けた衝撃が強く、大きく後ろに押し戻された。
「くっ!!」
「《打ち廻し》」
夜半が握るのは伝説の剣。
英雄ローランがかつて振るっていたと言う、魔を切り裂くオリハルコンの蒼白き刃を持つ神器に等しきもの。その刀身は決して破壊されることは無いとまで言われる。
旋回させるだけで、放たれる衝撃波。
斎藤はとっさにかわそうとするが、間に合わない。
「あぁっ!?」
「さあ、威勢も無きまま死になさい!」
「させるかし!!」
攻撃は受けた。だが、反撃はする。
刀を突き出して、前方に強く踏み込んだ。
「《空裂》!!」
渾身の一撃。
しかし、夜半は柔軟な身体で、足を開いて上半身を下げてその攻撃を回避すると、すぐさま水平に刀を振って反撃を加える。
「くっ!?」
「ククッ、斎藤君、君はチャラついた喋り方をしてはいるけれど、太刀筋はいたって素直で真面目だ。まるでふざけていない」
「ドラキモい言い方すんな! 単にヨハヨハパイセンがドクソヘンタイ野郎なだけしょ!」
「そうだね、君のような優等生とは九牛の一毛も分かり合えないだろうさ。そう言うことで、さっさと死んでもらいましょう!」
夜半が必殺の一撃を斎藤に仕掛けようとしたとき、スッと、そのオニオオハシの頭をした剣士は2人の前に姿を現した。
「おやおやおや、人間は物騒ですなぁ」
「貴様、何者だ?」
「そう怖い顔をなさいますな。まあ、野次馬な渡り鳥みたいなものです」
「その格好で嘘をつくつもりか?」
「クワッカッ! ウラノーマ様からのいただきものは、随分と目立つようですね」
「白々(しらじら)しい!!」
鳥頭は斎藤の前に立つと、顔を右に90度回した。
「大橋っち!」
「斎藤さん、先陣のお務め、ご苦労様でした。あとは、私にお任せください」
「あんがと!! たのむわ!!」
「実にあなたは素直でよろしい」
飄々(ひょうひょう)とした語りで大橋は、夜半にも語りかける。
「対して、あなたは隠し事が多そうですねぇ」
「決めつけはよくないな鳥。お前こそ、得たいも知れぬ魔物ではないか」
「クワッ、ま、それは、そうですな」
「なんだその顔は! なめているのか、貴様!」
「いえいえ、普通にしているだけですよ。あなた、思ったよりも気が短いのですね」
「異界の物がペラペラと! さっさとその口ばしを、へし折ってやらねばな!」
「お若いですなあ、そういうのも、私は悪くないと思いますよ?」
「エグザイル・ビーストが!! さっさと魔剣の餌になれ!!」
夜半の剣閃が、容赦なく大橋を襲う。
しかし、それをふわりふわりと、まるで酔っぱらいの千鳥足のように、しかし確実に大橋はかわすのであった。
「ちっ!! のらりくらりと!! ならば、これでどうだ!!」
夜半はデュランダルを大地に突き刺す。すると、そこから黒い闇でできた無数の蛇が湧き出した。そして、それらが、大橋に絡み付く。
「おやおや、これはこれは」
「その蛇の毒は、噛まずとも貴様の体を痺れさせる!」
「親切に種明かしをしていただき、ありがとうございます。ご親切に」
「終わりだ!!」
グサリ
動きを止められた、大橋の胸元に、容赦なく剣が刺さる。
「キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
それは、サイレンのような、断末魔のような、けたたましく恐ろしい鳴き声であった。
しかし、それに反して、夜半には実感がなかった。
確かに剣を刺したのに、まるで「肉体」を感じなかった。
一切の手応えがなかったのだ。
「これは」
「クワッカッ」
「むっ!?」
目の前にいた。確かに目の前にいたのだ。
それなのに、大橋は、夜半の後ろで、その大きな瞳を和らいでいた。
「貴様!!」
慌てて振り返り剣を振るうが、大橋には当たらない。
「クワックワッ」
「なにがおかしい」
「あなた、聞こえていますか?」
「何をだ」
「私の言葉です」
「ああ、聞こえている! 不愉快な言葉だ!」
「嘘はいけません。聞こえていないのでしょう?」
「何が言いたい!!」
「私は、話しかけているのですよ、この今も、あなたに」
夜半の体を、血液を冷たい水がゾワッと走った。
それは聞こえない言葉。しかし、僅かに、それが彼の体に伝った。
「トリィィィィィイ!!」
「では、これが見えますでしょうか」
「!?」
「 」
その時、大橋は夜半何かを使った。
しかし、彼は、なにも感じなかった。何も、傷つかなかった。
「クワッカッ!」
「何をした? 今、何をしたんだ!?」
「ちょっとしたお節介ですよ。私からは以上です」
「まったく気持ちの悪いクチバシ野郎め…………フン、だが、ひとまずこの場は退いた方が良さそうか」
「そうですね」
「ククク、まあいい。計画成就の暁には、貴様のその面も凍りつかせてやるさ」
「そうですか。私は、あなたのこと嫌いにはなれませんよ」
「好きにしろ。だが、僕はお前が大嫌いだ」
そう言って、夜半は拠点2JJの方に飛び去った。
大橋は刀を鞘にスタッと収め、それをのんびりと見送る。
「なにあれ感じ悪っ!」
「いえいえ、あのお方はお人がよろしいですよ、クワァ」
「やさしーね、大橋っちは。んで、ヨハヨハに何したん? 手をパーってやってたけど、なんも起こらんかったよね?」
「クワッカッ、まあ、ちょっとした、ちょっかいですよ」
「いや、わけワカメスプ。さすがだわ。やっぱ副局長が誘っただけある」
「ワカメスープの略ですね理解いたしました。クワワッ、それにしても、今のところ、私の 言葉 が聞こえたのは王を除けばウラノーマ様だけですね」
「そのコトバってのよーわからんのだけど。いま喋ってんのとは違うん? とりま、あーし聞こえんのなんかバリクヤシケリなんだけど」
「そんなに悔しがらなくてもよろしいですよ斎藤様。天賦の才のある、はるな様ですら聞こえていないのですから」
「そか局長も聞こえてないんだ。ならいーか」
「そうそう、ゆっくりいきましょう。聞こえるようになるときは、聞こえるようになるものですからね。クワッカッ、ペッ!」
「わ! こっちに向かってタン吐くなし!」
口ばしで飛ばしそこねた液体をくっちゃくっちゃしながら、穏やかな目をする大橋の内は、斎藤には到底計りかねるものだった。
ゲキバチチギレメン=超めっちゃムカつくみたいな感じです。
なお、今回使いませんでしたが斎藤は魔法も得意です~