第34話☆双子殺しのお菓子の城
はるな達がシーザと戦っていた頃、ワクテル達もまた第2の関門に差し掛かっていた。
立ちふさがるのは双子の魔法少女姉妹……
私はオーライト=メナス。
オーレフトの双子の姉だ。
私の一族は双子が非常に生まれやすい。かつ、その双子は互いに魔力を共有する力を生まれつき持っており、お互い脳内で会話ができる等、人間の双子とは比べ物にならないシンクロ性を持っているのだ。人々は私たちの事を「共存の双魔」と呼ぶ。
だが、その呼び名は皮肉の側面が強い。双子であることはメリットでもあるが「呪い」でもある。私たちは「ニ人力を合わせることで真の力を発揮できる」が、「ニ人でないと真の力を発揮できない」のだ。
近くにオーレフトがいれば、魔力の大半を片方に注いでもらえば飛躍的に能力を向上させられる。しかし、そのパスが機能する範囲は広くなくて、かなり至近距離にいないといけない。それゆえ先の魔法少女交翅宴では全くそのメリットを活かすことはできなかった。単独での私たちは、いくら頑張ってもアルステリアのような天才はおろか他の魔法少女にも見劣りする。これは先人の双子魔法使いにも言えたことであり、それがあだになって無念のままに枕を濡らし死んだ者もいたと言う。
そんな私たちにメロウラインは力を分け与えてくれた。おかげで能力は飛躍的に向上した。だが、それでもまだ足りない。だから、ここに現れたワクテル達魔法少女を皆殺しにして、更なる力をもらうのだ。この呪いを払拭するために。
「悪いがここで!」
「死んでもらうぞ!」
さすが魔法少女のリーダー。私たちが殺意を向けても動揺する様子がない。だが、お前のような分かりやすい奴はそこまで恐くない。メリオラもそうだ。エメリスはすぐに殺れる。警戒すべきは、ヤツだろう。
ファリア=エルス。
あいつは、おっとりしていて闘志が感じられず、見た目もメルヘンだから一見すれば強そうには見えない。しかし、そのスタイルは非常に特殊で他に類を見ないものだ。
お菓子を際限なく錬成し、それを武器にする冗談みたいな能力。召喚魔法なのか錬金術の類なのか定かではなく、ヤツが地属性であることは知っているのだが、それを用いた芸当なのかも釈然としないのだ。
魔法少女交翅宴では早めに敗退してしまったが。そもそも、優勝の名誉とか金とかそんなものに無頓着な感じのの奴だから、本気を出していたかも怪しい。適当に負けるつもりだったんじゃないだろうか。しかも、そんな浮わついた感じなのに、岐阜代表を倒している。今のところアイツは魔法少女の中では中の下の扱いを受けているが、それでもあんな会場楽しませるパフォーマンスショーのような戦いかたで勝ってしまうのは侮りがたいものがある。こういう未知の部分がある存在は真っ先に倒した方が良いだろう。ならば、
『オーライト』精神と精神をリンクさせて話しかける。私達だけにしか聞こえない会話だ。
『ファリアを狙うのね、姉さん』
『そうだ、一撃で仕留める』
『いきなりあれを使う気つもり?』
『あいつを倒せばあとは上手く行く』
『けれど』
『いまさら迷うな妹よ。私たちは呪いの連鎖を絶ちきらねばならんのだ』
『わかりました。姉さんに魔力を転送、補填を行います! 魔力パス接続!』
どっとオーレフトの魔力が体の中に流し込まれて駆け巡る。邪属性を取り入れたため、かつて無いほどの力が沸き起こり、滾る。やれる。これなら、あんな魔法少女の1人やふたり塵にしてやるさ。
「食らえ!! 合体魔法!! 《ジェミナス・イグニシッョン》!!」
強力な魔力瘴気をまとい、ファリアに向け突撃する。今の私は流星にして触れたものを焼け焦がす凶星に等しい。些細なる障害よ消え去るが良い!!
「あぶなーい」
なに?
何なんだそのゆとりは。お菓子を目の前に、あの棒状の顔のような模様があるあれはなんだ?
激突。衝撃は無い。
私の纏った魔力でその棒は簡単に溶ける。しかし、溶かされても伸びてくる。溶けても溶けても同じところまで伸びて私を足止めする。何だこれは。
「マジカル金太郎アメちゃん頑張って~!」
飴だと?
あの切っても切っても同じ顔が出てくるあの日本に昔からある駄菓子だと? そんなふざけたものに、攻撃が止められるだと!?
ふざけるな
ふざけるな
ふざけるな
こんなものに、こんなものに私達が負けると思うな。
押し潰してやる。正面から押し潰してやる!
「うおおおおおぉぉぉ!! 私を、私達を、馬鹿にするなぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
その一瞬見せたピキリとひきつるような表情。心の歪、濁り。どうやらその無限に湧いてくるわけではないようだ。つまりは、押し切れる。
「死ねぇっ!! ふざけた奴っ!!」
「きゃあっ!?」
飴を溶かしきり、ファリアに迫る。
だが、しぶとい。間一髪、横飛びでかわされた。だか、私はそれを高速で追尾する。
「チッ!! ゴキブリのような奴めが!!」
「まっ、失礼な! ゴキブリちゃんにあやまってください!!」
「そっちかよ!! 虫に謝ってられるか!!」
「悪い子ですね! ぷんぷんぷん! そんな子には、おしおきしちゃうわよ~!!」
ザワッ
空間が急に騒ぎはじめた。
何かが発動した。何か建物のようなものがファリアの背後から蜃気楼のごとく現れる。これは領域魔法か?
「聳え立つそれは、御伽なる甘き障壁。可愛い子供達はあなたの内の暖炉の中……《双子殺しのお菓子の城》……」
城がその門を明ける。
その光る入り口が、凄まじい吸引力で私達をその中に入れようとしてきた! まずい、逃げなくては!! しかし、こちらの速度を持ってしても、耐えきれない!!
『姉さん!』
オーライトが心のうちで叫んでも、時既に遅し。
私達はその城の中に吸い込まれていく。このままどこへ流されていくのかも分からない。まるでブラックホールだ。
まさか、あの名前は、そんなことが!!
これは、メタマジック!! 完全に私達、双子だけに特効の、私たち双子だけを狩ることだけに特化した魔法!! バカな!! そんなピンポイントな魔法があるというのか!?
全部わかっていた!?
それともただの不運!? そうだとしたら、私たちはどれほど神に見放されているのか!!
そんなまさかまさかまさか!!
そんなまさかァァァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
……
私達は流された。
流されて流されて、行き着いたのは謎のファンシーな小部屋だった。
「―-くっ!! 何だここは脱出する方法は!?」
「姉さん、まずいよ!」
「何が?」
「ここ、魔法が使えない!! 魔力が発生させられない!!」
扉はある。
しかしノブを引っ張っても開かない。
『安心して、命はとらないから~』
「ファリア、どうする気だ」
『これから、あなた達にお菓子をごちそうするわね』
「は?」
『ねずみさん、おねが~い』
「なに!?」
言ったのも束の間、何体もの二足歩行のメイド服を着たネズミが何体も現れて私達を取り囲む。そして、うち二匹が、私達の背後に回り羽交い締めにした。
「ぐっ!! 放せ!!」
ネズミ達の力は強く完全にロックされてしまった。
もはやこれまで。
「チュウ」
「な、何をする気だ!? むぐっ!!」
「チュウチュウ」
ネズミは、シュークリームを私の口にねじ込ませた。
甘味が口のなかに広がる。このままだと窒息するから飲みこんだ。しかし、ネズミは今度はエクレアを私の口に突っ込んできた。
「むぐー!!」
『たーくさんたべてね! これからずーっと、絶え間なくあなた達はお菓子を食べ続けるの。ハッピーなお仕置きでしょ?』
いや、それは拷問だ。
『安心して、いくら食べても死なないから。そのかわりカロリー高いからどんどん太っちゃうけど、それはしかたないわよね~』
「むぐーー!?」
恐怖。それは死ぬより恐ろしい行為ではないだろうか。
ずっと、ずっとこれが続くなんて精神が耐えきれない。ファリアがここまで恐ろしいヤツだったとは。想定が甘かった。
メロウライン、気を付けろ!
こいつらは、お前の想定より確実に上を行っている! お前がいくら魔王に近き力を得ていても、こいつらはそれを喰らいかねないぞ!
「むぐぎーーー!!」
「チュウチュウ」
あまーい!!
もう食べたくない!!
もうだべたぐない!!
タスケテタスケテーーーゴメンナザイーー!!
そしていつしか、私達は考えることをやめた。
ただ、甘味に身体を埋め、ただの脂肪のかたまりと成り果てたのだった。
双子に
双子になんか生まれなければこんなことには
あんまりだ
あんまりだぁぁぁぁぁぁぁァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ――――――
ファリアの魔法が挿絵だけルビがあるのは敢えてです。
実際は文章の方を言っているようですが、同時に言葉ならざる魔法言語を発していつ模様です。
やっぱりオーライトの思った通り実力はかなり高い……?