第2話☆恐怖!! クモと男
はるなは、フレイムトーチを下級魔法と言っていますが、実際はもっとレベルが低かったり……
ホワヒレー!
突然ですが、はるな大ピンチです★
わたし、長良川のとある橋の下にあるダンボールでつくられた家、通称「デラックスミラクルはるなハウス」に住んでいるんだけど、その中に、どこからか体長5センチくらいあるクモが入り込んじゃったんだ!! こういう生活してると、そこそこの虫とかには慣れたんだけどクモとか野マムシとかスズメバチみたいな毒を持ってるのは無理です★もっとも、この世界クモは一概に毒をもってるわけじゃないみたいだけど、セアカゴケグモみたいなのもいるし、私の住んでた「エンターライズ」に至っては森とかにポイズンスパイダーって言うヤバいヤツが結構いて犠牲になった魔法使いも結構いるんだよ★しかも奴らの一部は次元移動能力をもってるらしく、ひょっとしたらこの世界にも来てるかもしれないんだ……だから、死にたくないのでつい警戒しちゃうのコワイよーブルブル★★
まごまご
まごまご
お得意の火の魔法〈フレイムトーチ〉で焼き殺……退治するのもアリだけど、ダンボールって燃えやすいから家ごとオダブツしちゃうんだよね(汗)。製作費0円だからいくらでも立て直すことるはできるけど、またダンボールを拾って組み立てるのは正直めんどくさいのでイヤです★何かいい方法無いかなあ?★
「おんめ、こんなとこでどーしたんね?」
「ひやわっ!?」
気が付くと私の横に、麦わら帽子をかぶったお爺さんが立っていました。味には長靴をはき、手には釣り竿を持っています。
「どーしたさ? まっさかあのダンボールの家に住んどるんかい?」
「……はい」
なんか人のよさそうなお方です。こうやってフツーに話し掛けてくるあたり「カサンドラの呪い」の影響を受けない人の1人なのかもしれないね! たまにこう言う人がいるんですが、今のところ共通しているのはおじさんとかおじいさんと言った壮年男性ばかりってことなんだよね。不思議だね☆私の故郷の魔法世界「エンターライズでは」大抵純朴な子供がこう言う呪いの影響を受けにくいものなんだけど、そんなセオリーは全く関係なしで、子供は皆はるなから懐かない猫のように逃げていくよ★子供の私が言うのも何だけど、あいつらはしょせん運命神の傀儡だね★とても傘を持った癒し系妖怪と猫型のバスなんかに乗れないと思うよ★
「ほー、でっかい蜘蛛がおるのお」
おじいさんは、プライバシーなどお構いなくダンボールハウスの中を覗きました。別にエロ本とかやましいものは置いてないけど、女の子の部屋は一種秘密の花園なので見ても良いかどうかは言って欲しかったです。ま、悪意無さげなおじいちゃんだから許しますけど☆
「なるかめなるかめ、まあ、別に悪させん奴じゃがなんとかしてあげよう」
そう言って、おじいさんは落ちている木の棒を拾うと、ダンボールハウスにズゥと入り、クモをガシガシバシバシペシペシと躊躇なくぶったたきまくりました☆うわ容赦ないです☆
クモさんはもちろん干物ペッタンコになって成仏しました☆それを、おじいさんは手で拾って、草むらにポイと情け容赦なく投げ捨てます★慈悲とか皆無です★価値観の違いを思い知らされますが、とりあえずかわりにわたしが手を合わせておきます南無阿弥陀仏☆(ちなみに、私は仏教徒でなくクルアース教信者だよ)
「ありがとうございます」
ちょっぴりモヤモヤしますが、とりあえずペコリと感謝のお辞儀をします。すると、おじいさんはカハハと豪快に、目じりに良い皺を作って笑いました。
「こんくらい、どーってことないわ。しかし、おめーも随分大変そうだなー。親御さんとかいないのけ?」
「……」家庭内事情は諸般の事情により言えません★
「そうかい、まー元気だしいや。そうだ!」
「?」何でしょうか☆
「今からアユを釣るからお前さんも手伝わんか?」
「あゆ……」
それはちょっと鼻声の有名歌手……じゃないですね☆川魚です☆この川で捕れるって聞いた事があるんですけど、私は昔のとある出来事により水に入るのが超苦手になっちゃったので無理です★
「採ったら焼き魚にして食わせたるでな」
「やります」
前言撤回です。
食べ物の誘惑には勝てません。
おじいさんにつれられ、青いバケツを持たされて川沿いまで足を運びます。ゴツゴツした小石が体を揺らすので上手いことあるけません☆はずなのに、おじいさんは推定3倍の速度で移動し、長靴のまま川に入ります。この川は浅いので、おじいさんのくるぶしちょっと上くらいまでしか水が被りません。
「んじゃあ、鮎釣ったら持ってくるに、ここで待っとけ!」
あ、水に入らなくていいんですねヨカッター☆
つまり、わたしのお仕事は釣った鮎を誰かに盗まれないように監視することなんですね~お安いご用ってやつなのです☆
キラキラと輝く水面の中で、おじいさんは釣りざおでピンピン魚をつります。川の真ん中あたりだと股下くらいまで水に浸かるのですが堂々たる態度。その道のプロの貫禄でしょうか、様になってます☆そして、腰の壺みたいなのに入った鮎がいっぱいたまると、その度にはるなのとこまで戻ってきてバンバンザーザー鮎をバケツに流しこみます。大した大きさのバケツじゃないから鮎がギュンギュンすし詰め状態になりました☆ひしめきあってピチピチしてます☆そしてついにはバケツが揺れ暴れて倒れてしまいそうになったのでわたしが必死でバケツを押さえることになるに至りました★なるほど、見張りの真の意味が解った気がします。暴走鮎が川に逃げるのを防げってことだったんですね☆☆よーし、頑張ってアユの反乱を押さえちゃうぞ☆☆輝きだした私達を止める権利はありません☆☆
☆☆☆☆
「んしゃ、この辺にするか」
バケツから魚の頭が出て口をパクパクさせているのが見えるようになったところで、おじいさんの釣りは終わりました。こちらも鮎の鎮圧で結構疲れました★お腹ペコペコだよ★
バケツを川辺から少し離れたとことに持っていくと、おじいさんは私に次の指示を与えます★うわまだお仕事があるんですか★
「木とか草とか、たんとここに持って来い。この鮎を焼くのに使うからの。」
おお、そういうことですか! 仕方ないですね~集めてきます☆
ガサゴソ
ガサゴソ
河原には流れ着いた流木が落ちているし、雑草もたくさん生えているので集めるのは割と簡単でした。
15分くらいで、草木が積み重なった焼き場が出来上がります。実にエコですね☆
「よし、じゃあ、火ぃつけるぞ……お?」
「ほえ?」
「あたー、ライター持ってくるの忘れたわ。ちょっと家まで取ってこんといかんな」
「それは、大丈夫ですよ」
「うん? お前さん何か火ぃ灯けるもんもっとるんか?」
私は、右手の人差指を立てます。そして、その先端に魔力を込めると、ポッと小さな炎が発生しました。
この程度の下級火炎魔法〈フレイムトーチ〉なら、魔法の杖なしでもお茶の子さいさいなのです☆いざ点火☆
ボウッ
流木たちはいい感じで燃え出しました。
大☆成☆功☆
「おんし、何したや?」
「えへへ」詳細は言えないので、笑ってごまかします。
「まあええわ、んじゃ」
おじいさんは、鮎を一匹バケツからつかみ出すと、肩掛け袋から割り箸を取り出して半分に割ると、その片割れをアユの口にブスッと差し込みました。うわー残酷です★ガーゴイルを槍で串刺しにするような世界に住んでたわたしが言うのもなんですけど★
メラメラ
パチパチ
いい音を立てて、天に昇るように突き立てられた鮎が、旨そうな油を滴らせながら焼けます。この清流の川魚というのは、小ぶりだけれど実に身が引き締まっていて、たとえお箸で歪められてもその曲線がまた美しい。魔法世界のどーんと大きいだけで味にも見た目にも繊細さの無いお魚さんたちには見習って欲しいとおもいます。脳筋だから無理だとは思うけど♪
「ほれ、食え」
焼けた鮎さんをおじいさんから渡されると、飢えたヘルハウンドさんのように、わたしは腹わた……めがけて勢いよくガブリとかぶりつきます☆ムシャムシャ☆お魚さんは食べると苦いとことかあるんですけど、こう腹ペコだとお構い無しです☆跡形もなく食べ尽くすよ。
「うまいか?」
「うん!」
社交辞令じゃありません。マジウマです☆☆とぶぞ☆☆いままでの人生の中で最高の魚料理だと行っても過言ではない☆☆☆道端の漁師に乾杯☆☆☆
「ハハハ! そこまでよろこんでくらたら、ワシもうれしいし鮎もよろこぶやろな」
いや、鮎は釣られて焼かれて食われたので嬉しいとは絶対に思ってないと思います。でも、社交辞令としてここはウンウンうなづいておくことにします☆
「ワシの孫もこんくらい喜んでくれるといいんやがな」
「おっじいさん、お孫さんいらっしゃるんですか?」
「お前さんと同じくらいの歳なんじゃが、菓子ばっか食ってばかりで魚なんぞ全然興味なしや。お前さんくらい大人しいいといいが、何せお転婆で困ったもんよ」
お、これはもしや、居候のチャンスでは☆
よし、上手く言いくるめようと試みてみますです☆
「あの、よかったら……その子のお友達になって……」
「あー、そうしてほしいもんじゃな。お前さんなら面倒見てくれそうじゃし」
「じゃあ……」
「じゃが、残念じゃのお。ワシはもうすぐここから居なくなるんじゃ」
「え……?」
「此処にずっと住んできたが、ばあさんも死んでもうてな。一人でやれる言うとったが、税金も余計にかかるのが年金暮らしには結構堪えるし、息子夫婦がどうしても一緒に暮らしたいってな。仕方なく、京都に引っ越すことになったんじゃ」
うわ、世知辛いです★このおじいさんが居なくなるって言うとこの世からいなくなってしまうみたいで尚に切ないです★居候になろうとかもうどうでもよくなりました諦めました★
「おそらく、もう、この川で鮎釣ることも二度と無いかもしれん。だから、今日はたくさん釣ったんさ」
「そうだったんですか」
「故郷を捨てるというのも寂しいもんだけど、家族は大切やでな。孫の顔をいつでも見れるのならそれもよかろうよ」
そういう、おじいさんの顔は寂しさで溢れていました。
きっと本当は諦めきれていないんですね。はるなだって、本当は故郷に帰りたいのです。気持ちは少しわかります。はるなよりもずーっと長いことここにいたんだのは間違いないですし、楽しい事も悲しい事もいっぱいあったんだと思います★けど、息子さん達がこっちに住んであげたらいいのになんて言うのはきっと浅はかなので言いません★
☆☆☆☆
鮎を5尾食べ終える頃には、太陽さんは大分西の山に近づいていました。いつもの事ですが夕方の川辺は、キラキラと淡いだいだい色に輝いてキレイです☆
「じゃあな、たっしゃで暮らせよ」
「はい」
「ワシも子供ん頃はひもじくての。食べ物もろくにありつけんことがあった。けど、そのお陰で物の大切さとかよーく解ったんよ。おんしも、今のうちにたっくさん苦労しとけ。それらは、仏様からの賜り物なのじゃ。いつかきっとお前さんの力となって、感謝するときが来るから」
「はい」
なんかためになるお話です☆ただ、はるなは仏教信者ではないので、仏さまのご加護を得られるかどうかはちょっと怪しいけどね★
川下に向けて歩き出したおじいさんの背中は、見た目よりもなんだか大きく感じました。ある種、老練な魔道士様のような気迫を感じさせるその後ろ姿を、姿が小さくなるまで暫しぼーっと眺めた後で、わたしは腕組みをしながらダンボールハウスに向かいました。
ありがとう、さようなら、おじいさん☆
今日の栄養の7割は摂れました☆
そんな感謝の気持ちに浸るのも束の間、衝撃的な光景がはるなの目に入ってきました★
「ギャワーー!?」
クモがいなくなったと思ったら、今度は何と、ダンボールハウスの中に大きなムカデさんがいるではありませんか★うわホント勘弁して欲しいよ★コイツはほんとしぶというえ動きも早くて毒確定だからクモより厄介★★キモいし最悪だよ★★
結局、その後四時間くらいムカデを追い出すために死闘を演じたはるなは、鮎で得られたカロリーを大量に消費してクタクタになってしまったのでした……神も仏もドSかよ……