第17話☆【1回戦13試合】母なる神のゆくえ
鹿児島の魔法少女イシュカは、維新を目指す反骨の志士。魔法少女交翅宴の場を、魔法世界エンターライズの腐敗を正す絶好の機会と捉えていた。
己の使命を遂行するため、優勝を目指す彼女の戦いが今、幕を開ける……
※今回ははるな目線ではないので、文章が普通です。
『さあ、1回戦も中盤から後半へ! 今回は岡山代表の美叶さんと鹿児島代表のイシュカさんの対戦です!』
司会進行役の大きく誇張された声が響く。
まったく、能天気だ。この前の試合では、ウラノーマによる血みどろの惨劇などもあったというのに。まるで、スポーツの試合と同じ感覚だ。観客も、ワイワイと食べたり、オペラグラスで覗いたり、各々がお祭り騒ぎをしている。
この私と、彼らには大きな乖離がある。
同じ魔法少女ですらも、価値観を共有できるのはほんのわずかだ。
真剣に生きている人間は、少ない。
正確には生きることが出来ないのだろう。身勝手な運命の神と言うものは、平等に分配をしない。
幸福も、苦しみも、バラバラに分配する。だから呪術師も生まれ、勇者も生まれる。ただ、そのどちらになるのも真剣に生きているもの、生かされるものだけ。あとは大きな不自由もなく大きな幸せも無い中途半端な時間を送り、最後まで幻想を見て天に還る。捕まえたトカゲを竜と思い込んだりして、淡い感覚の中で死んでいくのだ。それは、間違いというわけではない。しかし、世界の進化や変革には残念ながら寄与しないものだ。
いかに能力に恵まれようとも、芯となる「志」が無ければそれはフワフワと流れる雲にすぎない。いずれは自らの才能に食われてボロボロになる。
逆に、「志」があっても、それを貫くキャパシティが無いと大きな壁にぶち当たり躓き挫折する。
私は、後者だろう。そう、ありたい。
私は魔法使いとしての才能には恵まれていない。
どの魔法少女よりも劣るとまではいかない中途半端な落ちこぼれ。学校の成績はいつも中の下だった。しかし、意志の力なら、執念と呼ばれものなら、今は決して他に優るとも劣らないつもりだ。常に飢えて渇望している。ギラギラしたものは曲がりながらも持っている。
世界を救う。
弱者を助け、上層部に蔓延る腐敗の根を断つことが我が使命。私のような者を生み出さない世界にするのが、わたしが望むべき事で、成し遂げなくてはならないことだ。
それは、復讐でもある。
だから、この大会でその道を示す。
『それでは、試合開始です!』
相手の魔法少女、美叶。
あまり接点はないが、情報はシーザからもらっているのである程度分析済みだ。リボン付きベレーをかぶりいかにも正統派という見た目だが、水属性で雲魔法を得意とし、水蒸気を発生させたり霧で視界を奪う撹乱戦術を得意とするトリックスターだ。ただ、この魔法少女交翅の前身の大会にも出ていたようだが、2回戦どまりだったらしい。魔法少女達は他にも水属性の子が多いため、同属性の戦いは実力差が出やすいのもあるだろうが、二重属性の天才が参加していたのが大きいだろう。
「《ディープミスト》!!」
予想どうり、美叶はフィールドに霧を発生させ、姿を見えなくする。これにより気温も低下したのだろう、ひんやりとした湿気を肌で感じる。
次の動きは、おそらく距離を取っての魔法攻撃だろう。
「《ポイズンミスト》!!」
どうやら霧に毒を混ぜるようだ。回避することは難しい、魔法少女にしては随分とセコいやりかただ。だが、気づいているだろうか、私にはこの手段が通用しないことを。生まれつき毒に対して耐性を持っているしているからこの霧で薄まった毒で。
すこし、芝居をことにした。
その場にしゃがみこんで、あたかも毒が効いているように見せかける。まさに誰にでもできる子芝居だ。これをすることで、向こうがこちらを見えているかどうかの確認と、安易に仕掛けてくるかどうかを見定める。
「スキあり!! そこだあっ!!」
やはり、見えていたか。そして、不用意に接近してきた。決着は早そうだ。
私は、スッと立ち上がる。
そしてカウンターの魔法を放った。
「油断したね……《シャドウバインド》」
「しまった!?」
闇の鎖が美叶の体を縛り付け、完全に動きを止めた。
「それは、魔法の力も弱める。簡単には抜け出せない」
「ううっ!」
必死に打ち破ろうと、うなる美叶。
しかし、時すでに遅しだ。
「終わりにしよう。闇は生への抱擁(抱擁)……《ダークネス・デリンジャー》」
「あああっ!!」
闇の波動が美叶を吹き飛ばし、体を壁に激突させる。たちこめていた霧も吹き飛んだ。
『決まったかー! …………美叶さん、立ち上がれません! 戦闘不能!! 決まったー! イシュカさん、難なく1回戦を突破ですっ!!』
美叶は倒れたままだが、痙攣を起こしているだけで幸い死んではいないようだ。あの魔法は威力が高いから、少しだけ的をずらして力を加減したのは正解だったと思う。悪人には死を与えなければいけないが、それ以外の人に対しむやみに死を与えてしまうのであれば、私自信の評価を下方させねばならないだろう。
維新への初戦は、ひとまず問題なく終わった。
しかし、戦いはまだ始まったばかり。何とか命を失わずに決勝まで確実に進まなければならない。
地母神「キュベリオス」様が見つからぬ以上、私たちで何とかしなければならないのだ。
ああ、あなたは今どこで事の成り行きを見ているのでしょうか。
どうか。
どうか。
姿をお見せいただけなくとも、どうか、この不肖の魔法使いに大願成就の御加護を。
沸き起こる歓声のなか、偽りの空を見上げ、声なき声で、私はしばらく祈りを捧げた。
イシュカはサブ主人公みたいな感じです。
卑屈謙遜ぎみですが、能力的にはかなり……