君と僕らの英雄譚 その7
僕が目を覚ますと、窓の方から夕焼け色の光が部屋に入ってきていた。いい時間に起きられたようだ。僕はベッドの周りに積み上げられた本や、部屋に散らかった本を蹴らない様に部屋をあとにした。部屋を出るとルーチェとマリアがリビングで横になって寝ていた。夕焼けに反射する美しい黒髪とプラチナブロンドの絹のような髪が美しく光る。
「じゃあ僕はそろそろ出かけるんだけど、後のことは頼んでいいかな?」
ぐっすり眠っているふたりを起こすのは気が引けるんだけど、この村のことを任せるのだから適当にしてはいけないと思い、二人を軽く起こした。
「ん、んああ、もうこんな時間か…」
「ふあぁ…。おはようございますアモール様」
「うん。おはよう。よく寝てたね。起こしてごめんよ」
「いえ…」
マリアは眠たそうに答える。
「そうだ。アモール。頼みがあるんだよ」
ルーチェがはっとしたように僕に問う。
「私も、その、出店に連れて行ってくれないか?」
正直驚いた。どうしてと、僕が聞く。
「じ、実はな、私は幼い頃から王都で騎士の訓練ばかりさせられてきて、地理に疎いのはもちろん、この村と王都と故郷しか知らないのだ。それであ、あの、見学というか…」
顔をうずめながらもごもごした口調でルーチェが言う。
「僕は構わないんだけど、マリアはその、大丈夫なの?」
「正直、アモール様と私の仲を邪魔することは不満ではありますが、昼過ぎからずっと頼まれてしまっては私も諦めると言うか」
「そういうことなんだよ。なっ!頼む!」
「うーん…まぁ、そういうことなら。連れていこうか。ってことはこの村にはマリアがお留守番することになるけど、大丈夫?」
いくらここ10年魔物が襲って来たことがなくても、いつ襲いに来るかはわからない。そんな中で修道女のマリアだけを残していくことは不安なのだ。
「一応これでも魔術師の資格は持っていますし、アモール様がこの村近辺に結界を張って頂けるのなら大丈夫かと」
「それぐらいなら、やらせてもらうよ。もしもの事があったら僕の自室に逃げてね。あそこだけはきっとどんな魔物にも破られない」
そういってポケットから鍵を渡す。
「じゃあ結界を貼ってくるから、ルーチェは自分の荷物まとめておいてね。マリア、結界の手伝いをしてくれるかい?」
「ええ、お安い御用ですわ」
ルーチェは自室へ戻り荷物をまとめている。僕ら2人は村を囲むように建てられた柵へ、結界を張る為にむかった。
少しの時間が経ちーーーー
「じゃあ行こうかルーチェ」
「頼むぞ」
「いってらっしゃいませ〜。帰る際には風魔法で知らせてくださいね〜」
馬車を走らせ村の正門へと向かう。屋敷から正門までは一本道だ。屋敷からの一本道の脇には小麦畑がひろがり、それらはまだ若い色と夕焼けの色を帯びている。少し行くと川を越えるための橋がかかっている。橋からはマリアの住む協会や、今は居ないが村の子供たちの家が転々としているのが見えた。
人口が少ないので仕方ないが、少し寂しい。
橋を渡り、野菜畑の脇道を通ると正門が見えてくる。夕暮れを背に僕とルーチェと売り物を載せた馬車が街へと向かっていった。
続く




