君と僕らの英雄譚 その6
僕らがマリアの元へと向かうと、マリアは暇そうにベンチに腰掛けていた。その様子だと頼み事はこなしてくれたみたいだ。
「マリア、お疲れ様。ありがとうね」
「いえ。以前からお手伝いさせていただいているのですから、このくらいへっちゃらです」
「はは、頼もしいね」
マリアは僕がこの村を作ってからすぐに、ここへ住むようになった。小さい頃からマリアのことを知っているし、よく手伝いもしてくれたものだ。
「それで、アモール。マリアが教えてくれるんだろ?」
「あぁ、そうだった。ねぇ、マリア」
「なんですの?」
ルーチェが魔力のことや、魔法のことについて教えて欲しいということをマリアに伝えると、得意そうに承諾してくれた。
「では、説明させていただきますわね。ルーチェさんも分からないところがあったらなんでも聞いてくださいまし」
再び得意そうに言う。実際、マリアの魔法技術は王都でもやっていけるほどではあるんだけど。
「魔法を唱えるためには、魔力というエネルギーが必要になるのです。この魔力というのは、大きくわけて二つ。大気魔力と体内魔力に分けられます」
地面に図を書きなら説明を続けていく。
「大気魔力を生成するのは精霊と呼ばれる存在ですが、体内魔力はその体の持ち主でしか生成できません。ものからものへと移すことは可能ですが」
「どうして大気魔力と体内魔力は別物なんだ?」
ルーチェが疑問に思う。
「簡単に説明すると造りが異なるのですわ。異なる形の魔力は一つになれないという単純な理由ですわ」
世界を保つための魔力が大気魔力。持ち主の体を保つための魔力が体内魔力なのだ。基本的には大気魔力は、植物と精霊以外は取り込めないと言われている。難しく言うと、受容体がどうとかなんだけど、まあ、そのへんは僕らも詳しくないんだよね。
「間接的には取り込むことは出来るんだよね。植物とかは大気魔力を取り込んで、体内魔力に変換するから」
「そうですわね。そして、取り込んだ動物が死ぬと、その死体から残った魔力を精霊たちが取り出し大気魔力へと変換するのです。魔力は回っているのですわ」
「死んだら魔力は尽きるんじゃないのか?」
ルーチェが再び聞く。
「寿命や損傷で死に至る場合と、魔力を使い切って体を崩壊させながら死ぬ《崩壊死》というのがありますの。後者の場合が起こらないように、魔力不足になると気絶したり、体が動かなくなるようになったりという防衛反応が起こるので、崩壊死はおこりにくいのですが。崩壊死でなければ、体の形を保つための魔力は残っていますので、その魔力が徐々に大気魔力へ変換されることで、体が朽ちるという現象が起こるのです」
生命活動を行う力の源として機能する他に僕ら自身の体を保つための魔力が存在する。一つでも欠ければ命を続けていくことは不可能になってしまうのだ。
「大昔には、リミッターを外して全魔力を活動限界まで使い切るという禁呪も存在したようではありますが、まぁ伝説でしょうね。そんなもの魔法ですらないですから」
ルーチェがぽかーんとして説明を聞いているようだ。実感がわかないのも仕方の無いことだろう。僕らのように魔法と密接に生活している身としては、知っておく必要があるが、騎士などの魔法を使わないような生活を送る人にとっては、本能的なことであり、知る機会というのも少ないものだから。
「そうだ、ついでだから魔法のことも教えてくれよ」
ルーチェが興味ありそうにマリアへ顔を向ける。仕方ないですわね、といわんばかりの顔で説明を始めた。
「火魔法や、水魔法などの外的魔法は大気魔力を使う必要がありますが、筋力増強や、視力増強などの内的魔法は体内魔力でしか行えない、というのが世界の常識ではあります」
「じゃあ、その、外的魔法?は使えなくても、身体能力をあげる魔法なら使えるかもしれないのか?」
「こればかりは個人差でありますが、外的魔法を使うための魔力の操作も、内的魔法の魔力操作もあまり誤差はないのです。魔術師の方はあまり体が強くない傾向にあるので、内的魔法を使わない人が多いのですわ。体か強い人は、内的魔法も外的魔法も使えて便利というだけです。ルーチェさんは魔法が得意では無さそうなので、内的魔法も使えないのではないかとおもいますわ」
「くっ!せっかく魔法が使えると思ったのに!」
「まぁまぁ、魔法なんて使えなくてもぼくらにはない長所があるじゃないか。きみには」
「あんまり嬉しくないんだが!」
怒られてしまった。
「それでルーチェさん。まだ分からないことは有りますか?」
「うーん。おおまかな定義はわかったんだけど、やっぱり実感がわかないかな。でも、いつか使えるようになると信じてみるぞ」
「貴女は魔力量だけはおおいですものね」
僕はこの会話に少し気になるところを感じていた。が、もう昼も過ぎてしまったので、夕方の出の為に仮眠を取らなくてはという考えに押され、違和感を忘れてしまった。
「そろそろ、僕は仮眠をとることにするよ。お昼ご飯、作ってあげられなくてごめんね。出店から帰ったら、つくるからね。2人とも今日はありがとう」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいですわ」
二人にそう告げて僕は屋敷の自室へと戻っていく。日差しは柔らかく微睡んでしまいそうだ。
出店のことを考えながら欠伸をし、僕は自室のベッドへと就いた。
続く




